表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/71

引っ越し計画

 今日は全員で村内を一周するので、千里に出してもらったワンボックスで移動することにした。

 全員が車に乗ったところで、まずは役場へと向かう。


 車で移動中の小町は、千里がオプション装備に取り込んで新たに生み出した冷凍庫のふたを開け、嬉しそうに中を覗き込んでいる。

「もう一個できないの?」

「そりゃ無理だ小町」

 千里が答える前に俺が答えた。

 確かこの車の車載コンセントは千ワット以下のはず。

 冷凍庫は確か七百ワットだったから、二台だと容量オーバーになってしまう。


 ところが千里はあっさりと俺の回答を上書きした。 

「できるよ」

 できるのか千里?


「ゲンボクちゃん、この車はガソリンじゃなくて胞子力エネルギーで動いているからね。ゲンボクちゃんが僕にエネルギーをくれる限りいくらでも出力可能だよ」

 そうなのか、究極のエコエネルギーだな胞子力は。

 

「でも小町、車の中に冷凍庫をもう一台置いて、どうするんだい?」

 エミリアの問いに小町は胸を張って答えた。

「片方を『冷凍庫』もう片方を『氷温庫』で使うの」


 ああそうか、こないだの買い物ではチルドの「氷温庫」として使ったけれど、冷凍庫があれば冷凍食品やアイスも村まで買って帰れるな。

 

「でも、冷凍庫を二台置くとなると、荷物を置くスペースが限られてしまいますわ」

 そりゃ正論だアリス。

 小町もこれは盲点だったと、呆然とした表情になる。

 するとそこに千里が再びアイデアを出してきた。


「僕の本体にも荷物を積みこめばいいじゃないか。あっちはシートを全部つぶせば、かなり荷物を積めると思うよ」

 そういう方法があったか。

 千里はもしかしたら、こうした機転が利く娘なのかもしれない。


 そうしているうちに俺たちはすぐに役場に到着した。

 まずは先日アリスと整理した村の固定資産台帳を改めて調べていく。

 村保有の資産には、すべて写真と、建物の場合は間取りを添付してあるので、ここからいくつかの引っ越し先候補を見つけるためだ。

 

「ところでお前ら、自分の部屋って欲しいか?」

 ん、なんで全員無言なの?

 皆の表情を見る限り、欲しそうな欲しそうでないような様子。

 どうしたんだろ?


「あの、ゲンボクちゃん。私たちにお部屋ができると、ゲンボクちゃんもお部屋を持つのですか?」

「そりゃそうだよアリス」

「なら小町はいらないの」

 そうなの?

「あたしも必要ないね」

 プライバシー無しでいいのかエミリアよ。

「ボクはゲンボクちゃんと一緒にいられる方がいいな」

 あー、そういうことか四人とも。


「そしたら、ここを最初に見てみようか」

 俺が選んだのは、ダム工事の際に、中継事務所兼宿泊所として作られた建物。


 入口を入ると事務所として使われていたスペースが広がる。

 ここは床敷きになっており、間仕切りされた裏には台所がある。


 その奥には二十畳ほどの畳の部屋があり、当時は更衣室や応接室、ロッカーとして使われていた三畳ほどの小部屋がいくつか併設されている。

 ちなみにこの建物にはそれなりのトイレと広い浴場付き。

 トイレはともかく広い浴場はポイントが高いのだ。


 四人とも物件には納得した様子。

「それじゃあ実際に現地を見てみようかね」

 俺は役場のキーボックスからこの物件のカギを取り出して、四人と一緒に建物に向かったんだ。


 建物は役場のすぐ近くにある。

 この辺りは当時は一等地だったらしい。

 ところが今は何もないので、村のどこが一等地なのかよくわからないが。


 外壁に異常は見られない。

 構造も鉄筋コンクリート造なので、そうそう簡単には壊れないはずだ。

 さすがに建物の中は埃っぽいが、意外としっかりした状態で残っている。


 まずは台所を覗いた小町の要望。

「大きいガスコンロが欲しいの。それからこの壁はいらないの」

 そうだな、台所の目隠しはいらないか。

 オープンキッチンの方が広々とするものな。

 これは単なるパーテーションだからすぐに外せるだろう。


「床張りの部屋をリビング、畳の部屋を寝室とすればいいかしら」

 これはアリスの提案。


「こりゃ掃除のし甲斐があるね」

 エミリアが楽しそうにほほ笑む。


「エアコンも取り換えなきゃならないよ」

 エアコンは家主、つまり村役場負担だから費用の心配はない。

 しかし電気、電話、ガスの引き直しは必要だ。


 その後も四人は興味深そうに建物を調べていく。

「応接セットが残っていますわ。エミリア、これってきれいになるのかしら」

 アリスが小部屋の一つに置かれていた革製のソファセットを発見した。

 ただ、それらは埃をかぶって真っ白になっている。

 これはダメだろうなあ。

 ところがエミリアは平気なもの。

「こんなのは簡単さ。ただ、皮革ワックスが欲しいかねえ」

 

