酔っ払い
「そしたらアリスと小町はそれぞれ好きなものを買いに行ってくれるかい」
なんだよその不満そうな顔は。
「それじゃお前らがエミリアの面倒を見てくれるのかよ」
二人とも思いっきり顔を左右に振らなくていい。
「それじゃあ行っといで」
「ゲンボクちゃん、ボクは?」
「おう千里、お前は俺と本屋に行こう」
「あたしわぁ?」
お前は頼むから黙っていてくれエミリア。
酔っぱらいを引きずりながら千里と向かったのは、書店の資格コーナー。
千里は学科も大丈夫だと言っているが、仮免と本免の一発合格を確実にするために問題集を買っておくんだ。
千里は、ぱらぱらと問題集をめくると、大したことは無いような表情を見せた。
「これなら大丈夫だよ」
そうか、さすが「車の付喪」だな。
「って、エミリアがいねえじゃねえか!」
どこ行った、あの娘は!
「ゲンボクちゃーん!」
書店内に響くエミリアのセクシーボイス。
俺にはとっても嫌な予感がする。
「早くぅ! ゲンボクちゃーん!」
ダメだあいつ、さっさと黙らせないと。
「なんだよエミリア」
「これを買っておくれよ!」
これはまたマニアな本を選んできたな。
こんな本が世の中にあったんだ。
「あー、エミリアばっかずるいよ! それならボクにもこれを買ってよ!」
ん? 何か欲しい本でもあったのか?
「お前、本当にそれが欲しいのか?」
千里が手に取っているのはこれまたマニアな本。
こいつはこれを参考にしていったい何をするつもりなんだ?
「これを買ってくれたらもう何もいらないよ!」
そこまで言うなら買ってやるとしようか。
レジのお姉さんもたまげている。
そりゃそうだよな。
女性二人がそれぞれ差し出した本が「外壁クリーニング施工事例集」と「走り屋のための車両改造特集」だもんな。
「ああん、もう歩けないよ」
いよいよダメだなエミリアは
「エミリアは僕の分身で休ませておけばいいよ」
そうだな千里。
「それじゃあお前も買い物に行ってくるか?」
「うん!」
屋上の駐車場までやっとこさエミリアをひきずり、駐車場の自販機でペットボトルの水を買ってやる。
まだ夏の日差しが残っているから、脱水症状だけは怖いからな。
「ほら、ちょっとお前は横になって休んでろ、って、引きずり込むな阿呆!」
真っ昼間のショッピングモールでお前は何をしようとしているんだ!
「大人の時間さ、ゲンボクちゅあん」
俺、あっけなく陥落。
しばらくの後、エミリアにエネルギー充填完了。
ちっ、スッキリしたように眠りに入りやがって。
俺もすっきりしたけれどさ。
すると突然放送が響いたんだ。
「キノコ・ゲンボクさま キノコ・ゲンボクさま お連れ様が一階カウンターでお待ちです」
嫌な予感第二弾だ。
慌てて一階カウンターに向かうと、カウンターの裏には紫がかった黒のおかっぱ頭が見える。
こりゃ小町だよ。
受付のお姉さんが迎えにきた俺に困ったような顔で俺に言う。
「当モールでも、未成年の方にお酒はお売りできないものですから……」
え?
「なので、そのように申し上げましたら、突然泣き出されてしまいまして。それでこちらにご案内させていただいたのです」
「小町は成人なの!」
小町の泣きながらの抗議に受付のお姉さんも困り顔。
そりゃそうだよな、どこからどう見ても小町は未成年だもんな。
「意地でもお酒を買うの!」
「ですから、申し訳ございませんが未成年の方にお酒はお売りできないのです」
あーあ、小町がまた泣き出しちゃったよ。
あ、そうだ。
「すいません、この娘の言うとおりなんです。これで証明できますか」
俺はかばんから小町の「住民基本台帳カード」略して「住基カード」を取り出して、小町に渡した。
とりあえず全員分のカードを申請しておいてよかった。
「小町、それをお姉さんに見せてやりなさい」
すると小町は、自分の写真付きカードに一瞬驚くも、小町はカードを受付のお姉さんに差し出したんだ。
「はいなの」
今度は店員のお姉さんが驚く方。
「こ、これは、失礼いたしました」
いえいえ、お姉さんの対応が正しいのですよ。
「それじゃあ小町、誤解も晴れたし、お酒を買いに行こうか」
って、お前が呑むの?
「ゲンボクちゃんのお酒を買うの」
そっか、小町はやさしいな。
するとどうやら場内放送を聞いたらしく、他の二人もやってきた。
お、アリスも色々買い込んできたな。
「何を買ったんだ?」
「内緒ですわ」
ふふ、可愛い奴め。
次は千里か。
「ゲンボクちゃん、家のプリンターにこれを使えるかな?」
どれどれ。
「ああ、大丈夫だよ」
って、ああそうか、千里はあれを作るつもりだな。
それでは買物も済ませたことだし、村に帰るとしよう。




