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魔獣の壺シリーズ

魔獣の壺 - 番外編 - 英雄への思い

作者: 夢之中

私の名前はジェイル。

今は、普通の人をやっている。

映画とかに登場するエキストラと同じだ。

世界の中で、主役にはなれない、

いわゆるその他大勢というやつだ。


ただし、僕の場合は、普通の人と少し違った。

貴族の親の元に生まれたのだ。

つまり、お金持ちということだ。

今までの人生は、何一つ不自由な生活ではなかった。

その時、考えられたほしい物は、お願いするだけで

全て手に入った。

手に入らないものなど無いと思っていた。

そして、このことに何の疑問も持っていなかった。


父親も母親も健在だったが、私の面倒を見ていたのは

ベルノという世話係だ。

彼は、A級の神聖魔導士だった。

私の中では世話係というよりは、

年の離れた兄と言ったほうがしっくりとくる。

毎日の繰り返しの生活の中で、

もっとも長く同じ時間を共有していた。

彼はとても優秀で常に私の考えの先を考えていた。

きっと、私には想像の及ばない未来をも、、、。


私の唯一の楽しみは小説を読むことだった。

読書を進めたのは、ベルノだった。

彼が持ってきた本は小難しい専門書から

小説などの娯楽本まで多岐にわたっていた。

専門書は読みたくなかったが、小説の続きが読みたいが為に、

専門書にも目を通した。

今思えば、あれは彼の策だったのではないだろうか?


私が夢中になった小説は、主人公が悪者を倒す、

いわゆる勧善懲悪小説だ。

しかもその主人公は、普通の人だった。

普段は普通の人と共に生活しているのだが、

顔を隠すマスクを付けると別人のように強くなり、

ばったばったと悪人を倒して行く。

元々強が強いのか?

それともマスクに秘密があるのか?

