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「あ、そういえば」
駐車スペースへと続く道を歩きながら俺は携帯をポケットから取り出すと、短縮通話ボタンを押し、登録されている番号に電話をかける。
「はい、もしもし」
「赤妻です」
「御手洗だ。どうした?」
2コールも待たずに電話に出た、男の声。いつ聞いても気だるそうな声だ。
電話をかけた先は、屋敷がある小高い丘の麓に、木々に隠れるように建っているSPルーム。ミミお嬢様個人を警護する俺とは別に、屋敷の警護等を担当している人が詰めている場所だ。電話口の男の名前は御手洗一真。SPの総指揮を務める男性だ。陸軍の出らしく、短く刈りそろえられた頭と屈強に鍛えられた身体が特徴的な人物だ。
「ちょっと出てくるので、門の開放をお願いします」
深夜に関しては俺の自由時間と言う事になっているので、外に出るのは自由だ。
「了解。ちなみに屋敷周辺に人影は無し、誰かに見張られてるっていう事も無い。オールグリーンだ。安心していってこい」
電話口に計器を操作するクリック音やキーボードをタップする音がかすかに聞こえる。監視カメラなどを使い周辺の情報を洗っているらしかった。
「了解。後でコーヒーでも差し入れします」
「ブラックで頼む。ではな」
短い会話の後、電話は向こうから切れた。
裏口を出て、屋敷の裏の方へ壁伝いに歩いていくと、ちょうど屋敷の正面玄関と正反対の位置にメイド用の車庫がある。半地下のスペースにレスカの深紅の車を始めとした様々な車種の車が駐車されていた。その駐車場の端っこ、太い支柱の周りの駐車禁止の塗装がされたスペースに俺のバイクが所在無げに停まっていた。
――置くところがないとはいえ早い所場所を確保しなければ。
XJR-400。
むき出しのフレームに、銀色のタンク。俗に言うネイキッドと呼ばれる車種のバイクだ。このバイクは親父が乗っていた物で、保険や車検の期限が切れてからは乗らなかったらしく、5年ほど物置で放置されていた。
バッテリーが破裂し電装系がお釈迦になって動きそうもないそれを俺が見つけ、パーツを工面し、図面片手に親父に手伝ってもらいながら動くまでにレストアしたのだ。
だがエンジン回りの不調だけはなんとも出来ず、パーツを変え騙し騙し乗っていたのだが、大分限界が見え始めていた。
それでも自分で整備したと言う事もありかなり気に入っていた。パーツの工面を旦那様に頼んでみようか。そんなわがままを考えるほどに、だ。
ヘルメットをかぶり、駐車スペースから銀色の車体を押して出す。――周りの迷惑になるだろうと思っての行動だ。ある程度離れた所でバイクにまたがり、キーを刺し、捻る。キックスターターを蹴り下げるとエンジンに火が入り景気よくエグゾーストが木霊した。
「おっしゃ、今日は機嫌いいみたいだな」
銀色のタンクを叩き、誰ともなしに呟く。
――ついでにガソリンも入れとくか。コンビニ、深夜もあいてるガソリンスタンドまでの道のりを頭の中で確認しつつ、年期で劣化したハンドルを握る。そしてギアをニュートラルからローに入れ、XJRを発車させた。
同日 午前1時34分
時間にして十分ほどだろうか。幾つもの交差点と点滅信号をくぐり、深夜の静けさの中、コンビニについた。
少し外れた所にあるこのコンビニは、他に建物のないこのあたりで一軒だけぽつんと物悲しく佇んでいた。街から外れた郊外にあるので当然と言えば当然なのだろうが、俺以外に客はいないようだ。中に入ると賑やかな店内放送と、間延びした店員の声が聞こえた。




