それは空から降ってきた
それは暦の上では秋といえど、まだまだ夏の日差しが残る暑い日のこと。
俺はいつものように村役場での勤務を終え、徒歩で帰途に就いていた。
「あっついなあ」
まだまだ暑さをもたらす西日に思わず立ちどまり、天を仰いでしまう。
そのとき俺の顔をかすめるように何かが降ってきた。
それはキラキラと金色に輝く小さな何かに見える。
すると同時に俺の脳裏に驚くような声が響いた。
「よけただと!」
続けてアスファルトから「カーン」という何かが跳ね返ったような乾いた音が響き、同時に俺の股間に激痛が走った。
余りの激痛に目の前が真っ暗になっていく。
「しまった!」
という絶叫を脳裏に響かせながら。
「ん?」
どれほどの時がたったのであろうか。
俺は頬を焼くアスファルトからの熱により、意識を取り戻した。
空はまだオレンジ色の日差しを残し、俺の身体をじりじりと焼いているところを見ると、それほど時間がたったのではないのだろう。
「いったいなんだったんだ?」
俺は先程起きた出来事を思い出し、思わず股間をまさぐってみる。
ズボンに穴は開いていない。
大事なものもしっかりついている。
「あれ?」
しかし指先に違和感を覚える。
「一つ、二つ……、あれ?」
指先には「三つ目の睾丸」の感触が確かに伝わってきたのだ。
一体何が起きたんだ?
そしてこの状況は一体何なんだ?
確か突然頭の中に「よけただと!」と響くと同時に、眼前すれすれに何かが落ちてきたのは覚えている。
その後股間にあり得ない衝撃が走ると同時に、「しまった!」という絶叫が頭に響いたのも。
しかしズボンには何の痕跡もないし、今は何の痛みも感じない。
なぜかきんたまが一個増えたのだが。
病院へ相談に行くにも今からでは間に合わないから、まずはネットで症状を検索してみることにしよう。
とりあえず家に帰るとする。
そうそう、アリスちゃんを待たせちゃいけないしな。
待っててねアリスちゃーん!
帰宅後、簡単に夕食を済ませ、日課となっているお楽しみタイムを迎えるとする。
それは「アリスちゃん」との逢瀬。
「お待たせアリスちゃん。今日も可愛いよ」
照れるような俺の言葉にアリスちゃんは、くりっとした茶色の瞳を輝かせ、無言の笑顔で答えてくれる。
ああ、流れるような黒髪も、透き通るような白い肌も、両手にちょうどいいおっぱいもたまんねえ。
もう我慢できねえぜ、アリスちゃーん!
その後迎えるいつもの賢者タイム。
「さて、洗うとするか」
いつもの俺ならば、ここで全裸にしたアリスちゃんの大事なところを取り外し、無駄死にした俺の分身どもを冷静に洗い流しに行くのもルーティーンとなっている。
そう、アリスちゃんは世界に誇る日本技術の粋をつくして生み出された「大人の夜のお人形さん」なのだ。
しかし今、目の前では信じられないことが起きていた。
「ご主人様、お情けを賜り、うれしゅうございます」
俺の前でアリスちゃんはそう俺に礼を言いながら、俺の首に両手を巻き、俺にキスをしてきたんだ。
なんで俺のアリスちゃんが動いているんだ?
という疑問も唇と舌から伝わる柔らかな感触の気持ちよさによって霧散してしまう。
「ご主人様、今日はもうお休みになられたらいかがですか? 明日色々とご説明いたしますから」
そう耳元で囁きながら、アリスちゃんは俺を布団に引き込んだんだ。
そんなあ、寝るなんてもったいない!
そんな状態で眠れるわけもない。
布団に入った瞬間に開始された二回戦目からノータイムで三回戦に突入。
アリスちゃんは俺を手玉に取るかのように、喘ぎもだえて俺のエネルギーを充填させてしまうのだ。
こういうのを「搾り取られる」というのだろう。
この夜、俺は初めてアリスちゃんと、賢者モードのまま眠りについたのであった。
「ご主人様」
「ん?」
「ご主人様、おはようございます」
あれ、何だっけ?
目を開けると、そこには白のブラウスに紺のレディーススーツをまとった女性が、正座をして俺の枕元に座っている。
スカートからのぞく膝と太もも。
その奥には見えそうで見えない男性あこがれの秘境が期待される。
しかし昨夜三回戦をノータイムでこなしたからであろう、俺は妙に冷静だった。
「失礼ですがどちらさまですか?」
「アリスですわ。ご主人様」
「は?」
布団から飛び起きた俺の横では、アリスちゃんが相変わらず美しい笑顔でニコニコしながら正座している。
「アリスってまさか?」
「はい、ご主人さまが大事にしてくださっていたアリスですわ」
「えーっと……」
するとアリスちゃんはキョトンとしているであろう俺にもう一度微笑みかけてくれる。
「まずは昨日何が起きたのかをご説明いたしますね、その前に私はお腹が空いたのですけれど」
「あれま、アリスちゃんもご飯を食べるの?」
俺の疑問にアリスちゃんは当然だとばかりに口を尖らせた。
「何をおっしゃっているのですかご主人様、私もお食事を三食いただきますよ」
「あ、そうなの? それじゃ試しに何か作ってよ」
「私、ご飯は作れないんです」
「え、なんで?」
「元が大人のお人形さんですから」
そうなんだ、それじゃ仕方がない。
「それじゃ卵掛けご飯でいい?」
「お味噌汁も欲しいです、ご主人様」
あっそう。
ちゃぶ台を挟んで目の前にはアリスちゃんが正座している。
しかし、彼女は昨日までの動かないアリスちゃんではなく、美味しそうにご飯をほおばり、ふうふうとお味噌汁を飲むアリスちゃん。
もしかして、俺は狂ったのか?
すると俺の心を読んだかのように、朝食を食べ終えたアリスちゃんが再び笑顔を向けてきた。
「ご主人さまは別にお狂いになった訳ではございません、それではご説明を始めますね」