食事の心配
「それではコンビニに行きましょう」
そんなアリスに俺は神妙な顔を向けるしかない。
「コンビニは一番近くでもここから車で三時間かかります」
ちなみに弁当屋とかは、ここ数年ネットの世界でしか見たことがないな。
何だよその泣きそうな顔は。
「それではアリスは飢え死にしてしまうのですか?」
何だこの子供みたいな反応は。
「わかった、わかったからちょっと待っていろ」
近所の農家からご飯を分けてもらってくるとするか。
「ちょっと出かけてくるから、それまでそこでちゃんと受付業務をやっているんだぞ!」
「アリスも一緒に参ります」
「すぐに戻るからちょっと待っていろ」
ということで、ちょうど畑から昼食に戻ってきた近所のお宅からいただいたのは、雑穀おにぎりを二つとお漬物。
普段の俺は気にもしないが、女の子にはちょっと地味すぎるお昼かな。
アリスのやつ、こんな食事でいいのかなあ。
という俺の心配は杞憂だった。
「待たせたな」
「アリスはさびしかったです」
アリスは泣きそうな表情になっている。
まあ、確かに知らない場所に一人で待たされたら辛いものがあるか。
これからは気をつけることにしよう。
「そんな顔をするな。それでな、お昼はこれでもいいかい?」
受付奥の会議室の机に雑穀おにぎりとお漬物を並べると、とたんにアリスの表情が明るくなった。
「ゲンボクちゃん、美味しそうですね」
どうやらアリスはこうした食事でも問題ないらしい。
それではお茶を入れてくるとするか。
「ゲンボクちゃん、美味しいです」
「そうか、よかったな」
俺もお前がカリカリさせるお漬物の音が耳に心地よいよ。
こうして他人が飯を食っているのを眺めるのは何年ぶりかな。
可愛らしくおにぎりを口に運ぶアリスの表情に見とれてしまう。
いかん、俺様の分身が元気になってしまった。
静まれ俺、深呼吸だ俺、職場プレイはまだ早すぎるぞ俺!
ということで、この日はためこんでいた固定資産関連の資料を、アリスに手伝ってもらって整理することができた。
うーん、一人だとヤル気の出ない仕事も、二人なら捗るもんだなあ。
そうこうするうちに、時計の針は十七時、閉庁のお時間です。
朝とは逆の手順で役場内を点検してから入口に施錠をする。
今は帰り道。
昨日と同じく、強烈な西日がアスファルトの照り返しとサンドイッチで俺達を焦がす。
心なしかアリスの顔も火照っているようだ。
これは今日中に何とかしないとな。
「アリス、今日は二十時くらいまで夕食を我慢できるか?」
「頑張りますわゲンボクちゃん、餓死しないように気を確かに持って見せますわ!」
何だよその悲壮な覚悟は。
「ん? どうした?」
一転して何か良いことを思いついたような表情でアリスが俺に語りかけてくる。
「ゲンボクちゃん、ご飯を作ってくれる付喪はいかがですか?」
あ、そうか。
そう言えばアリスは「道具から新たな付喪を眷属として生み出せる」と言っていたよな。
正直なところ、料理が得意な眷属がいてくれるとありがたい。
「私、付喪が増えても決して嫉妬などしないように致しますから、ぜひ前向きにご検討くださいまし」
「いやに熱心だなアリス」
「やはり、美味しい食事というのが生活に潤いをもたらすと思うのです!」
何を力説しているんだねキミは。
あれだね、キミは美味しいご飯を作ってくれる人が最優先で欲しいと言っているのだね。
「わかったよ。で、どうすればいいの?」
「お料理道具の中から、なるべく使い込んだものをお選びになるのがよろしいですわ、忘れてはいけないのは『穴』の存在ですわよご主人様! 穴が大事ですからね、穴が!」
アリス、余りの必死さに口調が変わっているよ。
あとね、そんなきれいな顔して穴穴連呼しちゃだめだよ。
ほら、お兄さん元気になっちゃったじゃあないの。
うう、もう我慢できません!
「アリス、ちょっと来い」
「あん、ご主人様あ!」
胞子エネルギー充填完了!
もう俺、一生アリスにはまっちゃいそうかも。
賢者タイムを迎えた俺と、乱れた服を整えたアリスの二人で、再度探索を開始。
さてっと、どれがいいかな。
使い込んだものかあ。
愛用しているスプーンとフォークには、残念ながら穴がない。
大切に育て上げた鉄のフライパンも、残念ながら穴がない。
コーヒーカップのこれは、そもそも穴というのか?
そしたらアリスが満面の笑顔で何かを持ってきたんだ。
「ご主人様! これですわこれ! このまんまる可愛いフォルムに、拗ねたようなおちょぼ口。これならご主人様の胞子力エネルギーも大爆発ですわ」
と、彼女が慈しむように抱えてきたもの。
アリス、お前は俺に「やかん」でイケって言うのかい。
既に本日は一回戦が終了しているのにさ。




