-5-
それからすぐに通路は終わりを迎え一枚の扉が目の前に現れる。
その扉をくぐると、落ち着いた色の絨毯のひかれた廊下に出た。先ほどまでいた屋敷は内装までもまんま「城」だったが、こちらは寮だからだろう、床や壁等が落ち着いた配色で統一されていた。
通路の突き当たりにあるエレベーターに乗り込み、「4」のボタンを押しこむレスカ。エレベーターは音もなくドアを閉め、上の階へとあがりだした。
「貴方の部屋は、4階の真ん中の部屋よ」
「一人部屋……だよな、そりゃ」
「当たり前でしょ?まぁ、いろいろ誘惑はあるでしょうけど、信用してるわよ?」
何かを含んだ物言いと肩に置かれた手に、思わず俺は聞き返す。
「おい、まて。何だそりゃ」
「まぁその、僭越ながらぶっちゃけさせてもらうと……飢えた狼をむざむざおいしそうな羊の群れに放りこむと思って?」
「……うっ……」
そりゃごもっとも。まるで路地裏のゴミ箱を見るような冷たい視線が容赦なく突き刺さる。メイドさんしかここにはいないみたいだし、基本的に女子が多くなるのもわかるし、俺も男であるわけで、まぁ、あったばかりの奴を信用しろ、と言われても無理なのはわかるが。いや、わかるけど……。
「ううん。僕、泣かない……」
「まぁまぁ、そんな顔しないで。寂しかったらお姉さんが何時でも遊びに行ってあげてよ?」
からからと屈託なく笑うレスカ。まぁ、悪い人ではないらしいが。その遠慮しない言い草に俺の豆腐メンタルはぼろぼろである。もう少し歯に衣着せたらいいのに。
「ほら、ここが貴方の部屋よ。好きに使いなさいな」
エレベーターを降り、すぐ近くの部屋の扉――といってもこの階には部屋が三つしかない――にレスカは手を掛ける。鍵はかかって無く、微かに聞こえる蝶番がこすれる音と共に、ドアは難なく開いた。
俺はレスカに続き、部屋に入る。
「お、おお……すごいな……」
壁紙を淡いベージュで統一された部屋は広く、元々の家の部屋を全部集めてもこの部屋の広さにはかなわないかもしれない。正直、広すぎるくらいだ。
部屋の真ん中には炬燵の機能を備えたちゃぶ台が置かれ、大きなベッド、元からこの部屋に備え付けられている小さなカウンターキッチンや、冷蔵庫、シャワー付きの風呂場、トイレ等々。開放感あふれる大きな窓から見える景色は、市街地やその先の海までもが見渡せた。
しかし、部屋の中には思い入れのある家具が運び込まれ、間取りは違うが雰囲気はまるでこの間まで住んでいた家の様だった。
「意外と荷物あるのね……荷物とか家具は適当に運んで、置いただけだから、後の移動とかは貴方がしてね」
レスカが部屋の隅を指差す。指された先には着替えや雑貨、ゲーム機や本、着替え等が詰め込まれた段ボールが積まれていた。まぁここまでやってくれれば後は一人でも十分に終わらせられる。
「ん。わかった」
レスカの言葉に頷きを返す。段ボールの数はそこそこあるが、箱を開けて、中身を片して、家具を移動させるくらい簡単だ。
「じゃ、6時くらいに迎えに来るから、着替え出したりとか、ある程度の部屋の片づけはすませときなさいね。ごみは分別するのよ?わかった?」
燃えるごみ、燃えないゴミ、資源。部屋の隅っこにある三つのゴミ箱を順に叩いて、レスカはこちらを振り向いた。
「はいよ。案内してくれてありがとな。助かったよ」
「ん。んじゃあとで」
俺の言葉に満足そうに頷くと、一通り部屋を見渡して、レスカは部屋から出て行った。
一人きりの部屋を、窓からはいった風が通り過ぎていく。
「とりあえず、荷物の開封だけでもやっとくかぁ」
俺は上着を脱ぎシャツのそでを捲ると、段ボールに手をかけた。




