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まいったな

「予想通りの動きだな」

「そうですわね」

「そうだなゲンボクちゃん」


 リザが生み出した光学衛星のモニターには、予想通り山中に足を踏み入れていく偽サバゲープレイヤー達が映り込んでいる。

 おおかた山中をローラー作戦で探索するのだろう。

 ご苦労なこった。


 山中からリザの痕跡など見つかりっこない。

 但し唯一の懸念は、リザが墜落した「原因」を発見されてしまうことだ。

 そいつは恐らく俺の三番目の金玉と同類であろう。


 アリスに残された記憶によれば複数の胞子が一つの惑星に落下することは極まれにあるらしい。

 但しその状況は非常に限られる。

 というか一つの理由しかないそうだ。


 それはマザーからほぼ同時に宇宙へとばらまかれた胞子が、いわゆる「スリップストリーム」の状態になってしまう場合。

 宇宙とて完全に真空ではないので、先に行く胞子の後ろには低圧域ができる。

 そこにもう一つの胞子が追随するそうだ。


 しかしこの状態は前を行く胞子にとっても後ろを行く胞子にとっても歓迎される状態ではない。

 胞子の目的はどこかの惑星で食物連鎖の頂点に立つ種族に取りつき、それを支配すること。

 なので複数の胞子が同一の惑星に落ちてしまうのは、無駄な争いを発生させてしまうだけなのだ。


 だが残念ながら惑星を発見するまでの胞子は仮死状態に近いので、それぞれが道を譲り合うことはできない。

 しかも先を行く胞子が惑星を発見するとすぐに後ろの胞子も同じ惑星を発見し、エリアを固定してから探索を開始するので、落下時刻に差異は出るものの、落下地点はほぼ同じ場所になることが多いらしい。

 恐らく俺の金玉が先行し、リザを落とした胞子が後ろにいたのだろう。


 こうなってしまった場合は「互いに仕方がない」ということで、最終的には眷属同士でつぶし合う。

 こうした最終戦争を「ハルマゲドン」というそうだ。

 そのまんまだな。


 つまり、あの山中にはリザを落とした胞子が眠っている可能性があるということ。

 理想はそのまま発見されないで山中に埋もれていてほしいが、そうではない場合は、できれば俺はそれを自由の国の軍隊に発見してほしいと考えていた。

 なぜならばそれが一番マシだから。


 誰であろうと支配されてしまえばそれまで。

 しかし軍隊ならばあるいは胞子に憑りつかれずに回収ができるかもしれないし、誰かが憑りつかれたとしても軍や本国が対処するだろう。

 実はここがポイント。


 なぜならば自由の国の軍隊以外に初期動作で対応できそうな存在は日本国内にはないのだ。

 ここで自分とアリス達を引き合いに出すのは的外れかもしれないが、例えば俺達が自由の国の軍と相対した場合、局地戦での俺たちの勝利はあり得る。

 しかし例えば隔離されたらどうする。

 兵糧攻めにあったらどうする。

 そう、少なくとも俺達はとある漫画に出てくる地上最強の生物などではないから。


 ということで、完全に他力本願になっている俺たちにできるのはモニターを監視することだけ。

 軍人さんたちは注意深くしかし迅速に山中を探索していく。


 期待通り午前中は何もなかったらしく、サバゲーフィールドを中心にきれいな反円を描いていた軍人たちの位置が中央に集まってくる。

 昼食の後、再び半円状に広がっていく軍人たちの軌跡を追っていると、リザがあることに気づいた。


「おや?」

「どうしたリザ?」

 するとリザがモニターの一部を切り替えた。

「マーガレットとやらが、農道を登っていくのだが」

 動きを見るからに、何か特別なミッションがあるわけでもなく、単に退屈しのぎのハイキングなのだろう。

「一応監視しておいてくれ」

「わかった」


 農道の先は、もともとはダムにつながっていたのだが、過去に土砂崩れが発生してから放置されている。

 この状態も俺達にとっては有利なんだ。

 なぜならば恐らく今日の探索で何も出なければ、その後は軍はダムの向こう側にある隣県の市から山中の探索に入るしかないから。

 つまりこの村に関わる探索は今日で終了となるはず。


 案の定、軍人たちが描く軌跡は大きく半円状に広がり、北方面は県境に達している。

 このまま探索が終了すれば全く問題はない。


 しかし、問題は起きてしまった。


 間もなく17時というところで、マーガレットを先頭に自称サバゲーマニア共が村役場に戻ってきた。

「いかがでしたか?」

 愛想笑いを浮かべている俺にマイケルと名乗ったにーちゃんが答えた。

「タノシマセテイタダキマシタ アリガトウ」

「また来るかい?」

「イエ、ジュウブンタンノウシマシタ」

 まあそうだろうな。

 あれだけ探索しても何も出てこなければ、次はさらに北側の隣県に出向くしかない。


「ところでマーガレットさんは?」

「タイクツシスギテネムッテイマス」


 退屈ね。

 兄貴の目線ではそう見えるのだろうな。

 こうして俺達は、事件がない限りはもう二度と来ないであろう自称サバゲーマニアである自由の国の軍隊を見送った。


 今後必ず事件が起きるという確信を持ちながら。

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