第四章③
「ドラゴンなんて反則だ!」
ミリカは涙目になりながら箒に乗って逃げていた。
まさか、アメリアがドラゴン使いだなんて想像もしなかった。
ドラゴンの鋭い爪が幾度となくミリカを襲う。
ファーファルタウの上空でなかったら、ドラゴンの火炎放射を浴びて、ミリカの姿は骨までなかっただろう。
とにかく、ミリカはファーファルタウという地理を利用してドラゴンから逃げていた。
しかし、ドラゴンは頭のいい生き物だ。
ミリカの動きを予測して行き先を塞いだりもする。
その爪に捕まるのも時間の問題か、とも思えた。ほとんど厳戒のスピードを出しているから、ミリカの体力も尽きかけている。
逃げる方法がないわけではない。魔女から逃げる、様々な手段をミリカは考えていた。ソノ、最終手段を利用するしか、ドラゴンからは逃げられないと思った。しかし、最終手段は、最終手段だけあって、危険で、派手で、なんていうか後ろめたく、少しもったいない気がするのだ。
ミリカが日本人だからだろうか?
いや、その論理なら、うたかたの美しさのために高価な火薬を夜空に打ち上げて花を作る日本人ならばこそ、ここで一発、最終手段をお見舞いせにゃならないだろう。
ミリカは多少強引に決定した。
決定して、今から、いざやるとなると、心が騒いでしょうがなかった。
興奮。こんなに楽しいことはないだろう。
ドラゴンに殺されそうなのに、ミリカはナチュラル・ハイで心から笑った。
「しゃああああああああああああああああああああああああああああやってやるぜっ!」
ミリカは小さな教会の屋根の上から一気に浮上。
太陽が近いと思える高度だ。
ドラゴンもミリカを追って高度を上げる。
ミリカは反時計回りに水平に回転しながら、頭の中で広げた地図と、この高さから見えるファーファルタウの街を照合した。
見えた。
あった。
東の方向。
王都の一級河川ラムズ河の傍に、周りを有刺鉄線付のフェンスで囲まれたレンガ造りの倉庫。
弾薬庫である。
ミリカは目を閉じて、その場所へ意識を集中させる。
そのフェンスの周りにミリカ特製の魔弾の反応が、四つ確認できた。
サンキュー、フォレスタルズ!
ミリカの狙いは、その四つを爆破させて、弾薬庫の爆弾も誘爆させることである。
その弾薬庫の全ての爆弾の値段を合わせたらいくらくらいだろうか?
ソレを考えただけで、今からソレを爆発させることを考えただけで、やっぱり楽しくて、震えるくらい緊張する。
ミリカは襲ってきたドラゴンの尻尾を避けた。
危なかった。
思わず息を吐く。
そして、重心を前にして加速、弾薬庫まで一直線に滑空する。
ドラゴンはミリカの後方を飛行する。
ロールをしながらドラゴンの爪を避ける。
速度は落とせない。
風が凄まじい。空気の摩擦だ。
ミリカは目を閉じた。
四つの魔弾を起こす。
魔弾は生き物の心臓のように一度、鼓動して、ミリカの心臓に合図を送る。
「さん」カウントダウン開始。
「にぃ」ミリカはそのままのスピードで角度を変え、弾薬庫へ向かう。
「いち」ミリカは弾薬庫の屋根の上に着陸するような姿勢で滑るように飛び、魔法を編んだ。この速度なら屋根の向こう側まで三秒もかからない。
「ぜろ」青春真っ只中のハイスクールの学生が走って屋根から河へジャンプするように、急上昇。
後ろを振り返ると、ドラゴンは弾薬庫の屋根の上。
巨大な音と閃光。
炸裂した四つの魔弾がドラゴンを包み込み、遅れて弾薬庫の様々な爆弾が各々のタイミングで、卵から孵るように、誘爆した。




