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執事とお嬢と拳銃と!‐With a Butler!‐  作者: gwちゃん
第五話:執事、襲撃、恐怖。
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-4-

 「ちょっと鰤で殴られて……いや、俺が悪いんです」


 「鰤?……誰にやられたね」


 「……レスカ」


 手を引かれるまま身体を起こすと、首と側頭部に鈍痛。いや、普通に死ねるレベルの衝撃だった。レスカが肩を怒らせて凶器――鰤を運んで行く姿が厨房のほうにちらりと見える。


 「セクハラかい?ムラっとくるのはわかるけど、実行しちゃダメだよ」


 旦那様もその姿を見つけたのか、レスカのほうから俺に視線を戻しながらげんなりと笑った。 


 「違います……よっこいしょっと」


 最初に比べると大分回復したので、壁伝いに立ち上がる。だが、首を傾けるとまだずいぶんと痛む。これは長くかかりそうだ。っていうかどれだけの膂力でぶん殴ってきたんだ。レスカ、恐ろしい子……。


 「あらら、たんこぶが出来てるよ」


 言われて痛みのある側頭部に手を当てると、確かに膨れていた。押すとじんわりと痛い。


 「そりゃ20キロ近い鰤で殴り飛ばされましたからねぇ」


 ちなみにここ最近一番の大物だったそうな。脂の乗りもよさげなので晩御飯が今から楽しみである。俺の分があれば、だが。


 「これで死んでたら『凶器:鰤のようなもの』ってニュースのテロップに出る所だったねぇ!あははは」


 「ははは……」


 旦那様はつぼにはまったらしく、顔を真っ赤にして目に涙を浮かべる位に笑っている。殴られたこちらとしては笑うに笑えないのだが、愛想笑いと言う奴か、妙に乾いた笑いが口からこぼれた。


 「お大事にね。私は仕事に行ってくるよ。後は任せた」


 ひとしきり笑った所で旦那様は時計を覗き込み、俺の肩を一つ叩くと玄関の方に歩き出した。気が付けば、玄関の扉の所にはいつの間にかミミお嬢様が制服姿で壁にもたれて立っていた。小さく手を振るが、気づいてもらえなかったらしく反応は返ってこなかった。


 「いってらっしゃいませ」


 その背中を目で追いながら、俺は深々と頭を下げた。





 同日 午後17時16分


「いててて……つか、鰤って鈍器になるんだな」


軋む首を捻り、湿布を張れどまだまだ鈍く痛むそこをさすりながら、俺は一人ごちた。


 手にした箒にもたれ、下ろしていた視線をあげる。俺の目の前に広がる石畳。その先にある小さな噴水――一時間に一回、時刻を知らせる為に景気よく水を拭噴き上げる――も先ほど役目を終え、今はただ静かに水面を風に揺らすだけだ。暗くなったらされるライトアップも、今は17時を少し回った所とはいえ最近はまだこの時間帯も明るいのでされていない。


「ちょいと、まほーつかいさん」


「残念ながら肉体派です。MPなんてありません。呪文を唱えながら箒で殴ります」


 声のした方を振り向くと、レスカが車のキーを手でくるくると弄びながらこちらに歩いて来るのが見えた。


 「どこか行くのか?」


 「ええ。ミミお嬢様のお迎え」


 「ああ。今日は委員会で遅いんだったっけ」


 「そうそう。あの子もなんだかんだ忙しいのよ」


 いつもは5時くらいには帰って来るのだが、毎週水曜は委員会活動があって遅くなるらしいのだ。いつだったかそんな事を聞いた気がする。ひとみしりのケがあるのに、ビクビクしながらそこんところはきちんとこなすのがあの娘のいい所よ、とはレスカの弁だ。


 「レスカこそ忙しいんじゃないの?俺変わるけど?」


 この時間は夕食の時間が近いのでその準備やらで何かと忙しい時間だったはずだ。メイドさんを先導する立場のレスカが抜けて大丈夫なのだろうか。そんな心配に近い疑問が脳裏をよぎった。


 「いえ、良いの。私が行くから。他の皆には指示出してあるし、大丈夫よ。気遣い、ありがと」


 「そうか。ならいいんだけど」


 しかし、レスカは小さく手を振ると柔らかくほほ笑んだ。照れてるのかほんのりと顔が赤い気がする。


「それに、あの子もまだ緊張するでしょ」


 「ええ、そーおー?」


 レスカの言葉に、深夜のお嬢様との会話を思い出し、思わずほくそ笑む。


 「何よ、その気持ち悪い笑みは」


 「へへへ、いやね、俺この前お嬢様と結構な時間しゃべってたから、少しは緊張もほぐれたんではないかと思ってね」


 そう。時間は短かったが、趣味と言う共通点を見つけられた、と言う事でこれからの関係に少しでも違いが出ると思うのだ。


 「あら、珍しい。あの子すっごい人見知りなのに」


 しかしこれが意外だったらしく、レスカが声を上げた。人見知りと言う割には、何やらやたらがっつかれた感があったのは気のせいか。話のタネもマイナーな作品についてだったが、話のできる共通点を見つけられて嬉しかったのかもしれない。まぁそれは俺も同じなのでその「嬉しい」という感情を共有できたのは大きな一歩だと思う。小さな一歩でも、一歩は一歩だ。


 「いや、やっぱり趣味が合うと話も弾むんだよ、これがな」 


 「ふーん。まぁ、もう少ししたら送迎変わってもらおうかしら」


 「ん。わかった。楽しみにしとく」

 いつの日になるかわからないが、それはそれで少し楽しみだと思う。


 「あ、そう言えば弥生が探してたわよ。なんか手伝ってほしい事があるって」


 「そうか。わかった。顔出してみる」


 弥生、と言うのはキッチンを任されているメイドの一人だ。この時間はよく彼女に夕食の準備を手伝わされるので、多分それだろう。


 まだここに来て日が浅いので、出来る仕事は庭の掃除とゴミ出し、買い出しの手伝いと後片付け位だ。何かと力仕事に駆り出される機会が多いのは、つまるところ「力仕事担当」としてそれなりに頼りにされているんだろう。ともかく、頼りにされている以上すぐにでも行かなくては。


 「お願いね。じゃ、いってくる」


 「いってらっしゃい。気を付けてな」


 駐車場に向かって足早に去っていくレスカの背中を見送り、俺もその場を後にした。

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