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金髪娘

「案内すると言っても何もないところですが」


 謙遜でも何でもなく、この村には何もない。

 しかしマーガレットとやらはスマホを片手に、わざとらしくあっちを向いたりこっちを向いたりしながら俺達の後についてくる。

 まあいいか。

 特に何を聞かれない限り、答える義務もないので、俺はマーガレットが何かを話しかけてくるまで無言でいることにした。

 小町も金髪娘には全く興味がないらしく、俺の横にぴったりと寄り添いながら歩を進めている。


「それでは私は役場に戻るの」

 役場の近くに来たところで、小町は小走りに駆けて行ってしまった。

 その間もマーガレットはスマホの画面を見つめながらあっちこっちを向いているだけ。

 すると小町と入れ替わるようにアリスが役場からやってきた。

「お待たせしました、こちらがマーガレットさんですね、アリスと申します」

「マーガレット」

 これはひどい。

 署長がいる前ではニコニコしていたが、俺とアリスの前では無表情というか高飛車というか石ころを見つめる目線というか、とにかく不愉快だ。


「この辺で村も終了ですから派出所に戻りましょう」

 少々頭にきたのでマーガレットに対し慇懃無礼にそう話しかけると、なぜかマーガレットは少し慌てたようなそぶりを見せた。

「ヤマノナカモシャシントリタイデス」

 そう言いながら俺達を置いて一人で歩を進めようとする。

 仕方がないなあ。


「危険ですから水先案内はしますよ」

「コッチニイキタイデス」


 それまではあちこちとスマホを向けていたマーガレットが、突然一方向に歩き出した。

 よくよく見ているとスマホで写真を撮っているのではなく、何やら通信をしているようだ。

 そういうことか。


 すると先程の若い警官がこちらに向けて息せき切りながら走り寄ってきた。

「あの後署長からマーガレットさんの護衛の命を受けたんだ」

 などと言っているが、恐らくはあの場から逃げ出してきたのだろう。

 俺達のけげんそうな視線を気にすることもせず、警官はフランクな態度で挨拶を続ける。

「俺は啓司けいじけいだ、よろしくな」

「俺はキノコゲンボク、こっちはアリスだ」

「アリスと申します」

 圭ちゃんとやらがアリスの姿に息を飲むのがわかったよ。


 この後は山道をスマホとともに進むマーガレット、それを無言で追う俺、アリスにひたすら話しかける圭、愛想笑いを返すアリスの四人で山中散歩をすることになった。


 しばらくすると山林が途切れ、目の前にぽっかりと空き地が現れた。

 するとマーガレットが今までとは別人のような興奮した表情で俺に振り返った。

「ココハナンデスカ?」

「サバゲーフィールドだ」

「サバゲー?」


 ここは一見すると雑草が茂った空き地に見えるが、中央付近と東西の端っこに盛土がしてあり、しゃがめば人が隠れられるようになっている。

 北側には古い会議テーブルを改造した台座に、空き缶やらビール瓶やらが並べられており、南側にはスノコが敷かれている。


「ホントデスカ?」

 マーガレットは明らかに俺を疑っているようだ。

 おかげで俺の疑いも確信に変わったけれどな。

「なんなら実演させてみようか? ちょっと待っていてくれ」


 その後迎えに行った俺とアリスとともに、エミリアとリザが「アドバンスド山ガール」の姿で喜び勇んでやってきたのはいうまでもない。


 ウェービーブラウンの長髪を団子にまとめたグラマーとシルバーの髪をピクシーカットに切り揃えたクールビューティーが日米自動小銃を抱えてくる様に、さすがのマーガレットと圭も目を丸くししている。


 さて、ここにウソ情報も紛らわせておこう。

「この二人は熊爺さんのモデルガンコレクションにすっかり感化されてしまってな、あげく自分たちで山を開いてこの場所をこしらえちまったんだよ」


 実際にはリザもエミリアも熊爺さんのコレクションを見る前からハマっていたのだが、熊爺さんに責任を押し付けることにする。

 山を切り開いたのはリザの本体だが、リザの本体は部品のかけらや塗装の剥がれなども含めて全て仮世に移っているので、ここにはリザの痕跡は一切ない。

 消火に使用した薬剤も全てエミリアが中和済みなので薬物反応は一切出ない。

 焼けた土は引っぺがして全く別の山中に撒いてしまった。

 なお、この山は村長の私有なので使用に関しても問題ない。


「ところでゲンボクちゃん、勤務時間だけれどいいのかい?」

「お客さんの希望だから仕方がない」

「エミリア、三分後に開始だ、ゲンボクちゃんたちは危ないから観戦席にいてほしい」

 いつの間に観戦席なんてこしらえたんだこいつらは。

 いつの間にか山中に散っているしあいつら。


 しばらくの後。

「今日は私の勝ちだよリザ!」

「くっ、殺せ、殺してくれ!」


 などと中央のフラッグ辺りではしゃいでいる二人の姿に、マーガレットと圭はあんぐりと口を開けている。

 実は俺もだが。

 あいつらガチじゃねえか。

 こほん。

「まあこんなもんだ、田舎で娯楽も少ないのでな」


 すると良いタイミングで赤ら顔の熊爺さんが署長と地域課長を連れてやってきた。

「なんじゃいお前ら、わしは仲間外れかい」

 実は熊爺もここで遊んでいるらしく、すっかりなじんでいる。


 ここまで見せればさすがにマーガレットも納得するしかないだろう。


 でもないか。

 まだ何か引っかかっている表情だなあれは。


 用心しておくとしよう。

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