洗濯上手
「お前があたしのご主人様かい?」
「え?」
「ふーん、わかってそうな顔をしてるじゃないか。よろしくな」
目の前に立っているのは、上半身は黒のタンクトップで、下半身は腰で白ツナギを止めているぼんきゅっぼんのお姉さん。
「ゲンボクちゃんのおばさん像って、こういうイメージでしたのね、ちょっと予想外でしたわ」
言うなアリス。
「あなたは新しい付喪? あなたは三番目、私は二番目、あなたのお姉さまなの」
小町よ、寝ぼけていないで、もう少し相手の姿をはっきり確認してからそういうセリフを吐こうな。
「よしご主人さま、それじゃあ早速もう一回戦ヤるとするか! で、ご主人様の名前は?」
そっからかよ。
するとアリスが小町のときと同様に話に割り込んできました。
「控えなさいこのド新人が、ご主人様の名前はゲンボクちゃんです!」
うわ、おっかねえ。
しかしド新人も一歩も引く様子はない。
「ほう、キラキラな名前だね、あたしゃ……あたしゃ……、あれ?」
「あなたは今生まれたばかりの付喪ですよ。わかりますか?」
「そうなのかい?」
アリスの言葉に神妙になる、たわしのお姉さん。
「でもあたしはずっと、そこのご主人様と一緒にいたんだよ」
ああ、そうだった。
このたわしはこの家に来た時から毎日愛用していたんだった。
そう思うと、何か愛着がわくなあ。
「よし、お前の名前は『たわし子』だ!」
だめ?
アリス?
小町?
ぼんきゅっぼんのたわしお姉さん?
「ゲンボクちゃんは決定的に名づけのセンスがないですね」
そんなにあきれるなよアリス。
うーんと、ぼんきゅっぼんのタンクトップだものね。
「それじゃあね「サラ」はどうかな」
ほら、世界的に有名な「あいるびーばっく」とか口走っちゃうロボットに追っかけられちゃう映画のヒロインで、バイオレントなお姉さんかつお母さんの名前なんだけどさ。
それか、お口の中からさらにお口が出てくる異星人に、年がら年中追いかけられている「エレン」でもいいけれど。
すると俺の映画記憶をなぞったらしいアリスがこんな名前を提案してきた。
「それなら『エミリア』でいかが?」
アリス、それはロボットに追っかけられているサラお姉さんの本名だよ。
しかも最近の役者さんの方だし。
ところが当事者のお姉さんはまんざらでもない様子。
「気に入った。白物家電っぽい響きもあたしの好みだ」
いいのそれで?
白物家電で?
白物家電って洗濯機とか冷蔵庫とかエアコンとかだよ?
そんな俺の疑問は置いてきぼりにされる。
「それでは改めまして、ようこそゲンボクハウスへ。私はアリスよ、よろしくねエミリア!」
「エミリア、私がお姉ちゃんの小町です」
「おう、よろしくな」
お前らうまくまとまったな。
「ところでアリス、ゲンボクハウスってなんだよ」
あ、俺の質問をスルーしやがったなこいつ。
無理やりゲンボクハウスを既成事実化する気満々だな。
「これを洗っておけばいいんだな。さっきゲンボクちゃんから胞子力エネルギーを充填してもらったばかりだから、体力はばっちりだよ。明日の朝までにはアイロンがけまで済ませておいてやるから、お前らは明日に備えて寝なさいな。まあ、あたしに任せとけ」
なんとまあ力強いお言葉。
胞子力エネルギーってそんなにパワフルなんだ。
明日は「御用聞きの日」、明後日は「調達及び配送の日」だから、エミリアの服もその時に買ってやればいいか。
「それじゃエミリア、今日は頼むよ」
「わかった、その代わりあたしの寝床も用意しておいとくれよ!」
だってよアリス、それはお前に任せた。
「わかりましたわエミリア、それではお休みなさい」
すぐに寝付く小町。
洗濯機をフル稼働させているエミリア。
そして俺の股間に手を伸ばすアリス。
今日もかよ。
「毎日と申し上げたはずですわ、ゲンボクちゃん。それともお嫌いですか?」
いえね、お好きなんですけれどね。
翌朝のこと。
早朝にはオレたちの枕元にはきれいに洗濯物がたたまれていた。
しかし俺は寝苦しさに目を覚ましたんだ。
目を開けるとそこでは、切れ長の目線と厚めの唇がセクシーな男勝りのお姉さんが、甘い吐息を俺に吹きかけている。
ああ、ブラウンのウェービーヘアがセクシーだぜ。
「さてとゲンボクちゃん、約束通りお仕事を済ませたんだから、ご褒美をちょうだいね」
エミリアは俺の上に覆いかぶさりながら耳元でこう囁いた。
さすがお姉さんは遠慮がねえ。
両脇のアリスも小町も、エミリアに徹夜で洗濯をしてもらった以上、ここは寝たふりを続けるしかねえよな。
それじゃあ早朝から頑張るとしよう。
連戦しても太陽が黄色くならない自身の体力に自信を持ちながら朝を迎えた。
それにしてもちょっと異常じゃないか俺の精力って?




