大樹の妖精
大樹のえだにひっ付くように座っているのは、エナンって子。
エナンの身長は、おやゆび姫みたいに小さくて、耳がつんととんがってる。そんで、白い肌に、月みたいにきらきらした髪をしているんだ。
エナンは他の妖精が怖くて仕方がないから、いつもこの場所にいる。
したらさ、どうしてそうなったんだい? って思うでしょ?
エナンはね、いたずら好きの妖精だった。ある日、ハイドって子のダイヤモンドみたいな羽が羨ましくて引っこ抜いてやってしまった事があるんだ。
だけども、今や、羽のないハイドは皆んなの人気もの。だって、羽がある皆んなは水に濡れてしまうと飛べなくなってしまうから、水を恐れているんだ。だけどさ、ハイドは羽のない妖精だから、へっちゃらってな顔で水の上を泳いでいるし、もし、水辺で困っている子がいたら助けてあげられる。そんなハイドが皆んな好きなんだ。妖精も、ありも、蝶や、花だって皆んなハイドが好き。
そんで、エナンは後悔した。あーんなことしちゃんたんだって、ひどく後悔したんだ。そん時にはもうおそくってね。ハイドが大好きな皆んなにいじめられてしまった。
そして怖くなった。妖精が。
今は、ひっそりと大樹からハイドや他の妖精たちを見おろすばかり。することと言ったらそんなもんくらいで、毎日、後悔しても、しても傷は深まっていくばかりだったんだ。
ある日、エナンは今年ではじめて地面に降りてみたんだ。あまりにも綺麗なお花が咲いていたもんで、思わず降りてしまった。
その花は、まっ白で、まるでエナンそっくりだった。雪みたいに白いけど、その茎には刺があったんだ。綺麗なのに悪いぶぶんもあるってこと。
エナンは、綺麗なあまりにひっこぬこうとした。したら、突然お花の声が頭ん中に聞こえてきたんだ。
「こんども、私みたいな物をひっこぬいて、かざりにしますか? それとも、私をひっこぬいたら、誰かのためにプレゼントして差し上げてみるの?」ってね。
このしゅんかんに、エナンは気がついたことがあって、すぐにお花を引っこ抜いてやわらかい小枝で作ったかごの中に入れた。
それをさ、エナン、どうしたか気になるでしょ?
エナンは泉のほとりまでつくと、そこで泳ぐハイドにいったんだ。
「きずつけるつもりは無いの。だから、地面にあがってきておくれ」
あら何かしら、と、ハイドがあがってくると、エナンは、
「これ、あなたに差しあげるわ。むかしは悪いことしてしまって、本当に、この花を差しあげても頭が上がらやしないほどだわ」
と言って、白い花をつんだかごをハイドに差し出したの。
「まあ! 嬉しい。謝ってくれたのならもういいの。謝ってくれたのだからね!」
ハイドはそう言って、白い歯をみせた笑顔でかごを手にとった。
エナンはやっと気がついたんだね。悪いことしても、どんな悪いことしても、謝らない子はそれこそ、花の刺のように悪い物だってことを。
謝ることの大切さをそこで、気がつくことが出来たんだね。ああ、感心、感心。
ふたりはこれで、仲直りして、エナンをいじめる子も、だーれもいなくなったの。
謝るってことはそれだけ大切なことなんだ。
でも、教えなくたって、もうエナンは分かるよね? もう、大樹の上にひそひそ暮すこともなくなって、みんなと一緒に遊んでいるのだから! ああ、安心、安心。
お し ま い