「エアコンも道具さえあればボクが取り付けできるけど、どうする?」

 いや、千里の申し出はありがたいが、ここは取り付け費込みで村に負担してもらおう。

 最低でもリビングと寝室でエアコンは二台必要だしな。


「ゲンボクちゃん、お布団を新調しませんか?」

「ああ、それは考えていたよ」

 それにアリス達の夜着もいつまでもTシャツにハーフパンツとばかりにはいかないだろう。

 

 五人で検討した結果、旧事務所スペースはリビング兼ダイニングとして使用することにする。

 床にはカーペットを敷き、五人掛けのテーブルと椅子を新調してダイニングとする。

 ソファも清掃が終わったら、こちらに移動してリビングとして使用することにした。


 キッチンには小町の要望で三口コンロを新規に購入する。

 他にも大型電子レンジとガスオーブンも新規に導入することになった。

 小町に言わせると、オーブンレンジを1台買うよりも、専用の電子レンジを1台と、高出力のガスオーブンを別々に買った方が大家族には向いているそうだ。


 冷蔵庫も思い切って新調することにした。

 これも「ややこしい機能よりも容量が大事なの」という小町の意見を反映している。


 洗濯機はエミリアがこれまで使用していたもので十分だというので、こちらに引っ越しすることにした。

 エミリアに言わせると「道具は大事に使えば使うほど能力を発揮する」そうだ。


 浴場は洗面器などの消耗品を一から新調することにした。

 二つあるトイレは最新のウォシュレットに交換し、一つは全員用、もう一つは俺以外用とした。

 ちなみにこう決めたのは俺自身。

 そのうち全員用には「男女兼用」あいつら用には「女性専用」のマークをつけるつもりだ。


 ここまで電化すると電気代がえらいことになりそうだが、五人分の給料があれば問題ないだろう。

 月曜日から俺は課長に役職任命される予定だし。

 

 畳部屋は寝室として使用する。

 布団は思い切って五人分新調し、オレが今まで使用していたのは廃棄。

 その他は引き続き来客用としてとっておくことにする。

 

 全部で五部屋あった小部屋はそれぞれに任せ、自由に使ってもらうとしよう。

 これで、俺のプライバシーがまったくない、アリスがいうところの「新生ゲンボクハウス」のプランが完了した。


 後はエアコンやら冷蔵庫やらトイレやらの必要耐久消費財を月曜日に発注しておけば、「信金さんの日」にまでには全部揃うだろう。

 電気と電話もそれまでには間に合うはず。

 つまり引っ越しは「信金さんの日」の翌日となる。


「エミリア、それまでに掃除を終わらせることはできるか?」

「任せておきな」

 ああ、姉御肌は頼りになるなあ。

 ちなみに官舎の清掃は村役場の仕事だから、ちゃんと給料は支払われるのだ。


「ところでゲンボクちゃん、これはいったい何だい?」

 エミリアが指さしたのは事務所部分の天井付近に作られた神棚。

 脚立を持ってきて棚を覗くと、そこには木製のお面が祀られていた。


「これが村の歴史を話したときに出てきた天狗様だよ」

 そのお面は朱に塗られ、ぎょろりとした目とへちまほどもある鼻が特徴的だ。

「立派ですわ」

「怖いの」

「鼻がすごいねえ」

「かぶってみてもいい?って、埃っぽいや」

 せっかくだからこの神棚は残しておこう。

「エミリア、そのお面と神棚の掃除も頼むよ」

「了解だよ」


 それでは帰るとしよう。

 

 家に戻ってお昼を食べた後は、コピーをしてきた建物の見取り図をちゃぶ台の真ん中に置いて、四人であれやこれやと楽しそうに細かい計画を立てている。

 そんな彼女たちの様子を眺めているのも何となく楽しい。


 ちょっと眠くなってきちゃったかな

 

 遠くから秋を感じさせる虫の音。

 頬にそよぐ優しい風が心地よい。

 頭を包む柔らかな感触が温かい。

 

 そっと目を開けてみると、隣にはお腹にタオルケットを掛けた小町の姿。

 その向こうにはエミリアの豊満な胸が盛り上がっているのが見える。

 ああ、でけえなあ。

 反対側からは多分千里が立てているであろう、かわいい寝息が聞こえる。


 あれ?

 

 目線を上に上げてみる。

 するとそこには穏やかな笑顔で、俺をうちわで扇いでくれているアリスの姿。

 俺の頭はアリスの膝の上。

 そう、彼女は俺に膝枕をしてくれていた。


「あら、お目覚めですか? まだまだ日は高いですよ、ゲンボクちゃん」

 アリス、お前、一人で起きていたのか?

「ゲンボクちゃんをお世話するのが私の役目ですから。それにこうして寝顔を楽しむ役得もございますし」


 そっか。

 

「もう少しお休みなさいませ」


 そうさせてもらうよ、アリス。

「ありがとな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