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駐在さん

 それは千里が免許取得前の取得時講習を受講するために、ゲンボクとアリスの三人で朝四時から街に出かけて行った日のこと。


 いつもの時間に小町とエミリアは目を覚まし、いつものように朝食の準備と洗濯の前に、ゲンボクのところにおはようのキスをいただきに伺ったところで、彼らが早朝に外出したことを思い出した。


「今日もお留守番なの、つまらないの」

「あと一回で免許が取れると言ってたから、それまでの辛抱だね」


 置いてきぼり気分で、なんとなくやる気は出ない。

 しかしそこは料理好きに洗濯好きの二人。

 寝間着から部屋着に着替えると、やるべきことはキッチリとこなしていく。

 するとリザも、もぞもぞと起き出してきた。

 

「おはよう、小町殿、エミリア殿」

「殿はいらないの」

「殿はいいから、さっさと顔を洗ってきな。それからゲンボクちゃんと致した後はちゃんとショーツをはくんだよ。お腹が冷えるからね」


 言葉遣いとは裏腹にだらしなさ全開のリザの寝間着姿。

 と言ってもアリスのロングTシャツがそのまま寝間着になったのだが。

 ごそごそとお尻丸出しで寝室から出てくるリザにエミリアがタオルを投げてやる。


 小町とエミリアは、アリスと違いゲンボクに対する独占欲は希薄なようで、皆と同じように可愛がってもらえればそれでいいらしい。

 小町などは「三日に一回で十分」と宣言し、ゲンボクを落胆させたこともある剛の者である。

 エミリアもどちらかという耳年増なところがあり、新たなプレイを試してみたいという欲求の方が強いだけで、特にゲンボクに回数を求めるようなことはない。


 そんな二人なので、意地悪になったゲンボクがリザを彼女の小部屋で責めていても、小町は知ったこっちゃないし、エミリアはあたしにも試してほしいと思うだけ。

 という訳で、この二人はリザに対しては特に何の悪感情もないのであった。

 

「ゲンボクちゃんがいないから朝食は簡単なのにしたの。リザが好きそうなの」

 そう呟きながら小町が用意した朝食はトーストにスクランブルエッグとバターミルクスープ。

 それにサラダ。

 まさかの「アメリカンブレックファースト」にリザが驚いた。


「小町はこうした朝食も作れるのか!」

「当たり前なの、こんなの簡単なの。簡単だとゲンボクちゃんに申し訳ないの」

 どうやら小町はゲンボクにこうした簡単な朝食を出すのは無礼だと思い込んでいたらしい。


「でも小町、あたしはこの朝食も美味しいと思うよ。休みの朝食にはいいんじゃないのかい?」

 美味しそうにスープを味わった後、エミリアが小町にそう提案した。

「このスクランブルエッグは絶品だぞ! すごいな小町は! ところでおかわりは頼めるのか?」

 先日のゲンボクオムレツに続いての洋食に、リザの食いつきはすさまじい。


 久しぶりと言っても、記憶の中だけのことではあるが。

 何となくうれしくなった小町は、リザ用に追加のスクランブルエッグをフライパンの上でかき回しながら考えてみる。

 今度ゲンボクちゃんにも、ホテル風スクランブルエッグを用意してみようかなと。

 

 こうして女三人の朝食も無事終了。

 エミリアは洗濯物を干し、リザはエミリアの指示で皆の布団を干し始めた。

 小町はお弁当を準備した後、今日のお惣菜について最後の材料確認をし、それをカゴに入れていく。

 先に仕事着に着替えたエミリアが食器を洗っているうちに、小町とリザも出かける準備を終わらせた。

 こうして三人は仲良く村役場に出勤したのである。


 ショートジャケットにスリムジーンズ姿で物騒な得物バトルライフルをバッグに結わえて肩に掛けている銀髪ショートのお姉さんが颯爽と闊歩する。


 白のつなぎ服(ボイラースーツ)の胸元から魅せブラを豪快に晒しながら、無骨な革製ボストンバッグを片手に抱え、ブラウンの髪をたなびかせたお姉さんが闊歩する。


 重ね着した可愛らしいブラウスとフレアミニをひらひらさせながら、ランドセルタイプのバックパックを背負った黒髪おかっぱロリがその後を可愛らしく追いかけて行く。


 三人からは、モデルさんもかくやというばかりのすさまじい「アイキャッチオーラ」が発せられている。

 それはこの世の若いオスをすべからく目覚めさせるエナジー。

 が、残念ながらここはレッドカーペットではなくど田舎のアスファルト。

 三人は農作業や山の手入れに行くじいさまやばあさまとあいさつを交わしながら、何事もなく村役場に到着するのであった。


 役場でいつもの配置に着いた三人のところに、じいさんの一人が楽しそうにやってきた。

「猪が罠にかかったから、今から駐在さんを呼びに行くのじゃが、お嬢ちゃん達も見に来るかね?」

 まず反応したのが小町。

「猪鍋なの。牡丹鍋なの」

 素直に疑問を持ったのはエミリア。

「猪と駐在さんと、どんな関係があるんだい?」

「駐在さんに公費で止めを刺してもらうためじゃよ」

「公費で?」

「拳銃でぱんぱんぱんじゃよ」

 これに食いついたのがリザ。

「ぱんぱんぱんだって!」

「ぱんぱんぱんじゃよ」

 ということで、三人は受付に「外出中」の表示を出して、じいさんの後についていくことにしたのである。

 

