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走る。
数多の銃弾は、銃口から殺到するその軌跡まではっきりと見て取れた。まるで、時間を引き延ばしたかのような、そんな感覚。
「まったくさ、相手は女の子だってのに、寄ってたかって……恥ずかしくないの、あんたら」
つぶやかれた言葉には、どれくらいの怒気が込められただろう。だがそこにいる誰もが言葉を返そうとはしなかった。ただ睨みつけ、ぶれた銃口をもう一度――ゆっくりとこちらに向けるだけだ。まばらにある街頭の光を、薄暗がりの中銃口が黒く鈍く照り返す。
見た所そこらのチンピラをかき集めただけの集団のようだ。だがしかし握られている銃火器の類はいずれも覚えのないメーカーの銃だ。類似した物は見たことはあれど、形そのものに見覚えがない。
「はん、お前が件の邪魔物、ってわけか!邪魔なんだよ、とっとと居ねや!!」
そんな怒号が、銃声とともに耳をつく。咄嗟に横に飛んで回避する。アスファルトを銃弾が砕き、いくつもの弾痕が穿たれる。邪魔物?俺が来る事を知っていた?そんな考えが浮かぶが、のんびりと思考にふける暇は無いようだ。
それを皮切りに他のチンピラも銃の引き金を引き、雷のような銃声と共に数多の銃弾が――向けられた銃口からライフリングで回転を加えられ、加速し、破壊の力を伴い――こちらに向かって殺到する様がスローモーションの様に遅く見え、それをたたき落とせる程に身体が早く動くのを感じる。
雨の様に降り注ぐ銃弾の間を縫い、円塔寺の車に近づいていく。
だが、とんでくる銃弾は動きを制限し、青蘭の行動を妨害しようと数人が立ちはだかる。それを叩き伏せ、殴り飛ばしていく。思い通りにならない状況に歯噛みする。
「多田!福宮達を連れてガキをさらいに行け!蓮村!回り込んで邪魔物を取り囲め!絶対に車に近づかせるな!」
先程の怒号を発した男が傍らに居る男にそう指示を飛ばすのが聞こえた。すぐさま傍らの――多田と呼ばれた男は数人を引き連れて円塔の車の方に走り出した。蓮村と呼ばれた痩せぎすの男は青蘭の前に立ちはだかり、銃を向ける。
青蘭は地面を駆ける速度を限界まで引き上げた。
その速さは人の限界をゆうに振り切っているかのようで、銃弾を交わし撹乱するため円を描くように大回りに走っているにも関わらず、ニ三度瞬きをする間に距離を詰めた。銃弾が遥か背後を虚しく通りすぎていく。
「でやぁあああっ!」
先頭切って走っていた多田は、その怒声に初めて青蘭の接近に気がついた。おかしい、あいつはまだ離れた所にいたはずだ、それがなぜ――。あわてて銃口を向けるが、それよりも早く顎に左手の掌打を貰う。衝撃で左によろめき、続けて死角外からのアッパーを食らい、完全に意識を奪われ、多田はその場に昏倒した。
多田に同伴していたチンピラ達の顔に恐怖の色が濃く滲む。それでも戦意は失わなかったのか、果敢に殴り掛かって来る物、にぎりしめたナイフで突きかかってくる物がいたが、青蘭に投げ飛ばされ、叩き伏せられて意識を失い、その場で力なく沈黙する他無かった。
背後を睨みつける。見ればこちらに向けられる銃口の数は多く、吐き出される銃弾は比じゃ無い程に多い。咄嗟に円塔寺の車を盾にするように背後にとびすさる。
いくつもの銃弾が円塔寺の車の表面をたたき、乾いた反射音が鼓膜をふるわせる。だが、設計段階から要人警護を目的とされているのは伊達では無いらしく、かすかに車体に傷がついた程度で、貫通などの心配はないようだ。
「ちょっと、大丈夫?」
反対側に着地し、身体を屈めるとほんの少しドアが開きレスカが顔を除かせた。
「大丈夫。危ないから顔出さないでくれ。……二人とも平気か?」
「うん。……ミミも私も大丈夫」
レスカがミミがいるであろう後ろの座席を振り返り、頷いた。青蘭もそれに倣い後部座席に視線を送ると、焦燥しきった顔のミミと目が合う。
「お嬢様、来るのが遅くなってすみません。あと少しの辛抱ですから、怖いでしょうけど、耐えてください」
「……はい」
涙でべしょべしょの顔をこすり、ミミはうなずいた。
「青蘭、私も、た、戦うわ」
ひきつったその声に振り向くと、レスカが震える手で、どこから取り出したのか、コンパクトなサイズの拳銃を握っていた。
「何いってんだ、危ないからそこでじっとしててくれ」
レスカの細い指先を青蘭は両手で包みこんだ。
「でも……」
何かを言い淀むレスカから、拳銃をやんわりと取り上げる。




