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ボクっこちゃん

 やあやあ、かわいいボクっこちゃんだなあ。


 などと浮かれている暇はなかった。

 しまった、一人増えたってことは、今日の買物が一人分色々と足りないということだ。

 それぞれ手分けをして急いで調達することにしよう。


「それじゃ小町、我が家の食料を買い足しに行ってくれるかい」 

「わかった、ゲンボクちゃん」

「エミリアは申し訳ないけど、荷物をこの娘の分身に積んでおいてくれるかな」

「まかしときな、ゲンボクちゃん」

「それじゃアリスはこの娘の服を一緒に大至急買いに行くぞ!」

「お任せくださいゲンボクちゃん」


 急遽付喪(つくも)となり、きょとんとしているボクっこちゃんの手を引きながら、俺とアリスは衣料量販店に逆戻りする。

 ここからは時間との戦いだ。


 衣料量販店に到着したところで、アリスと俺は二手に分かれる。 

「この子と一緒に、下着とアウターの上下、ソックスとサンダルまでを大至急揃えます」

「頼んだアリス、オレはちょっと別の買い物に行ってくるからな!」

 

 こうして手分けした甲斐があり、追加の買い物も無事終了した。

 小町もちゃんと食料を買い足し、エミリアが車内に積み込んだ冷凍庫を嬉しそうに「氷温設定」にして使っている。

 アリスとボクっこちゃんも一通りの衣料は買い込んだようで、二人で大きな袋の中身をあれこれ言いながら確認している。

 俺も無事百円ショップともう一軒の店を回ることができた。

  

 するとエミリアがにやにやしながら俺のところに近づいてきた。

「ねえゲンボクちゃん、この荷物なんだけどさ」

 それは最後に俺が買って、ひとまとめにしておいたもの。


「それについてはまだ皆には内緒だエミリア、できるな」

「ゲンボクちゃんと二人だけの秘密ということかい!」

 なぜかエミリアは上機嫌になって積み込みを再開している。

 機嫌がいいうちに追加分も積み込んでもらうとしよう。


 ボクっこちゃんの分身に荷物を全て積み込み終えたら、爺さん婆さんが待つ村へと急ぎ帰還する。

「よし、帰るぞ」

「帰る?」

 ああ、ボクっこはまだ事情が呑み込めていないようだね。

 説明はアリスに任せるとしよう。

 そろそろ助手席争奪戦が始まるかな?

 って、もうセカンドシートとサードシートに、四人とも乗り込んじゃっていやがる。

 

 帰り道はいつものごとく、渋滞とは縁がない。

 このペースならば十五時半に村役場に到着できる。

 役場の会議室で伝票ごとの仕分けをするのに三十分。

 配達は手分けをすれば三十分でいけるだろう。

 よし、閉庁前に作業を終わらせることができるな。


 そんなことを考えていたらアリスが後ろから声をかけてきた。

「ところでゲンボクちゃん、この付喪のお名前はどういたしますか?」

 そうか、ボクっこちゃんの名前を付けなきゃね。


 さすがに「ハイ子」とか「エース子」じゃあまずいよなあ。

「全部聞こえてるのゲンボクちゃん」

「ゲンボクちゃん、この娘の顔が引きつっているから、その名前はやめてやれ」

 しまった、つい口に出してしまったか。

「気を使わせて申し訳ない小町、エミリア」

 でも、ボクっこの引きつった表情も拝みたい気もする。

 

 するとボクっこがこんな希望を口にした。

「ボクは速そうな名前だとうれしいな」 


 そうか、ボクっこは自動車の付喪だもんな。

 うーん、速そうな名前ねえ。

「自動車子」とか? 

「それはそのまんまですゲンボクちゃん」

 アリスに怒られちゃった。

 ボクっこの泣きそうな顔がルームミラーに映りこんできたし、満足したからちょっと反省しよう。


「飛行機子」とか「新幹線子」はもっとダメだろうなあ。

「全部聞こえてるのゲンボクちゃん」

「すまん小町」


 ん? ボクっこが席を立ったぞ。

 運転中の席の移動は危険ですからおやめいただきたいが。 

 へえ、自ら助手席に乗り込むか。


「あの、ご主人様。もっとまじめにボクの名前を考えてほしい」

 十分真面目だよ。

 あと、ちゃんとシートベルトをつけろよって、すでに装着済みか。

 さすが自動車の付喪だ。


 うーん、どうしようか。

 横断歩道で停止したところで、ふと助手席側に目をやると、食器を梱包した新聞の記事が目に飛び込んできた。

 それはちょうどスポーツ欄で、記事には陸上競技の結果と優勝者の写真が掲載されている。

 そうだ、この選手から名前をもらうとしよう。

 

「そんじゃ『千里ちさと』でどうかな」

 そしたらボクっこのツボにはまったのか、彼女は目をキラキラとさせながらこっちに身を寄せてきたんだ。

 といってもこの車、運転席と助手席の間が異常に広いのが難点なんだけれどな。

「うれしいよご主人様!」

「そうか、本人がうれしいのが一番だ」

「小町とおそろいなの」


 そういやこれで、カタカナ名と漢字名が二人ずつだな。

 アリスとエミリアからも文句は出ないし、よし、千里にしよう。

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