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「本当ですか!?同じ時間帯にやっていた別の作品に人気取られて不遇だと思ってたんですけど、まさか理解者に出会えるなんて……嬉しいです」
「私もです!」
そこで初めて、ミミお嬢様は、俺に満面の笑顔を見せてくれた。街の夜景に照らされたその笑顔は、儚げで、触れたら壊れてしまいそうな、そんな頬笑み。一瞬だが、見とれてしまうほどの強烈な印象。
「あ……ミミお嬢様、この前発売されたドラマCDは聞きました?」
見とれてしまったのを悟られないように、あわてて言葉を紡ぐ。少し上ずってしまったが。
「もちろんです。ギャグかと思いきや後半はシリアスで、すごくおもしろかったですー」
そしてそれから少しの間、共通の趣味についての話題を見つけた俺達は盛り上がり、時間など忘れて話をしていた。
同日 午前3時35分
「あ、もうこんな時間か……」
気づいてみれば、時計は午前3時30分を回っていた。いつの間にかお菓子も無くなり、飲み物も底をついていたが、会話は途切れることなく続いていた。
「わ、もう三時ですかー……なんだか、あっという間でした」
ミミお嬢様が合間合間に隠れてあくびをしていたのは、もうこんな時間だったからか。熱中してしまったので時間の感覚なんて完全に意識の外だった。
「すいません、こんな時間まで。部屋まで送りますよ」
「いえ、いいんです。一人で帰れますからー」
「わかりました。よろしければまたお付き合いください。いつでも大歓迎です」
「はい……赤妻さん、――貴方は、わたしを嫌いにならないでくれますか――私がバケモノでも――?」
「――嫌いになる理由が見つからない。惚れる理由はいくらでもあるけどな。挙げてやろうか?――」
投げかけられたその言葉は、先ほど話題に上がった「猫のごとく俊敏に、狗のごとく獰猛に」の中の一節。ヒロインの少女が問いかけた言葉に、主人公が応えるシーンだ。
ミミお嬢様の表情は暗くてうかがい知れない。だが、返した俺の言葉に彼女がほほ笑んだような気がして。
「……すごいマニアックですね」
「お嬢様こそ」
こぼれた笑みに、こちらも笑みが漏れる。
「赤妻さん、おやすみなさい」
「おやすみなさい。暗いので足もとに気を付けて」
「はい。では」
立ち上がって小さく手を振ると、お嬢様は俺に背を向けて歩き出した。俺は展望台を片付けながら、だんだんと小さくなっていく彼女の背中を見送っていた。
ミミお嬢様が段差で躓いてそれを助けに行くまで。




