長谷川蓮の場合
教室に入ると、彼女はいつものように笑っている。
だから俺は、彼女のそばに行って
「おはよ」といった。
それからしばらく彼女と会話をし、自分の席についた。
たぶんずっと前から、彼女は俺の事が好きだ。
クラスの奴らが騒いでいるし、俺に対する態度からも読み取れる。
だが、俺には好きなやつがいる。
そのことに彼女も気づいていると思う。
隣のクラスの佐々木七海だと彼女は思っているかもしれないが、俺はその姉が好きなのだ。
佐々木七海の姉、佐々木奈々。
奈々は俺の1つ年上で大人ぽっくて、やさしくて。
俺なんかに釣り合うはずないってわかってる。
そして、報われない片思いという事も。
奈々には付き合っている人がいる。
噂によると、大学生でめっちゃイケメンらしい。
到底かなうはずがない。
だけど、少しでも近づきたかった。
だから、七海に手を出した。
仲良くなって、告白して、付き合えたら少しでも近づけるんじゃないかって勝手に想像したんだ。
そして、無条件で好きでいてくれる夏をどうしても手放せなかった。
夏がかわいそうだから。
これを言い訳にして、すがっていたんだ。
夏のやさしさに。
俺は、七海への告白の仕方を夏に相談した。
最低だ。
なぜか罪悪感が込み上げてきた。
今更、なんで。
今までずっと利用してきたのに。
夏がいつもと同じような顔で、相談に乗っているからかな。
それとも、まだ夏に愛してほしいから?
わからない。
自分の事なのにわからない。
ごめん。
でも俺は、奈々が欲しいんだよ。
苦しくなるほど、好きなんだよ。
たとえ、自分を汚しても。
夏はしっかりと答えてくれた。
礼を言って、俺は七海のもとへと走った。
夏がどんな顔をしていたのか、怖くて振り向けなかった。
これでいいんだ。
こんな最低なことをしているのに、まだ夏に俺のことを好きでいてほしかった。
「俺って、ホント最低だな」
自分でもあきれるくらい、愛を求めていた。
人ごみの中から、七海を見つけ屋上に誘った。
「好きだ。」