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フィールドお貸しします

 それは警察署長らが弾丸を届けに来た翌日のこと。

 開庁早々、熊爺さんが村役場に紙きれを一枚持ってきた。


「ゲンボク、これを見てくれ」

「何だよ爺さん」

 爺さんから受け取った紙は警察署長から俺宛の個人的なFAXだった。

 どうやらマーガレットが山奥にあるサバゲーフィールドの話を彼女の友人にしたら、ぜひそこでプレイしたいとマーガレットを通じて頼みこんできたとのこと。

 ついては一日フィールドをレンタルしてほしいそうだ。


 胡散臭さ満開だな。

 横から文面を覗き込んでいるアリスに至っては、我慢できずにぷっと吹き出してしまっている。


「アリスは何がおかしいのかは知らんが、これは警察署長の個人的な頼みで警察は関係のない話じゃからな」

 迷惑そうな熊爺さんの反応を見る限りでは、少なくとも熊爺さんは文面そのままで受け取っているのであろう。

 そうなると次に怪しいのは警察署長だが、こちらもこんな面倒なことをしなくても方法はいくらでもある。

 となるとやはりマーガレットと、その背後にいる連中が怪しい。

 ちなみにマーガレットがスマホで覗き込んでいたのは地図アプリだと、とっくにアリスが気付いていた。


「熊爺さん、あそこは村長の土地だから、念のため村長に確認を取ってくるよ。それから注意書きをさせてもらってもいいかな?」

「おう。断りさえしなければ署長の顔も立つだろうから、何でも書いてくれ」

 よし、それでは早速村長のところに行ってくるとしよう。


 村長には署長からの文面をそのまま見せ、使用許可をもらった。

 なお、有料にすると賃貸契約が成立してしまうため、あくまで私有地を善意で貸すことにするようにとのアドバイスをもらった。


 それ以外の注釈は次の通りとした。

・使用は村役場の開庁時間である8時から17時までとすること。

・村役場職員の指示に従うこと。

・使用する弾丸は自然にやさしいバイオ弾のみとし、ペイント弾などは使用しないこと。

・村には商店も自動販売機もないので、食料飲料は全て持参し、ゴミは持ち帰ること。

・山中での事故など一切について村長、村民、村役場いずれも責任を負わないこと。

・来た時よりも美しく。


 その後アリスを伴って駐在所に出向き、熊爺さんに文面の確認をしてもらう。

「本当に貸してもよいのか?」

「村長がいいと言っているのだから構わないだろ」

 本当は貸したくないというか詮索されたくないのだが、一度は調査をさせないとあいつらも納得しないだろうし、かたくなに拒んでこちらに疑いの目を向けられるのも注目されてしまうのでよろしくない。


「よし、それではこれで返信させてもらうぞ」

 ちなみに送信するのは駐在所からのFAXだし受信先は警察署のFAXになっている。

 これは警察署長自ら公私混同ということだな。


 すると午後一番には再度FAXが駐在所に届いたらしい。

 熊爺さんが小町から買ったチューチューアイスを吸いながら紙を一枚ぴらぴらとさせた。

「ゲンボク、明日一日使用したいということじゃ」

 平日の朝からサバゲーとか怪しさ満載だが、その辺の感覚が日本と自由の国では異なるのだろう。

 もしくは切羽詰まっているかのどちらかだ。


「了解、朝から使用できるようにエミリアとリザにフィールド整備を指示しておくよ」

 こちらも準備をするとしよう。


 さて、所変わってこちらは県警本部がある県庁所在地。


「オジサマアリガトウゴザイマス、マタアソビニイキマス」

 そう愛想よくスマホに向かい、通話を終了した後、マーガレットはため息をつきながら別の連絡先を選択した。

 市外局番は自由の国の基地がある隣県のもの。


「もしもし兄貴?」

「俺だマーガレット」

「言われたとおり明日8時から17時まで、サバイバルゲームの名目で場所を押さえたわよ」

「すまんな、ところですまんついでに明日はお前も同行してくれ」

 ある程度予想はしていたが、さすがにマーガレットは顔をしかめた。

 なぜならば、あんなド田舎に行っても楽しいことは何もないから。

 料理も内臓のカレーとかおかしな味のシチューとか、ろくでもないものばかりだったし。


「嫌だと言っても無理やり連れて行くんでしょ?」

「まあな」

 確かにマーガレットが同行した方が村人たちも警戒を薄めるだろう。


「でも、私が見た限りでは何もなかったわよ」

「送られてきた写真を見る限りマーガレットの言うとおりだが、万が一でもあれが日本に見つかるとまずいのでな」

「そういうことね。でもそんな危ない橋によくも警察署長を利用しようとしたわね」

「そりゃそうだ。俺達の看板で動くわけにはいかないし、権力は利用するものだからな」

「わかったわよ。車には車載冷凍庫と冷蔵庫を忘れないでね、まだ暑いんだから」

「了解」


 電話を切ると、再びマーガレットはため息をついた。

 田舎訪問とかではなくて、もっと面白いことがないかしらと。


 するとマンションのインターホンからメロディーが流れた。

 防犯カメラを確認すると、そこには若い男の姿が映っている。

 そういえば今晩は署長が猪鍋の口直しにとフレンチをごちそうしてくれるんだった。

「圭さん、すぐに準備を整えますから、来るまでお待ちください」

「わかりましたマーガレットさん」


 若手警察官の啓司圭は、署長に公私混同でこき使われている。

 そのほとんどが署長の送迎や買い出しなのだが、たまにこうした美味しい仕事も回ってくる。


 圭は安月給をはたいて購入したスーツの襟を整えながら、麗しのマーガレットが彼の車に乗り込むのを今か今かと待ったのである。


 署長と同様、マーガレットも彼を下僕扱いしていることには全く気付かずに。

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