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神さまの特権  作者: 原咲一
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神さまの条件

 地球上で巻き起こるあらゆる自然現象。時に人々の生活をもひっくり返す力は人の手の届かない、神の業と思われていた。


 ー3年前ー


 今年で13才になる俺—夏川俊(なつかわしゅん)—と親友の晴人(はると)は、俺の父さん—夏川達也(なつかわたつや)—に家の庭に連れ出されていた。母さんが、俺を生んですぐに死んでしまった後、父さんが俺を育ててくれ、生まれてすぐに両親を亡くしてしまった晴人も引き取り、俺と一緒に育てた。


「なんだよ、父さん」


 重いまぶたをなんとか開けることに意識を向けながら、朝早くから起こされた不満を父さんにぶつけた。


「お前たちもいよいよ中学生になる訳だが、まずはこれを見てくれ」


 眼前には、丁寧な口調と穏やかな外見とは裏腹に、茶髪の少年で親友の晴人、豪胆な性格通り、筋肉質な体つきに短髪の黒髪、鋭く黒い瞳を持つ父さんの他に真っ白く磨かれた大きな石が一つ、父さんの足元に置かれている。


「これは、石?」


「石っつうか岩だろ、この大きさは」


「これがどうしたんだよ!」


 朝からこんなことろに連れてこられて不機嫌な俺に少し得意顔になって父さんは答えた。

 

「お前たちも知っているだろうが中学を卒業すれば然者を目指して旅に出るやつがいる」


 20年前、世紀の大発見となった輝石(きせき)は世界を変えた。輝石に含まれる物質であるノーツは特定の人間とリンクすることで、炎や、水、雷といった自然の力を生み出す。ノーツとリンクした人間は神の業を得た。力を得た人間は世界に猛威を振るい、革命を図った。彼らの目論見を止めるすべはなく、世界は崩壊寸前となったが、その野望が叶うことはなかった。


 革命家達に対抗したのは、各国が巨額の資金を元に抱き込んだ神の子達だった。革命家と同じ力を持つ彼ら、第一世代の然者(ぜんしゃ)が革命を止め、世界が然者を保護という名の国力とし、国連で協定を結ぶことで革命は終結を迎えた。


 日本では、防衛省の下に上級然者16名で構成された然上会(ぜんじょうかい)が発足し、然者の登録・管理をしている。然者と認められれば、輝石の調査など特別な仕事を許される。現代の人々にとって、神の御子とも称される然者になることは夢である。

 

 然者になる条件とは、


 一、最低限の知識を身につけるために中学校までは卒業すること。


 二、現象者を目指す者は国に申請し、許可証を手に入れること。また、許可証は毎年更新すること。


 三、現象者を目指すことができる期間は中学校を卒業してから7年間のみとする。


 四、三の期間に現象者の資格を得られなかった場合、然者の序列上位16名で構成させる然上会において十六名全員の推薦があれば、現象者の資格を得ることとする。


 この4つの条件をクリアした現象者は、自然を司る者と人々から称されている。俺の憧れの職業だ。


「それは知ってるけど……」


「実はなぁ、然者を目指すかどうか、いや、目指せるかどうかをはやいうちに見極めなきゃいけないんだ。ほら、無理なら高校に行かなきゃいけないから、勉強を頑張らなきゃいけないし」

 

 確かに然者の素質があるのが一握りの人間である以上、その素質は見極めなければいけない。もし、ここで素質なしってなれば俺の夢がいきなり絶たれかねない。そんなことは絶対にないと言い聞かせながらもどうやって素質を見極めるのかと思考を巡らせていると、


「なるほど、でもどうやって見極めるんです?」


 と、父さんの言葉に納得しながらも俺と同じ疑問を持った晴人が聞いた。


 質問を受けた父さんは、想像通りと言わんばかりににやりと笑いながら言った。


「然者を目指せるかどうかを見極めるには、実際にやってみるしかないだろう」


「だから、どういうことだよ、父さん?」


 父さんが言ってる意味が分からず聞いた僕に親父は溜め息をついてから答えた。


「はぁ〜、まだわかんねぇーのかよ。晴人の方は分かったみたいなのになぁ。ったく、俺は情けねぇぞ!」


「悪かったよ」


 芝居がかった父さんの言葉に溜め息をつく代わりに返事をしてから得意顔になっている親友に聞いた。


「それで、結局どういうことなんだ?」


「つまり、然者には輝石を使えなきゃなれないってこと」


「それはそうだけど」


 結局2人は何が言いたいんだぁ〜。本気で困惑してきた僕に晴人は笑いながら言った。


「俊って本当に鈍いよね」


「むむむ……」


 悔しそうにしている僕をひとしきり笑った後急に真面目な顔になった。


「だから、僕たちの目の前にあるこの岩が輝石なんだよ」


「なっ!これが輝石だって。確かに輝石を見たことはないけど、こんなに大きいのか」


「そんな訳ないだろ。輝石の大きさは、もちろん様々だよ」


 僕の驚きをあっさりと別種の驚きに変えた父さんは、さらに続けた。


「輝石は見つけるのも苦労する上に、発見時によって、大きさは色々だからこの大きさの輝石を見つけるのは本当に大変だったんだぞ」


「そんな苦労話を聞かされても」


 父親の愚痴じみた苦労話を聞いて、複雑な心境になった僕は無意識のうちに呟いていた。そして流れ出した微妙な雰囲気を変えてくれたのは、さすがというべきか、やはり晴人だった。


