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笑顔


 目覚めは最高だった。窓辺からさんさんと降り注ぐ光が眩しくて反射的に目をきつく瞑る。それとは逆に口元の筋肉はこれでもかというほど緩んだ。


「~~~っ!」


 我慢が出来なくなって、持て余したものをゴロゴロ勢いよくベッドで寝がえりを打つことで発散を試みる。しかし動けば動くほど込み上げるものは高まるばかりだ。


「ユーリ…」


 大事なその名前をそっと呟いてみる。まるで、大きな声で口に出せば壊れてしまうとでもいうように。抱えているものが大きすぎて歯を食いしばった。笑う反面、泣きそうだ。


 ―――ギシ


 ゆっくり窓辺に近寄ると、外の景色に違和感を感じた。目を引く淡い金髪が朝日を浴びてきらきら光っている。


「エジックさん…」


 屋敷の外で木の根に座り込む彼は、一人静かに読書をしているようだった。




「――エジックさんっ」


「あ、ララちゃん。おはよう」


 屋敷の門を出て駆け寄ると、彼は本から顔を上げてにこりと笑ってくれた。絵の一部分を切り取ったような光景だ。挨拶を返しながらわたしも近くに腰を下ろす。


「早起きですね、エジックさんが一番乗りです」


 そう笑うと彼は本を閉じて地面に置き、呆れた顔をつくった。


「ユーリが朝弱すぎるんだよ」


 仕方ないよねぇと苦笑いをこぼす。当たり前のようにこんなことを言うから二人の関係は謎だ。でも、と昨夜のユーリの“奴”という声を思い出す。


「仲、いいんですね」


 言葉の割に、決して冷たいものではなかったように感じた。そして“ユーリ”と名前を呼ぶこの人の声も、また。言い切るわたしにエジックさんはパチクリする。


「僕?」


 こくりと頷くとエジックさんは少し悲しそうに笑った。…どうしてそんな顔をするんだろう。


「君だよ」


「……」


「それは、君。…そうだったらよかったんだけどね」


 どこか寂しそうな顔が偽りとは思えない。


「…どうしてこんなところに来たんですか?」


「昨日も言ったけど、ユーリに会いにき」


「じゃあどうして避けるんですか?」


 昨日と同じことを繰り返そうとした彼の言葉に、わたしは先回りをするように被せて言った。目を見開いて固まる彼に更に続ける。


「話せる機会をわざと避けてる、違いますか? きっとわたしの方が話してます。部屋だって、ユーリの隣でもよかったのに」


 しばらく硬直していた彼は薄く笑った。顔立ちに合った優しい笑顔ではないけれど、どうしてもこっちの方が彼らしいと思ってしまう。


「そのために…来たの? 僕のこと、苦手なくせに」


 あ、ばれてたんだ。でも、それは理由ではない。わたしはこの人のやましい部分をわざわざつつきに来た訳じゃない。


「ユーリが、あなたを優しい声で呼ぶから」


「……なに、それ」


 もうエジックさんは笑わなかった。


「どんな人なのか、話したくなっただけです」


「………」


「………」


 エジックさんは俯いて黙ってしまった。わたしは地面に両膝をつく。ちょっと痛いけど、たいしたことはない。エジックさんのふわふわの金髪に手を伸ばして、優しく優しく撫でた。


「…ララちゃん」


「はい?」


「僕、ユーリより年上なんだけど」


「えっ!」


 衝撃の事実にぴたっと一瞬手を止めて、しかしすぐになでなでを再開する。即座にエジックさんからツッコミが入った。


「いや、やめないの?」


「わたしはこれで元気がでます…あれ?」


 ユーリが頭を撫でてくれると、わたしはすごく力が出てくる。だから真似して実践してみたのに、どうしてか効果が出なくてわたしは不安になってきた。エジックさんは俯いたままで表情すら分からない。そこで初めて失敗したのかもしれないと思い始めて撫でるのをやめようとしたところ


「やめないで」


エジックさんに止められた。


「…元気、でました?」


「でたよ」


 本当か分からないような抑揚のない返事を貰ってどうしていいか分からなくなる。


「じゃあ…一緒にユーリ起こしに行きましょう?」


 その言葉に、やっとエジックさんは顔を上げた。


「変な子」


 笑った顔は、なんだかスッキリしていた。   







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