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High A of the YBC   作者: 枕木悠
第六章 ハートに火をつけて
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第六章⑨

水に飲みこまれ、なす術のなかったエリコ、ジェリー、アメリアの三人は、ピチカートとシャーロットによって拘束され、ミリカのいる白い牢屋に放り込まれた。

 ジェリーとアメリアは気を失い壁にもたれ眠っている。

 ピチカートとシャーロットが白い牢の前から去ると、気を失った振りをしていたエリコは目を開けた。

「おかえりなさい、えっちゃん」ミリカはエリコの方に身を傾け、微笑んだ。

「ただいま、疲れた、久しぶりに発電機になったから、疲れた」

「薬は何分もった?」ミリカが聞く。

「三十分、いや、もっと、短かったかな?」

「……予想よりも、短かったってことね、ごめんね、えっちゃん」

「国王に一矢報いた、かな、それだけで、よかったよ、ミリカが来てくれてよかった」

「もうっ、えっちゃんってばぁ、」ミリカは顔を赤くした。「……そういえば、『黄華』は? 使わなかったの?」

「……『黄華』は、途中で故障した」

「え、故障?」

「本当に神尾式か? 神尾式が故障するなんて、コレは予想外だ」

「ごめんね、でも、えっちゃんってば、工学博士らしくないわよ、失敗は私たちの世界じゃごくありふれているものでしょ? それに『黄華』はまだ試作段階なんだから、それを無理やりお館様に内緒で持ってきたんだから」

「その兆候がまるでなかったから、もう少しで行けそうだったから、ごめん、少し興奮しているみたいだ、」エリコは深呼吸をして、白い天井を仰いだ。「そうだな、まだ宇宙は遠いんだな」

「もしかしたら、」ミリカは唇に手をやった。「一度、水にぬれたのがいけなかったかもね」

「ありがとう、ミリカ」エリコは呟く。

「どういたしまして」ミリカは微笑む。

「最高の誕生日プレゼントだった」

「なんだ、」ミリカは八重歯を見せて笑い声を上げた。「覚えてたんだ」

「不意に思い出したんだ」

「誕生日おめでとう」ミリカはメイド服のポケットからマッチを取り出して、火をつけた。

 マッチの火をエリコは吹き消した。

 そのおり、ジェリーが目を覚まして、伸びをした。

「う、う~ん、ふわぁあぁ、」口に手の平を当てている。その目覚め方は、ジェリーじゃなくてムウミンだった。目を擦りながら、夢に片足を突っ込んでいるような表情で白い空間を不思議そうに眺めていた。「ん? ココはどこですか、社長?」

「牢屋」エリコは言った。

「ろうや? ろうや? 牢屋?」ムウミンの牢屋のイメージはこの白い空間とフィットしなかったようである。「も、もうっ、社長、冗談は止めてくださいよ」

「冗談じゃないよ」エリコはアマチュアのバイオリンのようなムウミンのしゃべり方に安心して笑う。

「……社長、そ、そちらのメイドさんは?」

「ああ、コイツは、」

「はあい、私は神尾未理可、えっちゃんの家臣よ、よろしくね」

 ミリカはハイテンションで手を差し出す。

「よ、よろしく、」ムウミンはミリカと握手しながらエリコの耳元で囁く。「じ、人種が違い過ぎる」

「間違ってはないな」エリコは呟いた。

「……社長、こ、この娘は?」ムウミンは隣で寝息を立てているアメリアを指差し言った。

「アメリアだ」

「あ、た、確か、この娘の許可証を持って、」ムウミンは失神する前の記憶を手繰り寄せ、そして失神した理由を思い出して、エリコに迫る。「あっ、しゃ、社長、さっき、この娘と、き、キス、っていうか、エロいことし、してましたよねっ!?」

「え、ああ、ソレは……」

 お酒のせいで、と説明しようとしたエリコの肩をミリカが掴む。「……えっちゃん、それ、どういうことかなぁ?」

 振り向くと、ミリカの顔は予想外に魔女の顔だった。

 エリコは冷静な表情を作って、しばし考える。そして言った。「多分、今の君たちに何を説明しても、無駄だと思うんだ」

『説明しろ!?』ムウミンとミリカの声がユニゾンした。

 エリコは両手で耳を塞ぐ。

 それをどかそうとムウミンとミリカは手を引っ張る。

 この騒がしさは、牢屋じゃなかった。

 その騒がしさに、アメリアは目を覚ました。ムウミンと同じように白い空間を見回して、エリコとムウミンとミリカを見ていた。

 そしてムウミンとミリカは、アメリアの顔に釘付けになる。

 その視線に戸惑うアメリア。「……え? わ、私の顔に、何かついてます?」

『……ハートマーク』ムウミンとミリカは、アメリアを指差した。

「ハートマーク?」アメリアは聞き返す。

『うん』ムウミンとミリカはアメリアのハートマークを触った。それは左目の下にある。

「え? あ、ちょ、ちょっと、えへへ、って、くすぐったいですよぉ!」

「……きゃ、きゃわいい」ムウミンはうっとりとアメリアのハートマークを触る。

「何、この可愛い生き物」ミリカも頬を赤くしてアメリアのハートマークを触り続ける。

「……うう、もう、もうっ、もうっ、怒りますよ!」

アメリアが怒鳴っても、二人は触るのを止めない。二人はアメリアをとても愉快そうに触り続ける。とても賑やかだ。

アメリアには悪いけれど。

こういう未来がいい。

エリコはそう思った。



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