第五章⑦
ファーファルタウの宮殿ベルズアーバスの大広間にて、夕方ごろからはパレードの前座を務めるザ・フォレスタルズがリハーサルを行っていた。メンバーにストリングスとパイプオルガン奏者を加え、楽曲はいつもより豪華にアレンジされていた。
ノウラはポニーテールに長い黒髪を縛り、政府から支給された紫色の豪奢なドレスを纏っていた。そのドレスの生地は薄く、ノウラの体のラインはハッキリと分かった。ノウラは別に抵抗はないが、バリーは苦言を呈した。それからノウラは左手に指先が露出する形のタオル地の黄色いグローブをはめていた。コレを付けていればマイクを持ちながら、右肘を叩いて手拍子しても痛くないのだ。
豪華アレンジの『流浪のマーチ』を披露して、ノウラはスカートをふわりと浮かせて一回転して、パレードの運営委員会の皆様に「いえーい」とゆるい声でピースサインをした。彼らは無表情に腕組みをしながら、無視した。ノウラは背中を向けて小さく舌打ちして、水を飲んだ。「あー、面白くない」
唯一反応があるのが、ノウラのファンだと言う、国王だけだった。国王は政府の取り巻きに囲まれて、一人、はしゃいでいた。国王はまだ若い。十代だろう。ちょっぴり可愛い。ノウラは国王に向かって「いえーい」とゆるい声でピースサインをした。照れている。可愛い。
そしてノウラは、マイクを両手で持って、
「じゃあ、一応、この曲でラストです、ご唱和下さい、」国王に向かって声を投げる。この楽曲はライブの最後で必ずといって言いほど披露している、とても大事な楽曲である。
「ルウト、」サーティース。
それが楽曲の名前だったが、ミンスのドラムの前に、体を揺らす、爆発音が遠くで響いた。
「何!?」とノウラは後ろの方を振り返った。ジョンもバリーもミンスも後ろを振り返っている。政府の人間もざわついている。何人か、広間の外に駆け足で出て行った。ミリカが爆弾を爆発させたのだろうか、とノウラは思う。ノウラはクスリと笑った。ノウラたちはミリカが作った爆弾を、ミリカの指定した場所にくまなく設置していた。昨日は宮殿の近くのホテルで一日を過ごしていたが、ファーファルタウの至る所から煙が上がっていた。ノウラは、王都でのこの不思議で、かつ興奮する出来事をヒントに一曲作った。
リハーサルは一時中断。
に、なるのかと、思われた。
灰色の髭を生やした国王の側近がそれを促しながら、
「ハイ・アラートです」と厳戒態勢を告げた。「リハーサルは一時中断です」
けれど、国王はとても不機嫌そうな顔をしてわがままを言う。「ダメだ、まだアンコールもしていない、続けよう」
「国王陛下!」
「私が国王だぞ!」国王は鋭い目付きで睨んだ。
灰色の髭の側近は黙り、下がった。
「あ、あの……、」ノウラはピリピリとした雰囲気を怖がりながらも、国王に尋ねた。「どうします?」
「どうぞ、ノウラさん、続けて下さい」とても優しい、国王の返答と微笑。
少し、背中の肌がざわついた。あまり国王という人種と触れる機会が少ないからだろうか。表情がこわばり、返事が一瞬遅れた。「……分かりました」
ノウラはくるっと、後ろを振り向いてメンバーを見渡した。集まって、というサインを人差し指を回して出した。メンバーはノウラに近づく。「新曲をやろう」
メンバーは頷いてノウラから離れた。
ザ・フォレスタルズの短い相談の間も、広間はざわつき、人の往来が激しくなった。
その中で、演奏するのも、これまた、機会が少ないことだ。
きっとストリングスとパイプオルガン奏者はポカンと口を開けるかもしれないが、ノウラは国王に向かって振り向き言った。「国王のために、新曲を用意してきました、聞いて下さい、『これは陶酔する物語』」