 実はこの村には、ゲンボク達の他にもう一人公務員がいる。

 それが駐在さん。

 いわゆる警察官である。

 なお、この村における駐在さんは、なし崩し的に「世襲」となっている。

 ちなみに今の駐在さんは明治維新から数えて三代目らしい。


 もともと駐在さんの家系は戦国時代後期にこの村に流れてきた鉄砲鍛冶だった。

 村に鉄砲をもたらしたご先祖様は、そのままこの村の「鉄砲鍛冶てっぽうかじ(けん)猟師頭領(りょうしとうりょう)」となったそうだ。

 ご先祖様は自前で弾と火薬をこしらえて、村の仲間とともに火縄銃でぱん!と獲物を狩っていたのだが、明治以降の法改正により、自前で弾をこしらえることができなくなってしまった。


 同時にこの村にも官憲の波が押し寄せた。

 但しあまりにもこの村が田舎過ぎて波は一気に引いていくのだが。

 そのときに鉄砲鍛冶のご先祖は考えた。

「警官になればお上から合法的に弾をいただける、しかも無料で」と。

 こうして鉄砲鍛冶師はこの村初の警察官となり、鍛冶場はそのまま駐在所となったそうだ。

 

 ところで現在の駐在さんだが、普段はこんな村で事件が起ころうはずもなく、暇で暇で仕方がないので、他のじいさんたちと山の手入れを行ったりして、まったりと生活している。

 

「駐在さんや、猪が罠にかかったぞ」

「おう、久しぶりの出番であるな」

 じいさんの呼び声に、駐在所からのそっと姿を現したのはまるで熊さん。

 そう、熊爺さんというのはこの村の駐在さんだったのである。


「おや、新顔のお嬢ちゃんかな?」

 村のじいさんばあさんの中では若手に属する熊爺さんは今日も元気。

 リザを見つけると腰にホルスターを装備しながら楽しそうに彼女たちに尋ねてきた。

 そこですかさずリザの背中に気付く。


「ほう、『海兵隊仕様』か。お嬢ちゃんもマニアじゃの」

「わかるか爺さま! ところでその腰のは……」

「官給品だから触っちゃいかんぞ、見るだけならいいがな」

「わかっている、わかっているとも!」

 熊爺さんが腰にぶら下げた得物にすっかり興奮状態になったリザを置いて、小町とエミリアは、半ば呆れながら案内のじいさまの後を追って行った。


 そしてしばらくの後。

 ここは村からさらに奥に入った山の中。

「村からの『有害鳥獣駆除依頼』に基づき、村民の安全を図るために銃を使用する」

 と、いつものお題目を唱えてから、駐在の熊爺さんは罠にもがく猪の頭を狙って、ぱんぱんとダブルタップのヘッドショット。

「頭めがけて二発とは容赦がないな!」

 すっかり熊爺さんの虜になったリザの横で、「ニューナンブ」の銃口をガンマンよろしく口にあててみる熊爺さん。

 だが、残念ながらゲンボク他突っ込み役の三名は今はここにはいない。

 なので誰も気づくことなく熊爺さんのデモンストレーションは流されてしまった。


 ちなみに熊爺さんの異名は

「日本一銃弾を消費している警察官」

 だとのこと。


 猪はじいさんたちの手によって村まで運ばれ、村長宅で解体が始まる。

 まずは熱湯毛抜きでエミリアがギブアップ。

「あたしゃしばらく豚の丸焼きとかは見たくないね。小町、先に役場に帰っているからね」


 次にギブアップしたのはリザ。

 さすがに臓物ぶっこ抜きはスプラッタだったらしい。

「小町、私も布団と洗濯物を取り込んだら役場に戻る。駐在様もごきげんよう」

「はいよ、お嬢ちゃん達のところにも後で肉を届けてやるからな」

 と、両手両足スプラッタのじいさまたちに見送られて、リザもふらふらしながら退場。

 

 両手にビニール袋いっぱいの肉を抱えてホクホクしながら小町が役場に帰って来た時には、二人ともお昼のおにぎりがまだ喉に通らない状態で、テレビの前で固まっていたとさ。

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