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2,School gate



2,School gate




They go through

the school gate as usual...




************




「有難うございました、藤堂さん」

サングラスを掛けた藤堂さんは、沖津の言葉に少し笑って片手を上げた。窓ガラスが閉まって、彼の姿は見えなくなる。それから、低いエンジン音。白いベンツは校門の前を走り去った。

藤堂さんが送ってくれたお陰で、遅刻せずに済んだ。でも。

この時間は登校する生徒が一番多い時間。何の取り柄もない公立高校に、ベンツで送り迎えされる生徒なんて当然居ない。今、この時を除いては。

沖津に視線が注がれる。どうしてだろう、気分が良いのは。

「ちょっとー、沖津!」

「ああ、お早う。佐倉。」

彼女はクラスメイトの佐倉春海。小学校の頃から何故かずっと同じクラス。佐倉は白いベンツの走り去った方をちらちらと振り返りながら、此方に走りよって来た。

「またー?」

「うん、遅刻しそうだったから。」

彼女を待って、校門をくぐった。

「ずっとずーっと気になってたんだけどさ…、誰なの。親戚?」

「違うよ。あの人は、藤堂さん。」

沖津の返答は、佐倉には不満であったようで。

「意味が分からない。普通さ、親戚の家、とかに世話になんないの?」

女の小さな嫉妬かもしれない。佐倉は少し刺のある口調で一気に紡いで、その後、少し後悔するように口に掌を当てた。

「…――嫌だったんだ。頑張れ、っていう奴等が。」

いつもこの類の会話になると、笑って誤魔化してきたのだけれど。藤堂さんのところに転がり込んでどの位になったろう。もうそろそろ、良いのかもしれない。

「親戚のオバチャンも、担任も、私に頑張れって言ったの。私、何を頑張って良いのかも分からないのに。」

横切る校庭には、朝の笑い声が響いて。

私も笑う。

それは別に皮肉じゃなくって。

「でも藤堂さんは違った。逃げ道を作ってくれたの。面倒臭いこと、全部引き受けてくれてさ。必要なものも全部用意してくれた。私がただ、日常を取り戻せるようにしてくれたの。」

「…何なの。藤堂さんって、あんたの何なの。」

「さあ、何だろう。でも、保護者とか恋人じゃない。」

佐倉は沖津の肩にポンと手を置いて、立ち止まった。仕方ないから沖津も立ち止まる。

「…援交じゃ、ないよね?」

佐倉の顔はいたって真面目だった。だから沖津も真面目に考える 。顎に人差し指まで添えて。

「援交、も違うと思うなぁ。藤堂さん、必要なものは買ってくれるけど、貢いではくれないし。まず、淫らな行為はしてない。」

「み、淫らな行為って言い方だよ…。」

佐倉は唇を尖らせる。ますます腑に落ちないようで。

「そうだなぁ、援交っていうよりは愛玩されてるのかもしれない。私の我儘は、正直な話、大概聞いてくれるの。私はペットか何かなんじゃない?幸い私には妙な柵もないし、部屋に置いても面倒はないし。犬や猫よりは手が掛からないし、育て甲斐もある。」

その時、予鈴が鳴った。校庭に居る生徒達が一斉に駆け足になる。私も慌てて走る。佐倉も複雑そうに走りだした。




これは、私なりの惚気。

大きな不幸の代わりに手に入れた、小さな自慢。




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