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新たなる生活

 引っ越しは滞りなく行われた。


 あいつらが通販サイト「密林」で買いこんだのは、それぞれの私物だけではなく、新居で必要であろう様々な家財道具だったんだ。


 あらかじめエミリアと千里が建物の清掃とリフォームを進めた結果、アリスが言うところの「ニューゲンボクハウス」は、リビングダイニングが約二十畳と同じく二十畳の寝室がメインとなる。

 それにクローゼットのような小部屋がいくつかと風呂にトイレという間取りとなった。


 台所回りは小町の独壇場。

 ショッピングモールで新規に購入した三口コンロや俺が愛用していたフライパンや中華鍋に加え、よくわからない色々な道具が増えている。

 それを小町が様々な台所収納グッズを使って綺麗にまとめている。

 それにコンロの足元には新たに大きなガスオーブンが設置された。

 これはたいしたもんだ。


 エアコンはリビングダイニングと寝室にビルトインタイプを1台づつ設置した。

 元々事務所のため3台あるトイレは全てウォシュレットに交換した。

 ちなみにエアコンとトイレの費用は家主負担扱いなので村役場で費用を持ってくれる。

 風呂はタイル製の浴場をエミリアがピカピカに磨き上げた。

 浴場は広く、全員で入ってもまだ余裕がある。

 うは、新しいプレイに開眼しそうだ。


 それぞれの衣類は各自が選んだ小部屋のチェストに収納する。

 なお、俺の衣類は寝室に置いたチェストで、全てアリスが面倒みてくれるそうだ。

 徹底してプライバシーがないな俺。

 また、下着類やタオル等は更衣室に新たに置いたとうのタンスに、エミリアが洗ったそばからそれぞれの分をしまっていくらしい。

 ちなみに一番上の引き出しが俺で、上から順にエミリア、アリス、千里、小町。

「下着を見たきゃ、いつでも見ていいからね」

 エミリア、そう言われると逆にありがたみも何もないのだよ。

 見ちゃうかもだけど。

 

 リビングには建物に残されていた本革の六人掛けソファを、ローテーブルを挟むように三台ずつ並べ、その前に俺の部屋に置いてあった液晶テレビを設置した。


 ダイニングには縦横二人ずつ座れる、こたつにもなる食卓を配置する。

 とはいってもまだそれほど寒くはないので、こたつ布団は押し入れで眠っている。

 小町が言うには、この食卓ならば八人まで座れるけれど、料理を並べることを考えると、六人が限界かもと言うことだ。

 なお、協議の末に席順は奥に俺、右側面にアリス、左側面にエミリア。で、アリスの隣に小町、エミリアの隣に千里ということであっさりと決まった。

 どうも小町は俺の近くよりキッチンの近く、千里は俺の近くよりテレビの近くの方がいいらしい。

 つまり昨晩のアリスとエミリアの言い争いは無駄だったことになる。

 喧嘩が長引かなかったのはよかったのだが、ちょっと寂しいような気もする。


 寝室は畳敷き。

 壁紙は一新され、窓には可愛らしいカーテンが掲げられている。

 で、畳の中央が俺の指定席らしい。

 アリスによれば、俺の布団以外は諸事情を鑑み、都度布団を敷き直すそうだ。

 諸事情って何だろう?

 しかし、客間がなくなったのはきつい。

 これからはどこで隠れてエネルギーを充填するのか悩んでしまう。

 するとそんな俺を見透かすかのようにアリスが微笑んだ。

「各々の小部屋をお迎え部屋にいたしますから、ゲンボクちゃんはご心配なく」

 見事に心を読まれたようだ。

 

 こうして無事新居での生活が始まった。

 まずはお風呂。

 さすがの俺もいきなり一対四で風呂に入るのは正直腰が引ける。

 ということで、一人で一番風呂に行くとしよう。


 しかしすぐにアリスが俺を追っかけるように、風呂に入ってきた。

「お前ってさ、遠慮なく全裸だよね」

 まぶしくて仕方がないのですけれど。

「ありがとうございます、それではお背中を流しますわ」

「あ、ちょっと待てこら。そこは背中じゃねえ! 全身洗ってからにしようよ」


 って!

 エネルギー充填完了。

 

「それでは皆で順番でお湯を使わせていただきますね」

 と、アリスに風呂場から追い出されるように更衣室に出てきた俺を待ち受けていたのは、下着姿のエミリア。

「さっぱりしたようだね。それじゃあ身体を拭いてあげるよ。ところで、この下着はどうだい?」

「ああ、気持ちいいな」

 って、何なのその下着。

 視覚効果満点なんだけど。

「え、ダメだやめろ押し付けないで下着越しに感じるから目と感触が気持ちいいからもう脱がしてやる畜生!」

 

 エネルギー充填完了。

 

「それじゃ私もお風呂をいただいてくるよ」


 あーあ、汗をかいちまった。

 これじゃあせっかく風呂に入ったのに意味がねえ。

 後で風呂に入り直すか。

「って、何なの千里」

 そのソファー上でロングTシャツ一枚での女豹ポーズは!

