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右から迫る巨大な拳を固めた一撃を交差させた手でうける。
――重い。つま先がアスファルトにめり込む程のその膂力に倒れそうになるが、何とか受け流し、“オルグズ・ハンド”が大勢を崩した所にコアめがけて引き金を二回引く。
二発の内、一発はそれ、“オルグズ・ハンド”の掌部分に大穴をあけるに終わる。だが、一発はコアを打ち砕けたのか、“オルグズ・ハンド”は消滅していく。
下から足元を薙ぎ払うように“オルグズ・ハンド”の爪が迫る。それを大きく飛び退ってかわす。だが、それを好機と見たのか、巨大な腕が3本、体を伸ばして空中の俺に殺到する。
――こういう時は焦らないのが肝心だ。
目の前に迫る“オルグズ・ハンド”のうち一本に狙いを定める。銃口を向け、その手首部分に向かって引き金を2回引く。拳銃の中でも最大級の威力を持つ弾丸、その1発は表皮を穿ち、さらにコアにひびを入れる。そして2発目はコアを完全に撃ち砕いた。
さらに迫る1本はかわし切り、もう1本は何とか体をひねり、手の甲の部分を蹴り飛ばし軌道をそらす。だが、無理な体勢で軌道を逸らした為か、掠めていった爪先が太ももを抉る。
地面に降り立つ。そのままの勢いで地面を転がり、体勢を整える。左右をグラムワンスに囲まれていた。立ち上がるが、太ももの傷の痛みに、歯を食いしばる。肉が裂け、おびただしい量の血がズボンを濡らしていた。夜風が裂けた傷跡を舐める様に流れていき、くぐもった声が漏れた。
お嬢様は目の前だって言うのに。唇を噛む。
左から迫る“オルグズ・ハンド”のコアに警棒をつきたてる。コアをかすめたのか、動きを止めた。ありったけの力で警棒を押し込みコアを砕き、真正面に位置取る“オルグズ・ハンド”のコアを右手の拳銃で撃ち抜く。
右から空気を裂く音が聞こえた。気付いた時には既に遅く、咄嗟にガードするが、巨木のような大きさ、圧倒的な質量と速度に、容易く俺の体は地面を離れ、宙に浮く。痛みを感じる暇もなく、ぐるぐると視界が回り、感じた浮遊感は一瞬。次の瞬間にはアスファルトにたたきつけられていた。
「ぐぁあっ、がっ、がはっ!」
背中から叩きつけられ、肺の中の空気がすべて吐き出される。衝撃で息ができない。視界が明滅し、意識が離れそうになるのを懸命にこらえる。立ち上がろうとするが、体に力が入らない。右の脇腹に猛烈な痛み。確実にあばらが何本か砕けているはずだ。
――万事休す、というやつなのだろう。
だが、痛みを気にはしてられない。
震える膝に力を込め、体を起こす。手にしていたFN-57は殴られた衝撃で取り落としたらしく、すぐ近くに転がっていた。
俺は、お嬢様の所に、歩を進める。恐ろしく緩慢な動作。思い通りにならない自分の体に、唇を噛む。
かろうじて動く左手で、拳銃を拾い、それを“オルグズ・ハンド”に向ける。威嚇する蛇が鎌首をもたげる様に巨躯をしならせる“オルグズ・ハンド”。そのコアに銃口を向けた。
撃つ。
撃つ。
撃つ。
こうもダメージを食らっていては狙いすらうまく付けられず、弾がまともに当たらない。それでも放たれた銃弾のうち幾つかはコアを砕いたのか、2本の“オルグズ・ハンド”が消滅した。
ガチリ。弾が尽きた拳銃が、スライドを後退させその事を無慈悲に告げてきた。残り一本が、俺に向かって迫る。この体ではよけられない。覚悟を決める。――もちろん、死ぬ気はない。弾の尽きた拳銃を放り投げ、俺は構えをとる。
押しつぶそうと広げられた手をかいくぐる。
体制が崩れた所にカウンター気味に左手をコアの部分に突き刺す。生温かく感じたのは一瞬。生気を吸われているのか、猛烈な虚脱感が左手から全身に広がっていく。浸食しようとしているのか、じわじわと瘴気が俺の体を這っている。虫が這うような不快感。左手が何かに触れた。それをつかみ、一気に引きずり出す。びくり、と“オルグズ・ハンド”がその巨大な体を痙攣させる。
ソフトボール大のそれは、微かに脈打ち、瘴気を生み出していた。俺はそれを放り投げ、空中で警棒で叩きつぶした。




