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執事とお嬢と拳銃と!‐With a Butler!‐  作者: gwちゃん
第五話:執事、襲撃、恐怖。
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-11-

 「やめて!やめなさいっていってるでしょっ!離しなさい!!」


 その時だった。ドアのゆがんだフロントから何とか抜け出したレスカが、藤村の手に組みつく。その手からミミを奪い返そうと、細い指先で藤村のこぶしに爪を立てた。


 「いってぇな、このアマ!」


 「きゃうっ!」


 だが、藤村の舌うちとともに振り下ろされた銃把で後頭部を殴られて、悲鳴も短く昏倒した。ひらりとメイド服のスカートが大きく翻り、地面に散った花のごとく広がった。


 「ああ、もう。余計な手間とらせんなっつーの、馬鹿」


 レスカの細い体を足先で蹴り飛ばし、藤村は唾を吐いた。


 だが、引き金を引く指は止まっていた。その一瞬で十分だった。噛み締めた奥歯が砕けるかのごとくに軋んだ音を立てる。


 ホルスターに銃をしまい昏倒したレスカのほうを一瞥しながら、青蘭は藤村に走り寄る。おおよそ人が出せるとは思えない速度に、藤村は反応ができなかった。

 こちらに向けられた銃口を払いのけ、その手からミミを救い出し、青蘭は藤村の体を渾身の力で蹴り飛ばした。藤村の体が派手に地面を転がり、手から銃が離れた。


 「車の陰へ!走って!」


 「え、あ……あぁ……」


 だが、青蘭の言葉もむなしく、ミミはその場にへたり込んだ。


 舌打ちと共に藤村が体を起こすのを視界の端にとらえながら、青蘭はミミの体を助け起こすとその体を半ば引きずるように白い車の陰へと誘導する。


 「この野郎が!」


 藤村が傍らに転がる銃を拾い、その狙いを大雑把に青蘭に定めた。無理な体勢、片手で構えたために反動で銃口が跳ね上がりあらぬ方向に銃弾が飛んでいくが、いくつかの銃弾が青蘭の背中を斜めに穿った。


 「っぁつっ!!」


 激痛にくぐもった声が漏れる。着弾はしていない、貫通もしていない。肉を抉っただけだ。肉が千切れ血管から血が噴き出し、シャツを濡らした。赤い染みが、次第に大きくなっていく。


 「けが、無いですか」


 問いに、ミミは言葉の代わりにうなずきで返してくれた。


 ――よかった。お嬢様に怪我がなくて。激痛の中、そう安堵する。


 鈍い痛みで一瞬もつれた足に激を入れ、何とか倉庫の裏、コンテナの積まれた場所にたどりつく。コンテナとコンテナの隙間、大の大人では入れないような隙間――体の小さいミミには十分な大きさ――にミミの体を押し込む。


 「ここにいてください。もう少しの辛抱ですから」


 背中の痛みに耐えながら、青蘭がミミの頭をなでた。痛みのせいか出た声は小さかった。ミミは呆然となりながらもその言葉に頷く。


 「マスター、エマージェンシー。増援デス」


 インカムからオデットの声が聞こえる。機械音声ながら、ほのかに緊張したような声色。


 「――か」


 数は?そう聞こうと口を開いた瞬間、何かがぶつかる音と、タイヤが地面を滑る耳障りな音が響く。視線を向けると、白いバンが二台、南東――青蘭が入ってきた入口の金網を体当たりで弾き飛ばして、侵入してきていた。半壊した円塔寺の車のそばでそのバンは停車し、中からわらわらと武装した集団がその姿を現していた。


 「やれやれ……大所帯なこって」


 誰ともなしにつぶやく。ネクタイを荒々しく抜き取り、破けて動きづらい上着をその場に脱ぎ捨てると、青蘭は立ち上がる。

 少し前までは真っ白だったカッターシャツは一面血に濡れ真っ赤に染まっていた。ミミが悲鳴を漏らすのが背中越しに聞こえる。


 「そこから動かないで下さいよ」


 ミミに向かってにこやかにほほ笑むと、また優しく彼女の頭を撫で、青蘭はコンテナから躍り出た。


 

 

 ――ああ。またこうやって


 私のせいで


 誰かが傷つくのか。


 私のせいで。



 脱ぎ捨てられたスーツ。


 点々と地面を濡らし、ライトの光を暗く照り返す血痕。


 おさまらない銃声。


 ゆすっても起きる気配のないレスカ。


 どくんどくんという鼓動が、ヤケにうるさい。がり、爪が、頬を削る。


 「うあ、あ」


 もう、やめて。爪先で傷ついた頬から、一筋の血が伝う。


 「うあ、ああ、あああ」


 やめてよ。一滴、零れた血の滴が地面に落ちた。


 「うあああああああああああああああああああああああ!!!」


 「お、お嬢様!?何してるんですか、コンテナのとこに隠れて……」


 突然鉄火場に木霊した声に、そちらのほうを振り向くと、視線の先にはミミが力無く立っていて、青蘭は驚きで目を見開いた。だが駆け寄ろうと後ずさった彼の動きを放たれた銃弾が阻害し、思うように動けない。


 「あ、あ、あああ……」


 ――絶望なんて、簡単にできるものなのだ。少女の心は、今や黒く塗りつぶされかけていた。


 「お嬢様!!」


 誰かの声が、聞こえ、抱きつかれたような衝撃。


 うつろな視線を向ければ、シャツ姿の――誰だ、たしか……思考が、纏まらない――誰かが自分に抱きつくようにその背中を壁にして銃弾の波に晒していた。穿たれた銃創から血が噴き出し、口の端からも血が零れる。


 「ぅぁあっ……ぁ……危ないから、下がっててくださ……げほっ」


 ゆっくりと、その体が、地面に、倒れこみ、血が噴き出し、赤黒い染みが広がり――


 ――また、自分のせいで、誰かが死ぬのか――




 ――こんな世界、いやだ――





 ――こんな世界、壊れてしまえ――







 ――壊れてしまえ――

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