-1-
「このガキが、ねぇ」
机の上に広げられた資料。何処かの研究機関の物らしいが、聞きなれないワードがいくつかあるそれの中の一枚、対象の写真が付いた一枚に目を落とす。
「対象の拉致」
与えられた任務は「たった」それだけだ。
男は臓器のブローカーだった。名を藤村と言う。ブローカーと言ってももちろん正規の物ではない。報酬の為に幾人もの人を攫い、時には買い、時には殺して、クライアントの求める数、求める品を仕入れるのが彼の仕事だった。報酬は危険に見合いかなり良い。が、もとより浪費癖のある彼は、ギャンブルや豪遊の結果にできた借金で首が回らなくなってきた所でもあった。そんな藁にもすがりたい所に舞い込んできたのがこの依頼だった。
与えられる報酬は余りにも破格。それまで男が売りさばいてきた臓器が軽く見積もっても30個分。前金だけでもこの先遊んで暮らせる程だ。積もった借金を処理してもまだ余る。そもそもリスクが高すぎるこの仕事、そろそろ引退して遊んで暮らすのも悪くない。
「ああ、言い忘れた。この件だが、多少乱暴に行ってもらいたい」
「あァ?」
無造作にソファの上に投げ出された札束を一つ掴み、舌舐めずりしながら数を数えていた所に声が響く。変声機で無機質な物に変えられてはいるが、 この件の依頼人の声だ。
黒いコートに白い絹のグローブ。目深にかぶったフードとマスク、サングラスが素顔を隠しているが、藤村の背よりもよりも一回りほど小さいその身体付きは、よく見て見れば女性のそれらしく、細く華奢に見える。しぐさも何処か女性らしく、高貴さを感じるほどの立ち振る舞いだ。
依頼人は寄りかかっていた壁から身体を離すと、コートの中から黒光りする何かを取りだした。
「いろいろ邪魔も入るだろう。よって殺す気でかかれ、と言ってるのだよ。その為の武器も人員も貸し出す」
「殺す気で、ねぇ」
重い音と共に机の上に置かれた銃。何の変哲もない銃だ。確かロシア辺りで開発されたオートマティック式の拳銃だったはずだが――。藤村はそれを手に取り、マガジンを外し、安全装置を確認し、スライドを引く。チャンバー内の未使用の銃弾が排出され、床に小さく音を立てて転がった。
「新品だよ、あげるから大事に使うと良い」
言葉通り全くの新品と言っていいだろう。細工がされているとも思えない。
「あー、人員、かしてくれるんだっけか」
「ああ。そのつもりだが?」
「そこなんだが、俺の知り合いを頼ってもいいか?あんたを信用してない訳じゃないが、知った顔の方が扱いやすいんだが」
信用も信頼もハナからしてない。信用してるのは目の前の金だけだ。まぁそれはお互い様だろうが。……見知った顔の方が扱いやすいのは紛れもない事実で、得体の知れない相手と言うのもあり、用心しておくにこしたことは無いのかもしれない。鉄火場の経験がないわけじゃない。銃器もそれなりにはある。
「まぁ、構わないが……何人くらい用意できそうだ?」
機械音声が、ほんの少し途切れる。床の上の銃弾を拾い上げると机の上に転がし、依頼人は男から視線を事務所の外へと向けた。もう深夜の帳が落ちて数時間になる。外は街灯の光もなく真っ暗だ。遠くからやってきたバイクが一台、エンジン音を轟かせ通り過ぎて行った。
「ん、20人位だな。明後日までには準備する」
自分が声を掛けて集まるであろう、大まかな人数を藤村は指折り数える。もしかしたらまだ増えるかもしれないし、減るかもわからないが。




