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同日 午後16時45分
「遅かったじゃやないか!電話でないし!!待ちくたびれたよぉ!」
屋敷に戻った俺を迎えたのは旦那様のそんな非難めいた声だった。いてもたってもいられなかったのか、玄関に出向いてドアの前をうろうろしていた。レスカや他のメイドの姿は見えない。キッチンでお茶をしているんだろう。
「ケーキは?」
「すみません、遅くなりました……。こちらです」
「よし、よくやった!すぐに頂こうじゃあないか」
旦那様はひったくるようにケーキの入った箱を俺から受け取ると、颯爽と屋敷の奥の方に行ってしまった。旦那様がスキップをしながらだんだんと小さくなっていく様を見、どうしようかとその場にたたずむ。
「何してるんだい、君も来るんだよ」
「うおあっ、ちょっと、旦那様」
俺も行くべきなのだろうか。そんなことを考えながら踏ん切りがつかずに玄関先でボーっと突っ立っていたら、踵を返してきたらしい旦那様が俺の肩に乱暴に手を置いた。その手に押されるまま、キッチンに誘導される。
「大事なのは割って入る事だよ、時には乱暴に行くのもアリさ!みんなー、ケーキ来たよー!」
俺の葛藤を読みでもしたのだろうか、旦那様は俺の体をぐいと押し、キッチンのドアをくぐらせた。
「あー、遅いわよ青蘭!さすがのレスカちゃんも待ちくたびれたわー!おこよ、おこ!」
「ごめんねー青蘭君、使いパシリ見たいなことさせてー」
ドアをくぐるなり、様々な声が俺を迎える。
普段作業台として使われているステンレスの板場を机に、旦那様をはじめ、レスカや数人のメイドとシェフの弥生が椅子を持ち寄り集まっていた。
そこには当然のように俺のカップも準備されていて。レスカがここに座れとばかりに椅子を叩いているのが目に入る。その横にはミミお嬢様が文庫本片手に椅子に座っていた。その眠そうな視線が、俺の方を向き、また本に落ちて行った。
「ささ、座りたまえ。お茶会の続きを始めようじゃないか。やっと主役が来た事だし」
「は?へ?」
その言葉に思わず、旦那様の方を振り向く。旦那様はにかっとまぶしく子供のように笑ってみせた。もう一度キッチンに顔を向けると、そこにいる皆が、笑みを自分に向けていて――。
「え、へへ……おそくなりました」
目の奥に、なぜか熱いものがこみあげてきて、俺はそれを隠すように、満面の笑みを作った。




