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道路交通法

 帰り道のドライブは順調に進んでいく。


 アリスは小町を膝枕し、小町はお昼寝中。

 エミリアは高圧洗浄機の説明書を熱心に熟読している。

 千里は助手席に移動したまま、楽しそうに街の景色を眺めている。


 そう言えば付喪は特技があるんだったな。

「ところで千里の特技はなんだい?」

「ご主人様との夜の部かなあ」

 それは非常にありがたいが、どうやら質問の趣旨を理解してもらえなかったようだ。


 すると会話を聞いていたのか、後ろの席からアリスの、ちょっと尖った声が響いた。

「あのね千里、ゲンボクちゃんは付喪として何ができるのかを質問なさっているのです。勘違いしてゲンボクちゃんに迷惑をかけてはいけません!」

 助手席をチラ見すると、アリスの剣幕に押されたのか、すっかり千里は小さくなってしまっている。

 それでは助け舟を出すとしよう。


「千里は車の運転とか修理ができるんじゃないのか?」

 すると千里の表情はぱっと明るくなったんだ。

「そんなんでいいんだご主人さ、ゲンボクちゃん。ボクは自動車の運転と修理が得意だよ。修理は機械なら大抵のものはできるよ!」

 おお、いきなりハイスペックな特技が来た。


「でも、ボクは免許を持っていないから、公道での運転はできないんだ」

 いきなり現実的な話が始まった。

 道路交通法を気にする付喪ってのも変わってるな。

 あ、いいこと思いついた。 


「千里お前、学科試験は大丈夫なのか?」

「交通法規のことだよね、任せてよ!実はさっき、ゲンボクちゃんが横断歩道で、おばあちゃんが歩道を渡り切る前に車をスタートさせたから、指導をしなければいけないかなと思ったところなんだ」

 うわ、婆さんのよちよち歩きにしびれを切らせて早めにアクセルを踏んだのを見られていたか。

 そうだな、安全運転第一だな。

 

 それならば千里が運転免許を取得できる可能性は高い。

 犯罪行為はできるだけ俺がやらかしている「公文書偽造」だけにしておきたいし。

 家に帰ったら最短で免許を取得する方法を調べてみることにしよう。


 それにしてもこの自動車は非常に運転しやすい。

 エンジン音も非常に静かだ。

「この分身は胞子力エネルギーで動いているから、エンジンも静かだよ」

 感心している俺に、千里はさらに嬉しい情報を提供してくれる。

「それに作り出すたびに新たに構成するから、消耗品の補充や交換部品のことも考えなくていいからね。あと、おかっぱの子が大事にしている冷凍庫の情報も『オプション装備』として読み込んだから、次からは車内に再生できるよ!」

「聞いたか小町、朗報だ!」

 って、まだ小町はアリスの膝の上でお昼寝中だった。


 千里の説明通りならば、オリジナルの冷凍庫は家に設置できるということだ。

 それにガソリン代がかからないのは非常に大きい。

 千里が運転免許を取れば、俺との交代運転で遠出も可能だ。

 これは夢が広がりんぐだな。

 

 するとここで一人退屈しているアリスが千里に命令口調で話しかけてきたんだ。

「千里、ゲンボクハウスのルールを教えて差し上げますから、一旦エミリアの隣に戻りなさい」

 うわ、アリスがご機嫌斜めモードだ。

 どうやら俺と千里が二人で会話をはずませているのが気に入らないらしい。

 

 そんなこんなでドライブは順調にすすむ。

 千里の分身である自動車は農道の登りも苦も無く駆け上がる。

 ミラーで後ろを覗くと、一通り千里にお説教をして満足したのか、アリスも膝上の小町と一緒にうたたねを始めている。

 その後ろではエミリアといつの間にかサードシートに移った千里が楽しそうに高圧洗浄機のアタッチメントを取り出しては、あれやこれやと言葉を交わしている。

 どうやら千里はエミリアと話が合うらしい。


 こうしてその後は何事もなく無事に村役場に到着した。 

 時計は予定通りの十五時半を指している。

 

「それじゃアリス、小町、起きてくれ。エミリアも高圧洗浄機の続きは明日にしよう」

 四人は明るい返事とともに、御用聞きの買物を村役場に運び始めた。


 品物は一旦商品別に会議室の机上に商品ごとにまとめて一列に並べていく。

 次に俺を含めた五人が伝票の内容にに従って、品物の列から伝票に記載されたものを袋に入れていくんだ。

 これを全員で数回繰り返せば、戸別仕分けも終了。


 この作業ばかりは人数が多ければ多いほどはかどるんだ。

 実際今日は十五分で終わったし。

 さすがにこれらをそれぞれが抱えて徒歩で村中を回るわけにはいかないから、仕分けした袋をもう一度車に積み直して村を一周し、何カ所かで車を止めてから手分けして配りに回る。


 ちなみにアリスは爺さんたちに見せるため、今日買った衣装に着替えた。

「写真だけというのも申し訳ないですから」

 そうだな、お前の言うとおりだアリス。


 小町はカートン買いしたピーナッツやキャラメルやいちごやきのこやたけのこを個包装に取り出し、自分が担当した袋に、一箱ずつ足している。

「おすそ分けなの、中身はランダムなの」

 そういう気配りは大事だよ、いい子だ小町。


「それじゃエミリア、俺たちも担当分を回っちまうか。千里は車で待っていてくれ」

「わかったよゲンボクちゃん」

「わかった、待ってるねゲンボクちゃん」

 みんな素直でいい娘たちだ。

 

 こうして御用聞き業務も無事終了した。

 時計の針は十六時半を指している。

 よし、千里も今日中に村役場に就職させてしまおう。

 俺はすっかり手慣れた採用関連書類を用意し、千里の手を引っ張りながら村長と議員さんとハンコをもらいに回ったんだ。

 そしたら村長がうれしいことを言ってくれた。


「役場の職員も増えたことだし、ゲンボクを課長に昇進させるから月曜日にわしの名前で稟議をこしらえてきな」


 こうして俺は出世も手に入れてしまったのだ。

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