私は頑張る女の子を応援したいのです
ふと思いついたお話です。
主人公ではなくサポートキャラの立場だったらと…
ある日、この世界が某乙女ゲームの世界であると気づいた。
本当に突然、自分が経験したことがないはずの記憶がバーッと脳内を駆け巡って思わず倒れた。
それで気づいた。
今、私が生きている世界が前世で私が嵌っていた『乙女ゲームの世界』であるということを…
あ、自己紹介が遅れました。
私、私立橘樹学院高等部1年に在籍中の季松紫都香と申します。
橘樹学院は初等部から大学まであるマンモス校です。
父兄からの寄付もかなり多い一応良家の御子息や御令嬢が通う学校です。
私も一応名家と言われる季松家・本家の子です。
さて、私がなぜ『前世』の記憶が蘇ったかというと…
「紫都香、高等部に入学したら、私のお手伝いをしてくださいますわよね」
中等部の卒業式の後、幼馴染の宮代鈴菜から言われた言葉が発端だったと思う。
鈴菜は初等部時代から何をやらせても優秀なお嬢様。
運動も勉強も料理も裁縫も社交術も…教師から教えられたら一発で取得してしまうので『努力』と『挫折』いう言葉を知らないお嬢様だ。
誰にでも優しい笑みを浮かべ、誰にでもに優しく手を差し伸べるので信者が多い。
この世の男性は全て自分に惚れると自惚れている部分もある。
今まで出会ってきた鈴菜が気に入った男性が皆、鈴菜に従順だったから余計にそう思っているのかもしれない。
彼女に敵う人・逆らう人はいないのではないのだろうか…
私以外に
私は知っている。
鈴菜の裏の顔を…
優しい笑顔の下には真っ黒な悪魔の笑みを浮かべていることを…
優しく手を差し伸べているのではない。
見下しているのだ。
他者を見下して優越感に浸っているのだ。
私は幼稚舎の時からの長い付き合いだから知っている。
知っているけど周りには言っていない。
言っても誰も信じないと幼いなりにわかっていたからだ。
唯一、私の兄様たちだけは知っているけど…
鈴菜の言葉に私は返答を保留させてもらった。
鈴菜の『手伝いをしなさい』は『バシリになりなさい』と同意語だからだ。
その夜、私は膨大な情報量に高熱を出し寝込んだ。
そして、目が覚めたら『前世』の記憶…主に『この世界のこと』を思い出したのだった。
だが、『ここ』が私にとって『現実世界』だ。
だから私は『前世の記憶』は頭の片隅にとどめておくことだけにした。
必ずしもゲームのような物語が発生するとは限らないしね。
セーブもロードも出来ない私にとっては『現実世界』を生きているのだから。
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4月
橘樹学院高等部も入学式を迎えている。
ほとんどが初等部からの持ち上がりなので変わり映えはしないが、数名外部入学生はいる。
橘樹学院は学費も高いが偏差値も高いらしい。
その外部入学生たちはかなり優秀なのだろう。
その外部生の中に私はある女の子を見つけた。
主人公だ!
彼女はゲームの主人公の一人。
そう、この世界にそっくりなゲームの主人公は二人いたのだ。
一人は私の幼馴染の宮代鈴菜。
そして、もう一人が外部生の八城愛生。
そういえば、ゲームのスタートは高校入学からだったな…
私はサポートキャラ。
プレイヤーが選んだ主人公のサポートをするキャラだ。
勉強・運動はもちろん、交友関係もサポートするある意味すごいキャラだったと記憶している。
私がそのサポートキャラであると知った時はなんのか冗談かと思ったわ。
まあ、ずっと鈴菜の側にいたから私もそれなりに優秀らしい…
私は八城さんと同じクラスになった。
鈴菜は隣のクラスだ。
ホームルームが終わると私はすぐに八城さんに声をかけた。
「はじめまして、八城さん。私、季松紫都香と申します。あのよろしかったら…私とお友達になってくださいませんか?」
私の言葉に、ざわついていた教室内が一斉に静かになった。
「え、あの…」
急に静かになった教室と集まる視線に八城さんは顔を真っ赤にさせていた。
「私、ずっとあなたに憧れていましたの。昨年、八城さんが応募された国際絵画コンクールでの貴方の作品は大変素晴らしいものでしたわ。あのようなステキな絵を描かれたのが私と同じ年と聞いてお会いしたいと思っていたのです」
八城さんは幼い頃から数々の絵画コンクールで入賞している。
毎年同じテーマで描いているけど二つとして似た作品はない。
誰もが彼女の絵を欲しがったが彼女は頑として売らなかった。
『あの作品はまだまだ未熟な子供が描いた物。いくら積まれようとも売ることは出来ません。私が満足のいく作品が描けた作品は未だ一つもありません。申し訳ありませんが未熟な私の絵を売ることは私自身が許せないのでお引取りください』
と巨額の札束を積まれても断ったという逸話は有名な話だ。
「あ、ありがとうございます。季松さん」
顔を真っ赤にさせて俯きながらお礼を言う八城さんは可愛いわ。
決めたわ!