「どうゲンボクちゃん? これをパジャマ代わりにしようと思っているのだけどさ。ボクも捨てたものじゃないでしょ?」

「はい、おっしゃるとおりです」

 しましまショーツのチラリズムがたまらないです。

 それでは後ろから失礼いたします。


 エネルギー充填完了。


「それじゃボクもお風呂に行ってくるね!」

「はい、行ってらっしゃい」


 あれ、小町はどこにいったんだ?

「ゲンボクちゃん、こっちなの」

「ん? どうした小町。キッチンにこもって」

 って、なんだそれは!

「男の人はこういうのが好きだってエミリアが言ってたの」

「なんですかそのキッチン合法ロリ裸エプロンは! 横乳みえてますよお尻まるだしですよ大変ですよ!」

「キッチンは私のお城なの、きて、ゲンボクちゃん」

 はい、まいります、まいりますとも。

 

 エネルギー充填完了。


「私もお風呂行ってくるの」

「ああ、俺はちょっと休憩だ」

「ビールが冷えているの。枝豆も茹でて冷やしてあるの」

 ここでビールの提供は非常にうれしい。

 ありがとう小町。

 

 その後一時間近く、俺は四人の風呂が終わるのを待たされた。

 まあ、ビールを飲みながら夢心地だったけれども。


 それから小町特製の夕食を楽しみ、エミリアが洗い物を片付けた後は、秋の夜長のフリータイム。

 あれだけ俺の隣席争奪戦を行った割りには、四人ともあっさりしたものだ。 

 ソファではアリスとエミリアが、ローテーブルに置かれたアリスのパソコン画面を覗き込みながら、あれやこれやと何かやっている。


「やっぱりデザインと色が大事かしら」

「アリスなら、この辺りの淡い色はどうだい?」

「可愛いとは思いますけれど、問題は暗がりでは見ていただけないことですわね」

「それが問題なんだよねえ」

 なんだかとっても嬉しそうな会話ではある。

 主に俺にとって。


 一方、食卓に陣取り「ハイボール」と「小町セレクトのチョコボール」で晩酌を楽しんでいる俺のすぐ横で、小町と千里は新たなゲーム盤を挟んでぺたりと座りこんでいる。


「消える魔球なの」

「あー! 三振しちゃった!」

 今度は野球盤かよ。

 ホント、あの段ボールは宝の山だな。


 お、なんかアリスとエミリアもつられてきたな。

「小町、そのゲームは何ですか?」

「野球盤なの、アリス」

「面白そうだねえ千里、ちょっとやらせてみな」

「いやだよ後でアリスとやればいいじゃない!」

 何か不穏な空気が漂ってくる。


「小町、ちょっと代わりなさい」

「アリスが何を言っているのか、ちょっとわからないの」

「千里、代わりな」

「いやだよエミリアはパンツの色でも選んでいればいいじゃん!」

 なんだこの険悪な雰囲気は。


「小町、お姉さまの言うことが聞けないのですか?」

「アリス、そんなこと言うと明日からご飯作るのやめるの」

「千里、あたしの言うことが聞けないっていうのかい?」

「脅かしたって無駄だよエミリア! ボクは巨乳なんかこわくないんだからね!」 

 これは仲裁に入らないとまずい。


 それではこうしよう。

「小町と千里の試合は雨が降って雨天順延になったことにしよう。でな、小町千里チームとアリスエミリアチームで新たに試合をやったらどうだい?」

「さすがゲンボクちゃん、合理的ですわ」

「ゲンボクちゃんはいつも頼りになるねえ」

「返り討ちにしてくれるの」

「姉さまたち、泣かしてあげるからね!」


 ということで今晩は四人仲良く野球盤三昧。

 俺は晩酌を「ウイスキーストレート」に変えて、食卓に肩ひじをつきながら観戦モード。

 ホントこいつらは見ていてあきねえな。


 ちなみに試合は三試合連続コールドで小町千里組の勝ち。

 その後小町と千里は俺と一緒に寝室へ。


「ゲンボクちゃんの添い寝は久しぶりなの」

「ボクはこの場所で寝るのは初めてかな」

 と、二人ともご機嫌で俺の両脇にもぐりこんだ。

 よかったな、これが「勝利者賞」だ。

 

 で、俺達三人が気持ちよく熟睡している間、お姉さま二人は徹夜で特訓をしていたらしい。


 あ、「消える魔球」はボールだからな、振るなよ二人とも。

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