第六章⑤
宮殿の大広間で、ザ・フォレスタルズが新曲を披露し終わると、国王は立ち上がって拍手をした。
「いかがでした?」
「素晴らしい、本当に」
「光栄です、」ノウラはスカートを広げて裾を持ち上げ、顎を引いた。「国王、以上でリハーサルを終えたいと思いますが……」
国王は何か言いたげにノウラをチラチラと見ていた。求婚でもされるのではないかと思った。ノウラはその連想はおかしいと思った。それは不自然で、常識的にありえないことだ。
でも、ありえると思わせるくらい、この国王は、かなり、わがままな目付をしている。
国王は口を開きかけた。
そのとき、灰色の髭の側近が、国王に近づき言った。
「国王、ハイ・エースです」
「分かっている、後にしろ」
「違います」側近は首を振った。
「何がだ」
側近は、ノウラよりもずっと後ろを見るように顔をそちら側に向けた。「ハイ・エースが来ています」
国王は目を僅かに大きくした。しばらく考えているようなそぶりを見せ、不健康そうな真っ赤な唇を開いた。「……扉を開けろ、それから、ベルを鳴らせ」
ノウラの後ろ、仮設ステージの後ろの、巨大な扉がゆっくりと横にスライドした。歯車の擦れる音が周囲を取り囲んだ。そして、ビック・ベルが鳴り響く。
ノウラは国王を見る。「一体、何が?」
「心配するな、」国王はノウラの横に並んだ。国王はノウラよりも背が小さかった。そしてノウラの左手を触り、小さな声で言った。「すべてが終わったら、コレを、私にくれないか?」
「コレ、ですか?」黄色のグローブのことを国王は言っていた。
「……嫌か?」
「汚いものですよ」
「だから、いいんじゃないか」国王の顔は真面目だ。
「……ええっと、すいません、コレは、コレだけは、絶対にダメなんです、」ノウラは右手でグローブを包んだ。「大事なものだから」
「……そうか」国王はそっけなく言ったが、とても、落胆しているように感じて、ノウラは、少し、悪いことした気分になった。
しかし、国王は突然ノウラの横で声を張り上げた。
「今さら、何をしに来た!?」
その声は、横にスライドし続ける扉に向けられていた。
ノウラはその方向を確認する。ジョンもバリーもミンスも、そこに居合わせた全員がその方向を見ていた。
「決まってるじゃないか!」
扉の向こうから、声がした。そして、扉から箒を持った魔女が出てくる。
その魔女は頭にどこかの国の軍帽を乗せていた。左耳には銀色の文字が刻印されたピアスを付けていた。黄色いひらひらのワンピースの上にポケットの沢山ついた黒いジャケットを羽織っていた。足は細いが短く、それをきっと八センチの黒いピンヒールでごまかしている。東洋人の顔立ちで色白でかなりのベビーフェイスだった。黒い髪は長い。前髪は眉のところで切りそろえられていた。胸は小さく、瞳は黒く大きい。
その魔女で一番の特徴は首の黒いベルトと、それに猫の鈴のように取り付けられた、黄色いベルだ。
そのベルは、キャブズの証。
キャブズとは、魔女が最後に辿り着く職業。
空を飛ぶことしか出来ない魔女は人を箒の後ろに乗せて対価を得る。
その職業の証に、首輪をして、ベルを付ける。
もしかして、この魔女が、エリコ・ダテ?
ミリカが言っていた、日本の友達?
ノウラはミリカから聞いていた。エリコの呪いを解くために、ファーファルタウまで来たのだと。
魔女の左目の下には何もなかった。
呪いは解かれたのだろう。
よかった。
ミリカは目的を成就したのだ。




