3,Dinner
3,Dinner
Dinner is served...
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「…あれ。」
煌々と灯りの点った部屋。いつもなら暗闇、の筈。
「お帰りなさい、沖津さん。」
「早かったんですね、珍しい。それに…――」
良い匂い。
「もう出来ますから、荷物置いて、手、洗って来て下さい。」
ネクタイをシャツのポケットに捻込んで、腕捲りをしている。何故だろう、色っぽいのは。
リビングのテーブルには、もう幾つも料理が並べられていた。どれもレストランで出てきそうな本格的なもの。名付けるとしたら「藤堂風ディナーフルコース」。
藤堂さんはとても料理が上手い。でも夜はいつも残業で帰るのが遅いから、沖津が作る。最初の頃はとても嬉しそうにしていたけど、きっと沖津が作る焼きそばやら 焼きうどんやら焼き飯やらが口に合わなかったんだろう。今でも嬉しそうに食べてくれるのは変わらないけれど。
「そんなことありませんよ。僕だって学生時代はそういうものばかり作って食べていましたし。」
でも、其れってあまり想像できない。出来れば無かったことに、出来ませんか。
今じゃ、デザートまで付いて。まあ、これは買ってきたんだろうけど。
藤堂さんが上手いのは料理だけじゃない。家事全般。どんなに仕事に追われていたって、マンションじゃのんびりした雰囲気。なのに、部屋はいつも綺麗で、散らかっているのは私の部屋ばかり。
「美味しいですか?」
会話が途切れたから、だろうか。藤堂さんは料理に視線を落としたまま、話し掛けてきた。
沖津は小さく頷いた。それから、少しだけ間を置いて。
「…――藤堂さん。」
「はい?」
フォークにルッコラを突き刺した藤堂さん。
「私達って、…援交じゃあないですよね?」
藤堂さんは緑の刺さったフォークをゆらゆら揺らしながら、ただ私の方を目を丸くして見ていた。
つまり、驚いているんだ。
「…うーん、アハハ。僕も立場上援交じゃあ無い方が良いかな。」
無い方が良いって事は、そういう関係になっても良い、って事ですか。
「アハハ。どうしたんですか、今日は?随分饒舌ですねぇ。…――ま、君じゃ勃ちませんよ。」
響く笑い声。楽しげに笑う藤堂さん。私にはそのオヤジギャグは分からない。
冗談だって分かっている。
否、冗談を前提とした二人。
そんな危うい関係。
名前を付けるならば…――。
「今のはセクハラです。」
次の日の夜。
部屋にはペチペチという音が響く。
ハンバーグを作る。
これが沖津にできる一番の御馳走だった。
「只今帰りました。」
ドアの開く音がして。足音がキッチンに近づく。
「あ、美味しそうですねぇ。」
紳士はまた、嬉しそうに笑うのだった。