「まぁ、とりあえず試してみようよ。おじさんも頑張ってくれたみたいだし」


「さすが晴人は分かってるなぁ」


 父さんの頷きを流すことに今度はどうにか成功した僕は、晴人のアイデアを受け入れた。


「じゃあ、とりあえずやってみるか。どうやればいいんだっけ?」


「とりあえずは心を込める感じで、力を振り絞ってみればいい」


 真顔で言う父さんの言葉の抽象さに心の中で深く溜め息をついてから、父さんはこういう人だったと無理やり納得しつつ、父さんの言葉通りやってみることにした。もちろん、言葉の意味は全く分かっていないが。


 現象石の目の前に立った僕は、岩のような石に手を置き、少年マンガの主人公をイメージし、念を放つように力を込めたのだが。


「何も起きない」


「もっと、具体的にどんな現象を起こしたいかイメージしてやってみろ」


 父さんの説明を今度は素直に受け入れると、僕は目を閉じ、イメージ力を働かせた。


 一口に自然現象と言っても、その中身は様々で中には、全く逆の対となる現象もある。そんなものの中から、一番にイメージしたのは、自然現象と言うには人の手を借りすぎている気もするもので、人類の発展に一役かった、僕たちの生活に慣れ親しんだあれだった。


「っん!温かい」


 僕の思いによって発生した力、それは熱(イメージでは炎)だったのだが。


「……」


「どうした?」


「いや、なんていうかイメージと違うっていうか思ってたよりしょぼいっていうか。どうなってるんだ?」


 父さんの問いに問いで返すと、父さんは大いに笑ってから答えた。


「ははは、そりゃそうだ。ノーツの力は然者の成長に大きく左右される。まだ小さいお前じゃ、その程度のものだ。だが、現象自体は見事に発生した。つまり、お前には然者を目指す資格があるってことだ」


「良かったじゃないか」


 父さんの言葉を聞いて、僕を励ましてくれた晴人と交代して下がると、今度は晴人が輝石の前に出た。


「緊張しなくても大丈夫だぞ」


 僕の声援に右手を上げて応えた晴人は、そのまま現象石の上に右手を下ろした。


 その刹那、晴人の右手がわずかに上がった。その反応に気づいた父さんがとっさに声をかけた。


「どうした」


「大丈夫です。なんだか石がすごく冷たくて、思わず手を離しちゃっただけです」


 その言葉を聞いた父さんは、真剣な顔つきになって、もう一度試してみるように言った。


 晴人の再チャレンジの結果は、僕の目から見ても見事なものだった。手を着いた瞬間に石の温度が下がり(最初に晴人が冷たいと感じたのは、これが原因だった)、瞬く間に水が出来た。


 晴人の成功により、二人とも然者の資格を持っていることを喜んでいた僕たちを尻目に、父さんの顔つきは堅いままだった。


 ー現在ー


 先日中学校の卒業式を終えた俺と晴人は、父さんと一緒に市役所に行き、俺たち二人分の許可証を発行してもらった。一晩後、いよいよ然者を目指す旅に出られると意気込んでいた俺たちは、いつかの如く早朝に父さんに呼び出されていた。


「こんな朝早くからどうしたんだよ?」


 文句を言いながらも、旅に出られるとあって上機嫌の俺に、父さんは一言おめでとうと言った後、旅に出るにあたっての説明をすると言って、話し出した。


「まず、基本的なことから説明するが、然者になるためには毎月、各都道府県、計50カ所で開催される大会で、1年間の間に5回優勝することが条件となっている。現象者を目指せる7年間の間に一度でも達成出来れば晴れて然者になることができるが、一度も達成出来なければなれない。ここまでは分かってるな?」


 ここでふと疑問を感じた俺は、思わず口を開いていた。


「でも、規定では、7年間の間に一度も達成出来なくても、然上会の推薦があれば然者になれるんじゃ?」


「確かにそうだが、然上会の推薦なんて得られる奴が、7年も失敗すると思うか?」


 父さんは俺の疑問にさらりと答えると、説明を続けた。


「ここまで言った通り、1年間で5回優勝すればいい訳だが、規定には同じ場所の大会には一度しか出場してはいけない、とか、優勝後はその大会に参加してはいけないなんて書いていないんだ」


「それって、つまり同じ大会に何度も出場してもいいってことですよね。それじゃあ」


 興奮した晴人の言葉に、頷くいた父さんは俺たちに衝撃の事実を打ち明けた。


「あぁ、同じ大会に何度も出場できる以上旅に出る必要なんてないんだ」


「じゃあ、なんでずっと旅にでなきゃいけないって言ってたんだよ!」


 俺の驚愕を言葉にして放った一言を受け止めた父さんは、じっと俺たちの目を見て答えた。


「旅にでる必要はないが、旅をすることで多くの経験を得られる。お前たちには黙っていたが、俺も昔、旅をしたことがあるんだ。そこでの経験は俺にいくつもの影響を与え、そうして今の俺がいる。だから、そんな経験をお前たちにも味わってほしい。そのために、お前たちの旅へのモチベーションを上げる意味でこれまで言ってきたんだ」


 父さんの言葉を受けてもいまいち旅の必要性が分からなかったが、何よりも父さんの目に浮かんでいる願いの色を汲み取った俺は、この先をもう決めていた。そしておそらく、晴人もまた。


「俺たち(僕たち)は、旅に出るよ」


 完璧に一致した俺たちの宣言の後、父さんは満面の笑みを浮かべて笑った。それから、最初に行く横浜まで一緒に行くと言った。俺たちは、二人だけで行くと言ったが、なんでも俺たちに会わせたい人がいるらしい。


 そうと言われれば断る理由も無いし、どんな人に会えるのか楽しみだ。


 4月10日、こうして俺たちの旅が始まった。

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