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第2話

それは突然の知らせだった。

昨日はあんなに楽しそうに会話していた香澄が



もういない。



どうしてこんなことになってしまったのだろう。

そう、全ての元凶はアレだ。






”儀式”


絶対にやってはいけない。

ソースは兄ch。



『儀式』らしいが、目的は分かっていない。



深夜1時に洗面所の前に立つ。

この時洗面所の電気はつけて、周りは暗くしておく。

そして鏡で1分間自分の顔を見つめる。

それから見つめたまま洗面所の電気を消す。



暗闇に目が慣れてきて鏡に写ったのが自分じゃない誰かで、手を伸ばしてきたら成功。

その手を掴むと願いが叶うらしい。

この儀式が終わって気が付くと朝になっていてなぜか寝室で目を覚ますらしい。

夢のように思えるが、ハッキリと覚えている。



ちなみに自分の顔が写るか、何も起こらなければ失敗。



タブーが1つだけあって、途中で辞めてしまうこと。

鏡から目をそらしても辞めたとみなされる。

誰が写っても目をそらしたりしたらいけない。






『タブーが1つだけあって、途中で辞めてしまうこと。」



恐らく香澄は何かのせいで途中でやめてしまったのだろうか。

真紀はそう思いながら先生の話を聞いていた。

隣を見ると彩愛が茫然と立っていた。



「なんで……亡くなったんですか……?」



真紀は恐る恐る尋ねた。



「あまり言っちゃダメって言われてるんだけど……あなたたちには知る権利があるわね……。






自傷行為による自殺よ。






洗面所で手首を切って倒れていたそうよ。」





真紀は生々しい現場を想像してしまい、顔を両手で押さえ肩を震わせた。

彩愛は放心状態でその場にしゃがみ込んだ。



「私が……あの時もっと……。」



しゃがみ込んで彩愛の肩をポンポンとしながら真紀は言った。



「大丈夫……。大丈夫だから……。」



もう、どうすることもできないのだ。

本当にあの時……。




「……何か知っているのね?」




その後先生にあったことを正直に伝えた。




「なるほど……。でも信じがたいね……。」



先生はパソコンで噂を検索していた。

兄ch 噂 儀式

で検索すると、検索結果の一番上に香澄が見たと思われるページが表示された。

そこをクリックしてみると、多くの人がコメントを書き込んでいた。



『ガチだった』

『途中で目をそらしたら次の日虫歯になった』

『なにも起こらなかったぞ』

『全然知らない人が出てきてビビった』

『失敗したからか知らんけど階段から落ちた』

『元彼写って気分を害した』



など、ほとんどが成功した、という書き込みだった。

失敗した人の共通点としては”必ず何かしらの不幸が起きる”ということだ。

鏡に写る人の法則性はわからなかった。



「あなたたちは誰が写ったの?」



先生がモニターを見ながら優しく言う。

彩愛は意識のない人形のようだった。

ぼんやりとモニターを眺めているが先生の話は耳に入っていない。

なので真紀が代わりに答えた。



「私は自分が写りました。でも、手を伸ばしてきたんです。」



「なるほど、そんなこともあるのね。」



真紀は恐怖に耐えられずに顔を覆う。

先生が背中をさする。



「つらかったね……。堅田さんは?」



まだぼんやりとしていた。

真紀が肩をさすった。



「私は……。おんなじクラスの……。」



そこまでいって彩愛は立ち上がり、職員室を駆け出して行った。



「ちょっと!堅田さん!」



「彩愛!」



真紀は急いで後を追いかけた。





~*~*~*~*~*~*~





「彩愛!」



廊下を走り抜ける彩愛を追いかける真紀。

そのまま靴も履き替えずに外に飛び出す。



「彩愛っ……てば!」



息を切らしながらも走り続ける。

校門を過ぎたあたり、彩愛は倒れこんだ。



「あ……彩愛!?大丈夫!?」



彩愛は息切れしながら瞳から涙をこぼしていた。

溢れ出す後悔が滲み出している。



「わ……私、どうしよう、鏡、写ったの、」



「もしかして、百田君でしょ?」



彩愛は赤い目を大きく開く。

なんでわかったの?と言いたげだ。



「なんとなく、わかるよ。好きなんでしょ。」



百田はバスケ部のキャプテンで、みんなから好かれている。

前から彩愛が目で追いかけていたのを真紀は知っていた。



「なんか、嫌な予感がする。」



彩愛は嗚咽をこらえながらなんとか言葉を吐き出す。

肩を支えられながらなんとか起き上がる。



「大丈夫、落ち着いて。」



真紀は優しく声をかける。

涙を拭ってあげると彩愛は少し落ち着いた。

深呼吸を一つし、呼吸を整えた。



「ごめん、ありがとう、ちょっと焦りすぎてた。」



彩愛がこうなるのも無理はないだろう。

クラスメイトが死んでしまったのだから。

真紀は彩愛に手を回し抱きしめた。

彩愛も手をまわした。



「真紀は、大丈夫なの?」



彩愛は心配そうに尋ねる。

真紀は一瞬間を空けてから答えた。



「大丈夫だよ。」







職員室に戻ると、今日はこのまま帰っていいと言われた。





~*~*~*~*~*~*~






二人は彩愛の家にいた。

あのあと、彩愛がもう少しだけ話がしたい、と言い出したからだ。



「本当に儀式のせいなのかな……。」



水筒に入った麦茶をチマチマ飲みながらポツリとつぶやく。

彩愛の部屋の鏡は布で覆われていた。

真紀は不思議そうにそれを見つめていると静かに答えた。



「アレ以来、鏡を見るのが怖くなっちゃって。写ってるのが自分じゃない気がして。」



無理やり笑顔を作る。



