真剣勝負
まずは俺が指定した勝負。
ぱちり。
「王手」
「あの、ご主人殿、それは待ったにしてもらえないか?」
「ダメだな」
これで俺の勝ちだ。
「どうだ、俺の強さがわかったかい?」
「素晴らしいですわゲンボクちゃん! 圧勝ですわ!」
ほめてもらえてうれしいよアリス。
「ところでこれでいいのか?」
「いや、私が望む強さとは少々異なるようなのだが……」
そうか、ならば次の勝負だ。
次は小町が指定した勝負。
びよーん。
「ほら、あんたの負けだ」
「兵隊さんが剣を刺したら、おじさんが樽から飛び出しちゃったの。だから兵隊さんの負けなの」
小町の言う通り俺の勝ちだ。
「いや、何というかその、そもそも、これは強さを判断するものなのか?」
そうか、ならば次の勝負だ。
次はエミリアが指定した勝負。
「ほれ、最後の二枚もペアになったから場に捨てるぞ」
どうだい、お婆さんのカードだけが手元に残る切なさは。
「これもゲンボクちゃんの圧勝だねえ。兵士さん、これでわかったかい?」
我ながら会心の勝負だったよエミリア。
「あの、確かにこの切なさというか、やるせない敗北感は感じるのだが、ちょっと違うのではないだろうか」
そうか、ならば次の勝負だ。
次は千里が指定した勝負。
ぱちり。
「司令部に突入だ。千里、見てくれ」
「はーい。さてっとどうかな。あ、ゲンボクちゃんの勝ちだよ!」
ほい、これで総司令部を占領だ。
しかし弱いな女兵士よ、ちょっとキミの出身国の国防が心配になるレベルだったぞ。
あれ? 女兵士が涙目になってきた。
「ご主人よ、どこまで私を愚弄するのか? もうこんな茶番はたくさんだ!」
崇高なゲームを茶番と申すか。
それにはちょっと俺もむかついちゃったな。
「それじゃ、あんたが指定する勝負を受けてやるよ」
「ご主人よ、レスリングフリースタイルで勝負してくれ!」
はあ?
「マジですか?」
「大真面目だ」
「その格好で?」
あんたは今ロングTシャツ一枚だけといういで立ちなんだが。
「恰好など問題ない。隣の寝室の布団とやらをを片付けていただければ、ジュードーマットが備え付けられてあるだろう」
どうやらジュードーマットとは寝室の畳のことらしい。
うーん。
どうしようかな。
俺ってレスリングは素人だし、そもそもルールがわかんねえ。
「なあ女兵士よ、俺はルールがよくわからないから、打撃無しでスリーカウントのフォールかギブアップでの決着でもいいかい?」
「構わぬ。その方が審判もいらぬしな」
女兵士は本気になっているみたいだ。
目が血走ってきたよ。
「布団は片付けましたから。思うぞんぶん戦ってくださいませ」
やけに楽しそうだなアリス。
ちなみにアリスが提案した勝負方法は速攻で却下した。
エミリアも小町も千里もすっかり観戦モードだ。
「それでは参る」
「はい、どうぞ」
まずはお姉さんの先手。
定番のタックルが俺の下半身を襲う。
しかし毎日のエネルギー充填に鍛えられた俺の体幹は、正直女性のタックルなどでは崩れやしない。
「よっと」
女兵士のタックルを受け止めた俺は、そのまま彼女の背中越しに上から腹に手を回し、垂直に持ち上げる。
「うわ!」
「うわ!」
女兵士と俺の叫びが重なった。
彼女は多分逆さに持ち上げられたことに対して。
一方の俺はロングTシャツの下に下着を身に着けていない彼女のお尻がモロに目の前に登場したことに対して。
こいつノーパンかよ。
「隙あり!」
すると女兵士は一瞬硬直した俺の首を、逆さにつられた状態で両膝で挟み込んだ。
やばい、これは「ウラカン・ラナ」の態勢だ!
このまま女兵士に体重をコントロールされると、俺はそのまま頭から投げ捨てられてしまう。
しかもその後に待つのは首を両ひざで固定されてのフォールだ!
