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 目を開いてまず映ったのは、淡い光が揺らめく天井だった。

何の光だろうと反射的に明るい方へ視線をやると、正体である蝋燭を飛び越えて魔王さまの姿が映って、わたしは思わず目を見開いた。


「ま、おうさま…」


 体を起こして手をついて初めてベッドの上にいたことに気が付いた。

魔王さまは椅子に腰かけて伏せていた目をこちらに向ける。眠っていたわけではなさそうだ。魔王さまは何を言うでもなくこちらを見ている。


―――わたし、どうしてベッドにいるんだろう。


 どうして魔王さまがいるんだろう。ていうか、ここ、誰の部屋なんだろうか。頭の中が混乱する。とりあえず窓の外からの景色で判断しようと窓辺に目を向けるが真っ暗で何が何だかわからない。

…真っ暗?


「…夜?」


 頭の中の疑問はそのまま口をついて出た。

わたし、魔王さま起こしたっけ?

まず考えたのはそんなことだった。朝、起きて…そこまで考えてやっと頭が冴えていく。そうだ、外に行った。それで…


「花…」


 そうだ、木の根元に、綺麗な朝焼け色の花が咲いていて。

そしてそれを魔王さまに見せようとし


「これのことか」


 思考に沈んでいると隣から声が飛んできた。

弾かれたようにそっちを見ると、魔王さまがさっきと変わらずわたしを見ていたが、その指先に持つ花弁を見てわたしは固まってしまった。


「……なんで…」


 それは、朝焼け色の、綺麗な


それは、わたしが、


わたしが―――ころした、



 指先に持つ花弁を一瞥してから魔王さまはわたしを見た。

背中を冷たいのものが伝う中、そんな動作も魔王さまは綺麗だと思ってしまう。


「同じ色だな」


「え、」


「ララの瞳と、同じ色だ」


 なんてこともないようにそう言って魔王さまは朝焼け色の花弁を蝋燭の隣に静かに置いた。

わたしは蝋燭の明かりに灯されて花弁の朝焼けが揺れるのをじっと見ていた。

 ストンと胸に落ちるものがあった。

そうだ。ゆれる薄紫。



―――これは、お父さんの瞳の色。



「…魔王さま」


「なんだ」


「お花が、摘めませんでした」


「そうか」


 わたしもなんてことないように、そう言ってみた。

魔王さまの返事があまりにもそっけなくてわたしは笑ってしまう。

やさしいなぁと思う。この人はやさしい。

だって、何にも聞いてこない。

館の正面で倒れていたわたしをここまで運んできてくれたのは彼に違いないのに。自分に被せられた毛布を見て自然に笑みが漏れた。


――もう一度だけ、花弁を見る。


 痛い。痛い。心臓のあたりが握られているように痛くて呼吸もしにくい。

でもいい。もういい。

この人は、この色をわたしの色だと言ってくれたから。


「魔王さま」


 魔王さまは視線で答える。

なんだか不思議な気分だ。いつもより大胆な気分だ。


「魔王さまの瞳は夜の色です。ララの星空なのです」


 とてつもなく、ふわふわした気分だった。

魔王さまは虚をつかれたように黙り込んだ。


 わたしはいつの間にかそのまま眠りに落ちていて、次に目を覚ました時には瞼の裏側が眩く光っていた。魔王さまはもういなかった。

窓の外を確認してみたところ、わたしの部屋だったらしい。





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