それは分からなかったが、とにかく強かった。

さらに驚くべきことに、そのマスクだけで本人だと

分からなくなるのだ。


私が読んだ数多くの小説の中で特に好きだったのは、

「六英雄伝」という小説だった。

魔獣王に立ち向かう6人の英雄達の話だ。

1人1人は、それほど強くなかったが、

6人が力を合わせたときに発動する

その絶対的な力に魅了された。

そして、それに憧れた。

6人の英雄のリーダーに自分を重ね合わせ、

そのきめ台詞である、

 「俺は、英雄王になる!!」

という言葉を念仏のように唱えていた。

しかし、現実の自分も頭の中にいた。

そんなことは無理だと何時も言っていた。

それが言うには、「若いときにかかる病気だよ。」だった。

無理やりそれを頭の奥へと追いやって行く自分がいた。

そして毎日のように六英雄伝の次話を催促していた。


そして、あの日がやってきた。

そう、あれは、忘れもしない、あの日だった。


ジェイル:「えっーーーっ、魔獣王は実在するの?」

ベルノ:「はい、実際に存在します。

    そして、定期的に討伐隊が派遣されています。

    残念ながら、いまだかつて魔獣王城までたどり着いた

    のは、傭兵王カインのパーティーのみというのも事実

    です。」

ジェイル:「傭兵王カインは、魔獣王と戦ったの?」

ベルノ:「いえ、魔獣王城の中で、魔獣の壷を入手した後に

    撤退したとの話です。」

ジェイル:「そうか、傭兵王カインでさえも

     魔獣王の元へたどり着けなかったのか。」

ベルノ:「そうですね。

    しかし、いつか誰かが、

    それを成し遂げる日が来るでしょう。」

ジェイルは、すぐに元気よく答えた。

ジェイル:「あぁ、それは僕だよ。

     俺は英雄王になる!!」

ベルノは、ニコニコと笑いながら僕を見ていた。

そして、新しい「六英雄伝」の小説を僕に渡した。

その本を受け取ると、その後、彼の話を聞く間もなく

読書に没頭した。


相変わらず六英雄伝は、面白かった。

ついに、最終決戦突入直前までやってきたところで、

次話に続くとなったのは残念でならなかった。

私は、この後の展開を色々と考えていた。

この日でベルノの世話係が最後になるとも知らずに、、、。


次の日、ベルノはやってこなかった。

別の世話係やって来た。

彼女が言うには、

ベルノは魔獣王討伐隊に参加するとの事だった。


後から知ったのだが、S級の傭兵が少なくなったため、

A級の中でも特に優秀な人材を魔獣王討伐隊に

参加させる議案が可決されたとのことだった。


私は、ベルノの身を案じた。

魔獣王討伐隊の帰還率は30%と聞いたからだ。

これは、帰還の判断ミスによるものもあったが、

無理な突入によるものが大半と言われていた。

ザイム国跡の手前辺りから魔獣の数が極端に減る代わりに、

魔獣の強さが急激に跳ね上がるのだ。

ゲームであるなら、バランスが狂っていると言われかねない

状況だろう。

このため、

 「傭兵王カインは運が良かっただけだ」

と陰口を言う者もいるぐらいだ。

現に私も傭兵王カインと謁見するまで、そう思っていた。

まあ、傭兵王カインとの謁見については、別の話としておこう。


私は、ベルノの件も気になっていたが、小説「六英雄伝」も気に

なっていた。

そして、新しい世話係に新刊の入手を依頼した。

しかし、その小説は存在しなかった。

実際には、出版物として販売されていたものでは無かった。

そう、ベルノが書いていたのだろう。


そして、数日が過ぎたとき、ベルノからの手紙を受け取った。

それには、こう書かれていた。


 親愛なる ジェイル様


  この手紙が届く頃には、私は魔獣王討伐隊員として

 出発していることでしょう。

  この件について事前にお伝えしていなかったことを

 お詫び申し上げます。

  今思えばジェイル様との日々が懐かしく思えます。

  初めて出会った時は、まだ幼く、年の離れた弟として

 接していた自分がいるのが思い出されます。

  このような時代に生まれていなかったら、一生共に過ごし

 たかったと思っておりました。

  もしも、無事帰還することが出来た場合は、またお世話係

 としてお傍においていただければ、うれしく思います。


  六英雄伝は、私の夢でもあり、希望でもありました。

  いつか平和な日々が訪れる事を夢見て執筆しておりました。

  物語が完結していないことについては残念でなりません。

  しかし、いつかきっと完結することを願っております。

  そして、この小説のように、ジェイル様が英雄として名を

 残すことを祈っております。

 そして、六英雄伝の最終話を自らの手で書き上げて下さい。


               クライム国 王宮にて

                    ベルノ シェルツ


この手紙を読んだとき、私は叫んだ。


 「俺は英雄王になる!!」


ベルノの夢を叶えるため、努力しようと思った。

そして、いつか必ず魔獣王を倒すと、、、。


これからの日々は、忙しかった。

まず、父の教えである、

 「紳士たるもの外見から。」

というものだった。


まず、外見から英雄になることを考えた。

マスクとマントを作らせた。

これは、小説のヒーローがよくやっている装備だ。

それも、複数作らせた。

紳士たるもの、毎回同じ服装では問題がある。


服装が整ったあとにどうするかを考えた。

父の教えてある、

 「情報は宝である。」

これを思い出した。


次にやったことは、情報を集めることだった。

1人では情報集めにも時間がかかってしまう。

そう考えた私は、自分の手足として使える秘密結社を作った。


何故、秘密結社かというと、名前がかっこいいからだ。

もちろん、両親にも秘密にしていた。

教えてしまったら、秘密結社で無いからだ。

後でわかったことだが、すぐにばれていたらしい。


秘密結社のメンバーは良く働いてくれた。

彼等の得てきた情報から、

ドラゴンについて知ることができたのだ。

このとき、ドラゴンが存在するかどうかは疑問だった。

ドラゴンを研究する学者は多数存在するのだが、

その骨すら見つかっていないのだ。

このことを知ったときに、私は悩んだ。


しかし、父の教えでもある

 「悩む前に行動しろ。」

これを思い出した。


そして、更なる情報を求め動いた。

ズールの屋敷についてもこの時に知った。

管理を行っているのは、なんと父だった。

これを知ったとき、すぐに父の元に向かった。

ズールの屋敷の管理をやらせてもらえないかと懇願した。

父は、

 「ジェイル、お前もやっと大人になったのだな。」

この一言で、管理を任せてくれた。


ズールの屋敷の特別室にあった資料から

 "従僕の剣"のことを知った。


従僕の剣、それは、ドラゴンを従わせる剣のことだ。

それが事実かどうかは問題ではなかった。

まずは、本物を入手することを考えた。

事実であるならドラゴンを従わせることができるはずだ。

そう考えた。

私は、剣技はそれほど得意でもなかったし、精霊魔導士や

神聖魔導士になる能力もなかった。

英雄になるために、ドラゴンマスターになろうと決心した。

そして、それを作らせた。

そう、「紳士たるもの外見から。」だ。


完成したその模造品の"従僕の剣"を右手に掲げ、私は叫んだ。


 「俺は英雄になる!!」


そう、これが本当に英雄を目指した瞬間だった。



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