仕方がない。
ちょっと荒っぽいけれど決めさせてもらうとしよう。
女兵士が俺の首に重心を預けたところで、俺は身体をのけぞらせ、彼女の上半身を宙に浮かせた。
続けてそのまま彼女の頭と両肩を「パワーボム」の要領で畳に押し付ける。
さすがに叩きつけたら無事では済まないから、あくまでも押し付けるだけ。
ワン・ツー。
「まだまだ!」
すると彼女は右肩を浮かせるように身体をひねった。
続けてもがきながら俺の下から脱出しようとしている。
「まだまだだ、私は負けぬぞ!」
やべえ俺、負けず嫌いの女兵士のおかげで、変なスイッチが入っちゃったかも。
だって俺の顔、あられもない彼女の下半身に上から埋まっちゃっているんだもの。
ここでアリスから楽しそうに声援が飛んだ。
「ゲンボクちゃん、今から私がご提案した勝負に切り替えられても構いませんわ! どうぞゲンボクちゃんの素晴らしさをたっぷりと味あわせてあげてくださいな!」
よっしゃ。
「ここからはアリス提案の男と女の勝負だ! あんなことやこんなことや、痛いこととか恥ずかしいことなんかをたっぷり味あわせてやろう」
「ひっ」
悲鳴もそのままにエネルギーを充填せず女兵士を蹂躙し続ける俺に、さすがにアリス達も俺を止めに入った。
「あのゲンボクちゃん。その辺にしておいてさしあげたらいかがでしょうか」
あえぐようにアリスが俺に懇願してきた。
「ゲンボクちゃん! 怖いのはダメなの!」
小町も泣きそうな声で俺に叫んでいる、ちょっと怖がらせちゃったかな。
「ああ、たまらないねえ、あんなプレイもあるんだねえ」
エミリアは既に自分の世界に入り込んでいるようだ。
「ゲンボクちゃん! もうお姉さんは息していないかも!」
それはオーバーだ千里。
「で、どうする? まだやるかい?」
肩で息をしているみたいだし、全身に力も入っていないようだけれど。
「くっ、殺せ」
殺しはしないけどさ。
「それじゃあこれでやめてもいい?」
すると女兵士は俺の期待通りの表情を向けた。
「やめ」
「聞こえねえよ」
「や、ない」
ああもう面倒くせえ。
「それじゃ終わりにすっか?」
「やめないでえ!」
「はいよ」
それでは遠慮なくいただきますね。
エネルギー充填完了。
こうして我が家の家族は、本日から一人増えることになった。
その後はお風呂の時間。
今日はいつもよりも一人一人のお時間が長かった。
どうやら俺と女兵士の勝負に触発されたらしく、我が家にもSMプレイが導入されることになった。
真性のマゾだった女兵士に触発されたようだ。
入浴後は身体のほてりを取るために、俺とエミリアはビール。
アリスは冷やしておいた白ワイン。
小町と千里はとっておきの果汁入り炭酸飲料を食卓でたしなむ。
女兵士にもビールを一缶差し出してやる。
「今日からお世話になります、ご主人殿」
あらまあ、すっかり従順になっちゃったよ。
「こちらこそよろしくな」
「ご主人殿ではありませんわ! ゲンボクちゃんです。間違えないようになさい!」
「違う呼び方はズルなの!」
そうだったんだ、そういう取り決めだったのか。
「それじゃゲンボクちゃん、この娘にも名前を付けておやり」
わかったエミリア、それでは考えてみるか。
「ちなみに、ヘリコプター子は無しだからね」
う、千里に読まれてしまった。
女兵士も露骨に嫌な顔をするなよ。
「黒子」とか「鷹子」もダメだよな?
いや「鷹子」はありかも。
「銀髪ショートに青い瞳の鷹子さんというのもシュールですわね」
「それじゃあアリスもそう言っているし、それにするか」
「だめなの」
「アホかい」
「ゲンボクちゃんはアリスの皮肉も通じないのかい?」
ぼろくそに言われてしまった。
うーん。
女兵士ねえ。
銀髪ショートと言えば「オルガさん」とか「ジェーンさん」とかだけれど、二人とも「お母さん」だしなあ。
銀髪にこだわらなければいいか。
鷹ねえ。
あ、思いついた。
あの漫画からパクろう。
「リザはどうだい?」
お、気に入ったようだな。
「それじゃあ女兵士さん、今から君はリザだ」
「よろしくお願いしますわ、リザ」
「好き嫌いを言っちゃダメなの、リザ」
「リザはまず正座の練習からだねえ」
「リザの着替えも用意しないとね」
そうだな千里。
「あの、素敵な名前をありがとう。ごしゅ、ゲンボクちゃん」
「慣れるまでは適当でいいぞリザ」
それでは思い切って明日は千里の免許を取りに行きがてら、普通のショッピングモールに出かけるとしよう。




