プロローグ
飛べない魔女は、ただの豚、火あぶりで何かの丸焼き。
そういう価値観が、この世界に住む人々の常識であるということは、わざわざ確認する必要もない事実である。魔女にとって箒に跨って飛ぶ、ということは、赤ん坊が泣く、幼女がロリコンを挑発する、年増が可愛い子ぶる、という風なことと同じことである。つまり、魔女は飛べて当たり前。魔女は空を飛ぶものである。飛ぶことが出来れば、すなわち魔女なのである。
魔女であるには、空を飛べさえすればいい。
空を飛べさえすれば、魔女と名乗ることが出来る。
飛ぶ、以外の他の様々な複雑な魔法を使えるようになるためには特殊な訓練がいる。
飛ぶことに関して言えば、訓練はほとんどいらない。
この世界の娘は十一歳になると箒に跨る。
浮くか、浮かないか。
それによって、人生の選択肢はおおよそ半分に絞られる。
浮いた娘は魔女になる。
魔女になり、魔法を学ぶことのできる高等学校に進学したり、私塾に通ったり、また一人の師について旅をしたり、また奉公に出て働きながら魔法を学んだり、あるいは宮殿に仕えたりする。
魔女が箒に跨るときにパンツが地上の民から目撃されないようにするためにブルーマを発明した偉大なる魔女アメリア・ジェンクス・ブルーマも齢十一のときは宮殿に仕えた魔女の一人だった。