第三章⑥
「どう、アメリアちゃん」
地下だから時間の感覚がほとんどなくなって、最終的に世界が止まっているのではないかと思いはじめるほど、思考状態がロウになったくらいに、看守を続けるアメリアの元にシャーロットが現れた。
「あ、シャーロットさん」寝起きみたいに自分の声は掠れていた。
「大丈夫?」シャーロットは立ち上がったアメリアに向かって聞く。
「はい、」頷いてからアメリアは首を傾げた。「ええっと、大丈夫って、何がですか?」
「いろいろよ、」シャーロットはヘンリエッタにそうするみたいにアメリアのネクタイのズレを直し、襟を正した。「疲れていないかとか、怖くないかとか」
「いいえ、」アメリアは首を振る。事実、疲れも感じないし、恐怖の感情は今のところ感じていない。「ありがとうございます」
「東洋の魔女は目を覚ました?」鉄格子の向こう側の相変わらず人形のような魔女を見ながらシャーロットが質問する。
「いいえ、ピクリとも動きません、呼吸しているのかどうか、心配になるくらいです」
「そういう特殊な訓練を受けているのかもしれないわね」言いながらシャーロットは魔女をまじまじと観察していた。
「あのっ、シャーロットさん」アメリアは後ろから声をかける。
「なぁに?」シャーロットは振り返った。
「ヘンリエッタに伝言をお願いできますか?」
「伝言?」不思議な顔を一瞬したがシャーロットはすぐに微笑んで頷いた。「いいわよ、なんて伝えましょうか?」
「手伝えなくてごめんなさいって」庭園の掃除のことである。アメリアはそれが気がかりだった。ヘンリエッタは庭園で頬をふくらましているかもしれないから。
「手伝えなくてごめんなさい、」シャーロットはゆっくりと復唱した。「で、それだけ?」
「はい」
「りょーかい、」シャーロットは真面目な顔で言う。「手伝えなくてごめんなさい、愛しているわ、私のヘティ、と伝えておくわ」
アメリアはクスクスと笑った。「はい、そう伝えておいてください」
「また、来るから」シャーロットは扉を触りながら言う。
「すいません」アメリアは深々と頭を下げる。
「いいのよ、ヘンリエッタのせいで、私、やることないし、ピチカートの頼みだもの」
「あの、そういえば、先生は、何を?」ピチカートのことが少し気になった。
「ドラゴンに乗りに行ったわよ」
「え?」そんな答えが返ってくるとは思わなかった。それにしても、なぜ。「ドラゴンに?」
「新しい趣味じゃないかしら?」シャーロットは冗談を言うように言った。
「乗馬じゃないんですから」
しかし、ピチカートの考えていることを深くまで理解するのは難しいから、ひょっとしたら、そうなのかもしれないとアメリアは思う。でも、少しは、私のことを考えてくれていたらいいなと思った。
「あ、これ、」シャーロットはポケットからチューインガムを取り出して、アメリアの手に握らせた。「あげる、口寂しいでしょ、それに噛んでいると頭の回転もよくなるしね」
シャーロットが出て行くと、再び、信じられないほどの静寂が、アメリアを包んだ。




