桜井春樹の場合
僕には彼女がいる。
とても可愛い彼女だ。
でも、彼女にキスされても、抱きしめられても何も感じる事はなかった。
そう、彼女の事は好きではないのだ。
彼女ができれば満たされるのではないかと思った。
でもそうではなかった。
彼でなくては駄目だった。
僕は男に恋をしている。
中島裕翔。
バスケ部の部長で、背も高い。
まじめすぎるから、あまり人は寄り付かないけど僕はそんな彼が好きだ。
いつも図書室で本を読んでる。
そんな裕翔に恋をしたのは、一年の時だった。
バスケ部のエースだし、背も高いから入学当初から目立っていた。
周りは、不愛想だとか、優しくないだとか言っていたけど僕はそんな裕翔が気になっていた。
別に僕はホモではなかったし、男を好きになったことなんてなかった。
ただ、友達になりたいと思っていた。
昼休み、図書室に行き裕翔がいないかと探した。
窓際の席で、本を読んでいた。
何を真剣に読んでいるのかなと思い、じっと裕翔を見ていた。
すると、目が合った。
僕は見ていたのがばれて恥ずかしく、目をそらした。
すると裕翔は、クスッと笑った。
この笑顔にやられてしまったのだ。
不愛想だと聞いていたので、こんな表情が見られるとは思っていなかった。
体に電気が流れたような、初めての感覚だった。
それから裕翔とは、一緒に登下校したり、一緒に昼飯を食べたり、するようになった。
やっと、友達と呼べるような関係になってきた。
だけど、今は友達になったことを後悔している。
一緒にいればいるほど、好きという思いが募っていくのだ。
このまま友達でいる方が楽だという事はわかっているが、やっぱり好きだった。
苦しかった。
絶対かなわない恋をしている。
言葉にしてしまったら、もう裕翔とは会えない気がして。
遠くに行ってしまう気がして。
怖かった。
いつまでも満たされない僕の心。
少しでも満たされればそれでよかった。
偶然告白してきた女の子を彼女にした。
彼女の僕への好意を今、踏みにじっている。
最低だ。
結局満たされていないのに。
まだ裕翔が好きなのに。
まだ、愛を求めるのに。
恋ってこんなに苦しいものだっけ。