私は八城さんのサポートキャラになるわ!
「ふふ、ではお友達になりましょう。私もっと八城さんのこと…いえ、愛生ちゃんの事知りたいですわ」
私にいきなり名前を呼ばれて驚いたのか八城さん…愛生ちゃんは大きな瞳をさらに大きく見開いた。
「……あの、愛生ちゃんとお呼びしてもいいですか?」
「え、あ、……はい。名前で呼ばれるの慣れてないのでくすぐったいですけど…」
ふにゃ~と笑みを崩す愛生ちゃんは本当にかわいい!
ぎゅっと抱きしめたくなりますわ!
「私のことは紫都香と呼んで下さいね」
愛生ちゃんの手を両手で握り締めると愛生ちゃんは嬉しそうに頷いた。
「あ、あの…ずうずうしいお願いですが、しーちゃんって呼んでいいですか?」
「もちろんですわ!私の初めての愛称ですわね。嬉しいです!そうだわ!ぜひ、クラスの皆さんもそう呼んでください!愛称で呼ばれるのずっと憧れていましたの!」
教室を見渡してそう告げると、最初は驚いていたクラスメートたちだったがすぐに女子生徒たちは私たちを囲むと次々と自分はこう呼んでほしいというお互いに言い出し、一気に内部生、外部生という壁が消えた。
実は私、ずっと鈴菜と同じクラスだったせいで友人という友人がいなかった。
私は鈴菜の引き立て役で、鈴菜を中心に動くことを強要されていたからな。
鈴菜以外の女友達を作ることさえ許されなかったのだ。
だから鈴菜とクラスが分かれた今年がチャンスだと思ったのだ。
ゲームとは全く違う流れを私が勝手に作っていくが、必ず補正が掛かることが分かった。
どんなにイベントを避けようとしても発生するのでそこは出来る限り愛生ちゃんに任せた。
これは愛生ちゃんの人生だから決定権は愛生ちゃんにあるからね。
私は少しお手伝いするだけ…
愛生ちゃんは次々と攻略キャラと出会い、親睦を深めていく。
度々、鈴菜と攻略キャラを巡っての対立イベントも発生するが、愛生ちゃんは私達のアドバイスを元に頑張って乗り越えていっていた。
攻略キャラの裏切りなどもあったけど、愛生ちゃんはめげなかった。
そして、最終的に高校を卒業する時に一人の男性を選んだ。
二人は長い時間、さまざまな障害を乗り越えてきたのだ。
きっと幸せな末来が待っているだろう。
私が愛生ちゃんのパートナーになることを選んだのには理由がある。
愛生ちゃんは『努力』と『挫折』を知っている人間だ。
努力しても挫折する事を経験している人は挫折を乗り越えるために更に努力をする。
そうして、どんどん成長していくのだ。
だが、鈴菜は努力することなく難なく何事もこなして来たため、挫折を知らない。
一度『挫折』を味わったら鈴菜はきっと立ち直れないだろう。
努力するということを知らないから…
私は『努力』する子を応援したくなるのだ。
だから愛生ちゃんのパートナーになることを選んだのだ。
というのは表向きな理由。
本当は鈴菜ルートだと鈴菜が誰を選んだとしても私は必ず『殺される』のだ。
殺され方はいろいろだが共通しているのは『嫉妬して私を殺す』
愛生ちゃんルートでも私が殺されるルートはあるが、それはバッドエンドの時のみで、愛生ちゃんを庇って…というシチュエーションだ。
必ず殺されるルートと最悪の状態さえ起こさなければ生き延びれるルートなら
誰しも生き残れるルートを選ぶものだろ?
お読みいただきありがとうございます。
これはジャンルを『学園』にしていいのだろうか…
誤字脱字は見つけ次第訂正したいと思います。
活動報告に一部キャラ設定をアップしました(11/24付)