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神さまの特権  作者: 原咲一
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兄弟刀と光の剣

 ー4月11日午前6時ー


 枕元に置いたスマホのアラームに起こされた俺は、着替えを済ませ、リビングに出てきたところで、晴人に文句を言われていた。


「おはよう。やっと、起きたの。遅いよ、俊」


「おはよう。遅いって、時間通りだろう」


 焼き魚をテーブルに運んでいる晴人に挨拶を済ませつつ、テーブルに目をやると大体の状況は推測できた。テーブルの上には、ご飯と味噌汁、お箸にコップが3人分置かれている。さらに、晴人がメインとなる焼き魚を加えた。どうやら、俺が寝ているうちから朝食の準備をしていたらしい。


「おはようございます、蒼木さん。手伝いますよ」


「もう終わったからいいです。気持ちだけ受け取っておきます」


「すみません、気づかなくて。明日からは手伝いますので」


「そんな、気にしないで。これは私の仕事だから。まぁ、その分、早く起きて手伝ってくれた晴人くんには、思いっきり感謝してるわ。ありがとう晴人くん」


「いえいえ。泊めてもらってるので、当然ですよ」


 お茶を持って、テーブルに向かってきた蒼木さんに手伝いを申し出たが、一歩遅かったようだ。蒼木さんと晴人の笑顔がめちゃくちゃ痛い。本気で怒ってはないんだろうけど、なんていうか、胃がキリキリする。


「明日からは、全力で手伝わさせていただきます」


 決意表明をした俺を、満足そうに2人が笑い、蒼木さんが「期待しないで待ってるわ」と言ったところで、朝食にした。


「今日、何時に起きたんだ?」


「5時30分。リビングに行ったら、もう朝ごはんは大方出来上がってたからテーブルに運んでただけだけど。だから、蒼木さんはもっと早くから起きてたんだと思う」


 朝食の最中、今日の失敗を取り返すべく、晴人に質問した俺は、少し、明日が心配になってしまった。ちなみに、蒼木さんが何時起きなのか聞いてみるも、


「秘密。あぁ、それから一応言っとくけど、今日からの特訓で疲れるだろうし、明日の早起きはきついわよ。まぁ、でもやるって言っちゃたんだし、余裕よね。」


と濁された上に、カウンターを食らってしまった。


「「ごちそうさまでした。おいしかったです」」


「ありがとう」


 朝食を終えると、今日からの特訓について、蒼木さんが説明してくれた。特訓は、7時から始まって、お昼休憩の後、午後1時から6時まで行う。暗くなると、効率が落ちる上に、明日に疲れが響くから禁止だと言われた。特訓の内容は、多少、変化するが、朝は発現能力の向上、午後は実戦練習のメニューを毎日行う。


「それじゃあ、早速、朝の練習に取り掛かりますか。片付けた後、庭まで案内するわ」


 ー午前7時、蒼木家の裏庭ー


 庭まで案内された俺達はその広さに圧倒された。お宅だけでも大きいと感じていたのに整備されたスペースとそれを取り囲む花壇は、学校の体育館の広さをゆうに超えている。


「裏庭なのに何もないスペースが広いですね」


「そうね。晴人くんも現象力の行使は然者の仕事以外で公では禁止されているのは知ってるでしょ。だから、特訓するには周りに被害を広げないだけの安全な私有地がいるのよ。私は立場上他の人の面倒を頼まれることも多くって」


「それで、これだけの家と庭なんですね」


「そういうこと。私もあんまりお金ないのにね。それはそうと、そろそろ本題に入るわ。朝の特訓は基礎能力の向上。現象力の発現は、然者の力の元とも言われるノーツを輝石に反応させることで起こるとされているわ。反応の結果が、色々な現象として発現する。人によって起こる現象は違うけれど、その基準はまだよく分かっていないわ。ただ、血脈によるというのが今の最有力説ね。要は、親の現象を受け継ぎやすいってこと。まぁ、稀にノーツを持たない親の子にノーツが発生することもあるけど。っと、これが現象力の概要よ。ここまでは良い?」


「えぇ、学校でも習いましたし、父さんからもこの辺は聞いてます」


「OK。それで、基礎能力の向上って言うのは輝石との反応の効率を上げること。輝石に力を送り込むことを繰り返すことで、よりはやく、より大きなエネルギーを引き出せるようにする練習です。前に、然者の適正を見る時にやったのと同じね」


「つまり、輝石に触って、反応させてみるってことですね。でも輝石はどこに?」


 確かに。前は、目の前に岩みたいな輝石があったが、今はこのだだっ広いスペースに何もない。


「まぁ、待って。前は大きな輝石の原石でやったって聞いたけど、もう2人は立派な然者の卵なんだし、今度は実際に使う装備でやります」


「実際の装備って、ってことは」


 俺の、俺達の期待を一心に受け尚、笑みを崩さない蒼木さんは期待に応えるように続けた。


「あの原石はその後、加工され2振りの刀になりました。そして、特訓はその刀でやります」


 そう告げた蒼木さんが右にずれると、そこには2振りの真っ白な刀があった。目の前の蒼木さんの家の壁を挟んだ、部屋の中に。


「って、なんで家の中なんですか!」


 初めての装備なのに、せっかくの興奮が、と嘆く俺と晴人を見て、一層嬉しそうな蒼木さんは顔の前で両手を合わせて、


「ごめんね。せっかくだしサプライズしたかったんだけど、良い場所がなくって。それに、大事なものを外に置きっぱなしにはしておけないし。ここからだと、ちょうど倉庫部屋の前だったから、つい」


と笑顔で謝ってくれた。


「そういうことですか。まぁ、せっかくの装備だし早く取りに行こう。取ってきて良いですか?」


 晴人は蒼木さんから家の鍵を預かると、俺を誘った。早く触りたい気持ちは俺も一緒だし、もう切り替えよう。ほんと、蒼木さんは楽しい人だな。そう思い、2人で倉庫部屋へ刀を取りに向かった。


 想像よりも重い刀を持って、庭に戻ると、同じく剣を持った蒼木さんが待っていた。


「おかえり。それじゃあ、特訓を始めます。まずは、私がやるから見ておいて」


 今までと違う雰囲気で、顔の前に剣を掲げると、いきなり眩く光った。


「うわっ。眩しい」


 思わず、手で光を避けた俺と晴人に、


「この程度の閃光で目を背けてはダメよ。それじゃ、実戦で相手に一撃入れられない。この光に慣れる練習から毎日始めます」


 そう言って、蒼木さんは剣を振りながら光を消して、鞘に収めた。練習になってからの蒼木さんに圧倒されて、身体が強張ってしまった。


「次は、君達の番よ。俊くんの刀は太刀で、晴人くんの刀が薙刀でいいのね」


「はい、その通りです」


 それぞれ、父さんに言っておいたオーダー通りの刀だ。手にした途端に重さから武器ということを強く意識させられる。蒼木さんの雰囲気も相まって晴人の返事も口数が少ない。


「2本とも良い刀ね。今日から自分の刀は自分で管理してもらうけど、自分の刀以外には現象を発現させないでね。一度、他の現象を使うと、剣に癖みたいなのがついて、発現するものが変化してしまうから。それに、自分の適正じゃない現象を無理矢理発現すると効率がとても落ちるから。良いわね」


 次々と告げられる然者の知識を拾いながら2人そろって頷くと、


「早速、1人ずつ発現させてみて」


と、特訓の本番が始まった。

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