第六章⑦
魔女の塔を出て、ピチカートとシャーロットは庭園を横断し、宮殿へ向かって飛んだ。すでに多くの魔女たちは宮殿の外に集まっていた。ドラゴンもユニコーンもグリフォンもいた。その中にブリジットを発見した。ケイジが言った通り、その鱗は強度を増したように黒く輝いていた。
「ピチカートさん!」
ヘンリエッタが横に並んで飛んだ。酷く慌てている様子。
「ヘティ、何かあったの?」
魔女たちから少し離れたところに降り立って、ピチカートはヘンリエッタに聞く。
「あの、アメリアが、部屋にいなくて、」ヘンリエッタは無理に落ち着こうとしていた。しかし、ピチカートにはパニックに陥っているように見える。「何か、あったんでしょうか?」
「落ち着いてしゃべりなさい」シャーロットが窘める。
「アメリアが?」ピチカートは眉を潜める。
「アメリアは、きっと、宮殿の中だ」
シエンタがピチカートの隣で腕を組んで立っていた。
いつの間にか、ディスカッションのメンバーがピチカートの周囲に集まっていた。
「どういうこと?」ピチカートはシエンタに聞く。
「魔女たちが目撃している、アメリアと、あと二人、合計三人の魔女が宮殿に乗り込んで、よく分からないけれど、国王に喧嘩を吹っかけているらしい」
「どういうこと?」ピチカートは顔を近づけてシエンタの肩を揺すった。
「私に分かるはず、ないだろう、」シエンタは冷たく言ってピチカートから離れ、襟を正した。「すっとココで、年上の魔女の指示を待っていただけなんだから」
「そんな……」ピチカートは半円球型の宮殿を見上げた。
歪な月明かりがステンドグラスに反射して輝いている。
黙って、何か、進展があるのを待つ。
何かを考えようとしても、喉が渇いて、思考が続かない。
ただ、この光景が次々に記憶されていくだけだった。
しばらくすると、宮殿の中にいた魔女、そして騎士たちも、ぞろぞろと出てきた。
どうやら、解散を命じられたようだ。
それは、つまり、どういうことだろう?
アメリアは?
ピチカートは、その魔女たちの中にアメリアがいないか目を動かした。
しかし、アメリアの小さな躰は見つけられない。
ピチカートの足は駆け出さずにはいられなかった。
出てくる魔女の流れに逆らって、宮殿の中へ走った。
「待ちなさい!」
宮殿から出てきた魔女に腕を掴まれる。「すでに国王から解散を命じられたのよ、塔に戻りなさい!」
ピチカートは反抗的な目をしながらも、立ち止まってしまった。真ん中が膨らんだ石柱の間にある閉じかけた扉をじっと見た。きっと間に合わない。振り払おうとした腕に従い、力を抜いた。
瞬間、その横を風が走り抜けた。
「あ、ちょっと、あなた!」
ヘンリエッタだった。ストロベリーブロンドのツインテールを揺らして走る。そして閉じかけた扉に、間一髪で滑り込んで、ピチカートに向かってピースサインを送って、そしてまた走り出した。
扉は完全に閉じた。機械音は鳴り止む。
「まったくもうっ!」魔女はヒステリィな声を上げる。
ピチカートは八つ当たりされないように、ひっそりと魔女から離れ、夜空を見上げるように、宮殿のステンドグラスを見上げた。
そしてアメリアのことを考えていると。
まるで流れ星が落ちたような爆発が起こった。
正直、ピチカートは、もう、うんざりだった。
それは爆発に追われた魔女たちの共通の感想ではないだろうか。
もう何も考えたくない。
目を瞑る。
瞼を貫くほどの光。
耳を塞ぐ。
手の平を容易く通り抜ける振動。
白い空間にいる東洋の魔女は何も出来ないはずだ。
何もできないはずなのに。あそこから出ることが出来ないはずなのに。
それなのに爆発した。
訳が分からない。
目を開けると、宮殿は山に火をつけたように炎上していた。
そして、そこから、一本の火柱が上がった。
いや、正しくは火柱じゃない。
黄色い翼が、重力に逆らい、月に向かって、二本の煙を吐き出していた。
グングンと高度を上げる。
ピチカートは反射的にブリジットまで走り、その背中に飛び乗った。
「ケイジ、降りて!」
言うが早いか、ピチカートはケイジの背中を蹴り飛ばしていた。
「ちょ、おいっ!?」ケイジは芝の上に倒れ込んだ。
「ごめん!」ピチカートはブリジットの意志にコンタクトする。手綱をしぼる。「お願い、月まで飛んで、ブリジット!」
ブリジットは漆黒の翼を広げ、翼を地面に叩きつけるように、はばたいて、月を目指した。




