エピローグ③
近所の眼鏡職人に眼鏡を作ってもらい、夕方、ミリカとムウミンはパレードへ出かけた。ザ・フォレスタルズのライブはとても素晴らしくて、涙を流すほどだったという。
「来年の九月二十五日、日曜日、(ドラムロール)日本のブドウカンで十周年アニバーサリーライブをやります!」
ライブの終わりにノウラがそうマイクに向かって言ったのだと、ミリカは興奮しながら私に教えてくれた。
そういえば、アメリアが飛ぶはずだったパレードの先頭はヘンリエッタが飛んだ。コレも後から聞いた話だが、ヘンリエッタが負傷した国王を外へ運び出し、病院まで連れて行ったのだという。簡単に予想できる話だが、気持ち悪いことに、国王はヘンリエッタを気に入ってしまったようなのだ。だから、パレードの先頭をヘンリエッタが飛ぶことになった。それだけならいいのだが、私は彼女の未来が暗いものにならないように神に祈るのみだ。アーメン。
さて、私とアメリアは、パレードの間、どうしていたのかというと、パレードの騒がしさも賑わいも届かないチェルシーガーデンにいた。
私の目の前には、イエロー・ベル・キャブズの制服を纏ったアメリア。
アメリアは、私にブースタではない、もう一つの飛び方を教えろとせがんだ。
教える必要なんて、ないのに。
「そんなに力を入れなくても飛べるよ」私はささやかなアドバイスを送る。
「は、はい」
アメリアは緊張した面持ちで箒に跨った。
「い、いきます」声が裏返っている。
「だから、力抜け」力を入れても、抜いても関係ないんだけど。
「飛びます!」
チェルシーガーデンに風を起こして、アメリアは空高く飛んだ。
そしてとても簡単にコントロールしている。
私が見上げる空で、アメリアは自由自在に飛んでいた。
当然だ。
あのハートマークが、アメリアの魔法を呪っている。
今まで、アメリアを邪魔していた魔法が消えてしまえば、飛べるようになるのは当たり前だ。
アメリアの無邪気な笑顔。
この笑顔に、これから私は、何回も助けられることになる。
アメリアはオレンジ色の空からチェルシーガーデンにゆっくりと降り立って微笑んで、それからスカートの裾を伸ばすように引っ張って私に大真面目に言うのだった。
「これじゃパンツが丸見えです!」
コレが私の陶酔する物語の始まり。大笑いしたこのまたとない景色を、私は二度と忘れない。
多分。
了




