彼女には生きる仕草がよく似合う
死が溢れる病院には様々な物語があるように、小さな図書館が病院にあってもいいのではと思い付いたお話です。
ただそれだけ。
彼女なんて元々いなかったに違いありません。全く、酷い感情を遺してくれたものです。
ええ、最初から似合う筈がなかったんですよ。貴方に死なんてね。そんな不愉快にも溢れてしまう死の物語です。
僕が彼女を知ったのはつい最近だ。叔母の入院先である病院で開いてる扉の先にいる彼女を見かけたのだ。
死の溢れる病院で、彼女は特に眩しげな笑顔を浮かべて本を読んでいた。多くの本に囲まれる彼女。僕はとてもうつくしいと思った。そして、その時に彼女のいる部屋が病院の小さな図書館ではないことを知った。彼女のいる個室は図書館を間違えてしまう位の本が仕舞われる背の高い棚が壁を埋めつくし、絵本を読みに子ども達が彼女の領域へと足を運んでいた。彼女は薄手のカーキ色のカーディガンに袖を通し、丸眼鏡から覗く優しげな目で子どもを時々見守っている図書委員のようである。ここが学校であるならば、本当に小さな図書館のようだ。
叔母の部屋に荷物を届け、ある程度話をして帰ろうとしていた。すると、またあの小さな図書館の扉は開いていた。僕は自分の好奇心に負け、また中の様子を覗き込んだ。数人の子ども達が昼飯を食べに自室へと帰ったのか、彼女が1人取り残された。開いた窓から流れる緩やかな風は彼女の腰まである長い黒髪を撫でている。
続きますよ。彼女が死ぬまでは。