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来訪者


 男は指先でその輝く金髪をひとしきりくるくる巻いて遊んだあと、困ったように眉を下げた。


「僕の名前はエジック。覗いててごめんね?知り合いに会いに来たら見知らぬ女の子がいたもんだから。ええと…結界、解いてくれないかな」


「この壁が分かるんですか?…あなた、もしかして魔族?」


「もちろん」


 男は柔和な笑顔を浮かべた。警戒しつつも、一応風の魔術を解除する。ほっとしたように笑って、エジックは二、三歩近づいてきた。反射的に身構えると、「ああ、ごめんね」と眉を下げて止まってくれた。


「ねえ、きみ人族だよね?名前教えてよ」


 エジックは人好きのする笑顔で愛想よく訪ねてくるが、普段愛想の欠片もない魔王さまと話しているからか、やけに胡散臭く感じてしまう。


「…ララです」


「ララちゃんか。ねぇ、君どうして魔術が使えるの?」


 表情こそやわらかいが、エジックの瞳の中に光るものを見た時、だから彼は隠れてわたしを見ていたんだなと理解した。


「魔族の血が混じっているので。魔族の血が混じると、人族でも稀に魔術を使える子供が生まれるんです」


「ああ、そういうことか」


 エジックは簡単に納得してまた指先で髪をいじり始めた。…癖なのかな。


「あの、エジックさん」


「ん?」


「エジックさんが会いに来た知り合いって…」


 話している途中でわたしは後ろにグイッと腕を強く引かれてバランスを崩した。やわらかい何かに頭をぶつかり、何だろうと見上げた瞬間息を呑む。


「魔王さま!」


 魔王さまはわたしの叫びは意にも介さずエジックさんから目を離さない。ま、魔王さまをこんな真下から見るの初めてだ…っていうか!

わたしは全体重を魔王さまに預けていることに気付いて急いで魔王さまから距離を取った。そんなわたしをエジックさんはクスクス笑う。うぅ…絶対顔あかい…。


「何の用だ」


「ああもう固いよユーリ。それよりララちゃん、そろそろ出来上がりじゃない?」


 うんざりしたような表情で嘆息してから、エジックさんはわたしに悪戯な笑顔を向けた。


「あ!」


 火にかけっぱなしの鍋のことをすっかり忘れていた。…でもエジックさんが言うように、出来上がりとしてはちょうどいい頃じゃなかろうか。火も弱くしてあるし、なんならまだ煮てもいいくらいだ。


「火消さなきゃ!」


 だけどわたしは一目散に鍋の方へ駆け出した。背中の方ですぐにエジックさんが話し出す声が風に乗ってかすかに聞こえる。ああ、やっぱり。あの人は、魔王さまと二人で話したかったんだな。


「わかりやすい人払い…」


 魔王さまの知り合い、かぁ。あの二人全然タイプも違うし知り合いっていうのがなんだか意外だ。エジックさんは淡い金髪だし、よく笑うし、よく喋る上に馴れ馴れしい。正反対だ。ちらっと首だけ振り返って二人の様子を見てみるが、魔王さまは眉間に皺を寄せているしエジックさんはニコニコ笑っているしで状況がよくわからない。本当にわざわざ会いにくるほどの知り合いなのかな…。


 まあ、でも、とりあえず


“君どうして魔術が使えるの?”


 笑顔の奥に覗いた鋭い眼光が気になる。あの人、あれが素じゃないかな、なんかそんな感じがする。


 ―――いやな感じ。

 

 やっと鍋にたどり着いて中を覗いてみるも、予想通りまだ少し出来上がりまで時間がある。だが既に、かなりおいしそうだ。果実は蜜と絡み合ってこんがり飴色になっているし、ハーブの組み合わせがよかったのか香りも抜群にいい。魔王さまにはやく食べてほしいなぁ。気に入ってくれたら嬉しいなぁ。簡単だから果実が実ってる間はいつでも作れる。


 とんとん


「?」


 肩を叩かれて振り返れば、エジックさんが立っていた。


「ララちゃん城に住んでるんだよね?」


「? はい」


「僕しばらくお邪魔するからさ、よろしくね」


「……」


「あ、ユーリの許可はもちろん取ってるよ」


 エジックさんはわたしの拒否反応を驚きと取り違えたみたいだ。…この人としばらく一緒かぁ……。本当にお邪魔だ。


「…さっきから引っかかってたんですけど、ユーリって何ですか?」


 二人で謎の会話を繰り広げて。謎の言葉まで使いだして。なんなんだ、仲間外れか。わたしは不機嫌さを精一杯隠してそう聞いたのに、エジックさんは目をパチクリしてからお腹を抱えて爆笑し始めた。ひーひー言って笑い続けている。


「な、なんですか!」


「はー…あはは、ごめんね、おっかしくって。」


「だから、何が…」


「ララちゃん、同居人の名前ぐらい覚えてあげなよ」


 エジックさんはそう言って、笑いながら屋敷の中に入っていった。


「――――…え?」








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