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「え、あんたそれも知らずにここ来たの?」
「……すまん。旦那様から執事とボディーガードってのは聞いてたけど」
「あら奇遇。私もそうとしか聞いてないわ」
「まじでか……まじでか……!」
「あ!忘れてた!旦那様から資料貰ってたんだった。これ見て仕事を教えてあげてって。ちょっと取ってくるわね」
「うん」
レスカはそういうと俺に箒を押し付けると、裏口のほうに走って行った。
同日 午前6時36分
少し経って、俺が集めた落ち葉を袋に詰め終えた頃、レスカが手に封筒を持って返ってきた。手に握らてている封筒が何故かやたらめったらにぐしゃぐしゃなのは、まさかゴミと間違えて……。
「えーと、はぁ……執事の仕事について」
レスカは走って上がった息を整えると、茶色いシミのついた封筒から数枚の書類を取り出し、そのひとつに視線を落とし読み始めた。
「何々、執事というのは……家事使用人の中でも最上級職の一つであり、食器・酒類を管理し主人の給仕をするのが主な仕事である。また私的な秘書として公私にわたり主人の補佐をするんだってさー……。へぇー、土地とか領地とかの、あと人員の管理も仕事らしいわよ」
「おおう、責任重大ってやつだな」
想像以上に執事の仕事は責任が伴う仕事ばかりのようだ。だいぶ気が重い。楽な仕事とは思っていなかったが、思わずため息が漏れる。
「そーねぇ……ん?なお、青蘭君に限っては、私専属の執事ではなく、ミミ専属の執事として働いてもらう。彼女のそばを離れず、基本的に彼女の意志に従う事。その他仕事についてはレスカに指示を仰ぐように……だってさ。ほら、ここ」
レスカは視線を落としていた書類から顔を上げると、その一枚を俺の前に差し出した。レスカの指示した先を覗き込むと、確かにそこには、旦那様の手書きでそのように書き殴られていた。丁寧に赤線までひかれている。ちなみに執事について書かれた文はどこぞのサイトのコピペらしい。
「んー、つまり俺はミミお嬢様のそばにいて、彼女が望む事をしてあげればいいんだな」
「うん、そんな感じ。っていうか後は私にガン投げぇ……?……そうねぇ、この屋敷ってさ馬鹿みたいに広いけど住んでる人間は旦那様とミミの二人しかいないのよね。だけど維持が結構大変で……それで、もし手が空いてる時は私たちの手伝いをしてくれると助かるかな」
「おう、わかった。頑張るよ」
こんな広い屋敷に二人だけ、というのもかなりさみしい。ふとよぎった感傷を、俺はかぶりを振って払った。
「まぁぶっちゃけ土地とかの管理はそれ専門の人いるみたいだし?下手に素人が触んないほうがいいわよねーぇ?」
「確かに。俺そういうのやった事ないからなぁ……少し気が楽になったかな」
ミミお嬢様専属。そういえば旦那様は彼専属のSPも秘書もいるみたいだし、そこまで自分の周りの人員に事欠いてはいなかったのか。基本的に自分でできる事は自分でしてるから大した世話も必要ないのよ、とレスカは俺のつぶやきにそう返してくれた。
「んー、ミミの世話かぁ……あの娘は中々難しいわよ?」
「そう……だよなぁ」
「人見知りする子だからね、あの娘は。まぁでも、この先ずっと付き合っていくわけだし、少しづつお互いを知りあいなさいな」
確かにここ数日の様子を見る限り、まだかなり警戒されているようだ。この前のこともある。でも、少しづつでも打ち解けていけたらいいと思う。趣味の話とか、いろんな事を気兼ねなく話せる関係、というのは「執事」として可笑しいのだろうが、それがどんな形であれ彼女の支えになればいいと思うし、なってあげたいと思うのだ。
「ああ……レスカは長いのか、ここ」
「ええ、私?今年で15年目よ?ミミが生まれる前からいるの」
「そうなのか……」
そんな前から……何故だろう?ふと疑問が浮かぶが、それが以前レスカが言っていた「訳あり」という奴なのだろう。聞いてはいけない気がして、俺はそれ以上何も言えなかった。
「私、ここに8歳の時からいるから。もうぶっちゃけ円塔寺家にレスカあり、みたいな?私がいないとこの家始まらない、的な?ふふ、わからない事があったらなんでも聞いてよね」
「ああ。そうする。ありがとな」
そうテンション高めにのたまうレスカ。その見る者を引きつける魅力的な笑顔に、俺も笑顔が浮かぶ。
「いーのよ、これも先輩の務めってやつ?さぁ、お仕事がんばるわよー」
「おー」