「それを言ったら、私は自分が手を伸ばしてきたんだよ?」



真紀の事例はおそらく初めての事例だ。

誰もあのサイトにそんな書き込みはしてなかったし、香澄も言っていなかった。

だからなおさら怖い。



「あはは、でもなんで鏡に写るのが他人なんだろうね。」



うーん、と真紀はうなった。



「法則性が全然わからない。」



スマホでさっき先生が見つけたサイトを見ながら彩愛もうなる。

下から上にスライドする手が止まらない。

それだけ多くの人が実践してみたということだ。

5秒くらいしてからその手が止まる。

1つの書き込みを凝視しているようだ。



「彩愛、どうした?」



乾いた声で尋ねる。



「この書き込み見て。」



彩愛は真紀の顔の前にスマホを見せた。

そこには普通の書き込みのようなものが書かれていた。



『私は何にも起こらなかった……。』



真紀は首をかしげた。

どこもおかしいところは見当たらない。



「書き込みじゃなくて、IDを見て。」



IDとは書き込みされる際に自動的に割り当てられるものだ。

1つのパソコンに1つのIDが割り当てられるため、どのパソコンで書き込まれたのか分かる。

が、それがどうかしたのだろうか。



「さっきから同じ人が何回か書き込みしてるの。」



真紀はまだピンと来ていないようだった。

そもそもID自体がよくわかっていない顔をしている。



「このIDを覚えていてね。」



半角の英数字の十数ケタの羅列が書かれている。

真紀は覚えられないなと思い最初の5ケタだけを暗記し、頷いた。

彩愛は下から上へスライドさせて次の書き込みを見せた。



『女の人が見えた……。怖かった……。』

『この人が将来のカレなら……。』

『途中でよそ見しちゃった、どうしよう。』

『俺の元カノがいてビビった。』



これら全て同じIDのものだった。

明らかに性別が違う書き込みもあり、何が目的なのかが彩愛には全く分からなかった。



「誰なの、何の目的なの……。」



頭を両手で抱え、黒い長い髪をクシャクシャとした。

綺麗に整えられた髪がぼさぼさになる。



「ちょっと落ち着いて考えてみよう。」



目的……、真紀は腕を組む。

こんなことを楽しんでる愉快犯……?

本当に目的があるのか……?



「ただ……、この噂を広めるのが目的……とか……?」



彩愛が言葉をこぼす。

真紀が組んでいた手をテーブルの上に乗せ、少し乗り出した。



「それはあり得るんじゃない?」



「だとしても何のためだろう……。」



彩愛は麦茶で喉を潤した。

真紀はチラリと外の方を見るとカラスが1日の終わりを告げていた。

スマホを見ると17:00と示されていた。



「もうこんな時間……。」



「わ、ほんとだ。」



彩愛は立ち上がって扉のほうまで行った。

真紀も立ち上がってその後をついていった。

彩愛が扉を開いて出ていく。



「彩愛。」



彩愛の背中に真紀の体温が感じられる。

前で回された手にぬくもりと、安心が得られる。



「私は大丈夫だから、大丈夫。」



手をそっと重ねる。



「ありがとね。」








~*~*~*~*~*~*~




忙しい1日が終わり、重苦しく次の日がやってきた。

人が亡くなったというのにクラスのテンションは、まるでライブ前の会場のようだ。

様々な噂が飛び交い、真紀は肩身の狭い思いをしていた。



「聞いた?隣のクラスの。」

「聞いた聞いた。自殺したんでしょ。」

「誰だっけ、名前わかんないけど。」

「死因は何?」

「首吊って死んだらしいよ。」

「え、俺首切ったって聞いたけど。」

「え、違うよ、飛び降りたんだよ。」



ありもしないようなことも囁かれている。

そしてチラチラと真紀の方を見る人もいた。

真紀はそれを聞かないように机に突っ伏し、肩を震わせた。

抑えろ……抑えろ……と考えていたが、限界がもうそこまで来ていた。

そのとき、



「おはよう!」



彩愛の声が聞こえてすぐに飛び起きた。

だいぶ無理しているようにも見えるが、二人で昨日誓った。

香澄のことを忘れるわけではない、でも、前に進まないといけない。



「おはよう!」



笑顔で真紀も返す。

彩愛の顔も緊張が解けて行き、いつもの笑顔になった。

よかった、と心から思ったときだった。





教室の扉が開き、入ってきたその人。



「おはよう。」



いつも通り挨拶をする、そしていつも通り教室に入る。



ただ、周りの視線と右手の包帯。





真紀は彩愛をパッと見た。

徐々に呼吸が荒くなって行き、今にも倒れそうになっている。



「彩愛!?大丈夫!?彩愛!?」



真紀は椅子から立ち上がり、すぐに彩愛の体を支えた。

力が抜けていくのが分かり、とっさに抱えながら教室を出た。



「保健室行くよ!」




~*~*~*~*~*~*~





「大丈夫……?」



しばらく横になり、落ち着いてきた彩愛が深呼吸をする。



「私のせい……だよね……?」



教室に入ってきたその人。





百田君だった。





彩愛の儀式に出てきたその人。



「さっき聞いてきたんだけど、昨日部活中にぶつかったんだって。」



大丈夫だよ、と肩をさする。

彩愛の目から大粒の涙がこぼれる。

さする手を少し早める。



「大丈夫、大丈夫だから。」



2人はそのまましばらく無言でいた。



そして今日も二人はこのまま帰された。



帰り道もなにも語らなかった。













そしてこの後、不幸が続く。












次は











お前だ。

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