9:終幕
俺の光魔法を直撃させたにもかかわらず竜は傷一つないような状態でいた場所にそのまま立っている。
レイとヘルのほうにもアーガスが張ってくれたバリアは広がっていてそれぞれを守っていてくれた。
「虫けらが……そんなおもちゃのような魔法で倒せるとでも?こんな雑魚ばかりなのに何故?何故,あのように広い世界を支配できていたのだ?自然に住む動物全ての頂点に君臨していたのがお前らヒトだったのだろう?」
流暢に話しやがって……。
でもランク10の魔法で効かないならどうすればいいんだよ。
「それならお前は何だ? 神か?」
ヘルのセリフが少しの沈黙を破った。
確かに,こいつは何なんだ? 少なくとも野生動物にしちゃ強すぎるだろ。
「私は確かに召喚獣だ。お前らが呼ぶ名ではな。だが私はその辺のペットのような奴らとは違う。ヒトごときにいいように使われ,そんな服従など私は認めん。なら,私自身の手でお前らなど世界から消し去ってやろうと思っただけだ。何が可笑しい?当然の判断ではないか?私はお前らよりも力,知能,全ての点において上回っている。…こんな説明をいちいちしてやっても無駄だろうな。すぐに…排除してやる!」
再び竜は口から炎を吐き出し,黒い炎が俺たちの目の前でバリアを破ろうと迫ってきた。
「あんなのどうやって倒すのよ〜〜はぁ。」
レイはバリアを連続で張り続けている。しかし攻撃には出られない。攻撃に出たところであいつには何一つ効かない。
「口の中じゃ。」
アーガスは指差した。
…おいおいおっさん。
なんのRPGだ?相手の竜の口が開いた瞬間にそこに魔法を打て。
そういいたいんだろ?
生憎だけどそんな隙あいつには見えないし,そこまで近づけない。
「相手も生き物じゃ。炎を吐き続ける事は出来ない。呼吸をするときが少なからずある。その時に一気に近づいて魔法を唱えるのじゃ。」
「よぉしっ!」
あんたは単純ですね。レイさん。
よぉしっなんて言っても相手は未知の領域の化け物だぞ?
「平気平気! だってロスがいるじゃん」
俺がいるから平気ってなんなんだよ。
「確かに。お前がいたら何となく死ぬ気しないよな」
どういう根拠があって言ってるんだ、このニヤケスマイル野郎め。
なんていってもやるしかないんだよな。……どうせさ。
「どうせだから一発で決めようぜ。早く帰りてぇ」
炎が無くなった瞬間,つまり竜が一呼吸おいた瞬間に一気に間合いをつめ口へ魔法を放つ。
注意するのは近接戦だから爪とかで引掻かれないようにすることだな。
想像しただけでなんとなく痛い気がした。
いや,痛すぎるに決まってる。
「もう少し」
炎は小さくなってきていた。徐々に…徐々に炎がバリアから消えていき,遂に竜の姿がバリア越しにはっきり見えた。
「行くぞ! 」
一斉に飛び出したとき俺はとにかく何も考えていなかった。
ただひたすら,竜の方へ走っていって。そして魔法を唱えた気がする。
とにかく,記憶が少し曖昧だ。
そんな記憶がしっかり戻ったのは竜の声を聞いたときだった。
竜の喚く声。地面が揺れているのが分かる。
目の前には崩れていく竜の姿。
そしてレイとヘルの姿。
……やった…か。
「なんかラスボス倒したって感じだな。」
俺たちはなんせ無傷。
常識じゃ考えられないくらい簡単にいってしまった。
「おぬしらは強いのぉ。わしよりも……な。」
そういえば,なんでアーガスがここにいるのかまだ聞いてない。というより,死んでない事がまずおかしいが。
「わしは何百年も前,ここに召喚獣を探しに着たんじゃ。まだ誰も見た事の無い召喚獣。それはさっきの竜じゃった。わしはそいつを倒そうとしたんじゃが返り討ちにあってしまっての。しかもその竜はわしの魔力を自分の力にする為にこの牢獄にわしを閉じ込めたのじゃ。ここの牢獄はわしから奪った魔力を使って竜が時間の流れを完全に止めておる。つまりわしは年も取らなければ腹も空かぬ。そして奴がわしの魔力をほとんど奪い取ったとき,おぬしらの世界を奪い取ろうとして今回の事態に陥ったのじゃ。」
なんだか信じられないような話だな。でも…信じるしかないのか。
「このままだと人類は滅亡してしまう。そう思ったわしは魔力を全て使い果たしおぬしらにかけてみる事にした。年寄りの戯言じゃが,おぬしらはわしの孫のように見えての。そしてここまで導いたと言うわけじゃ。」
「それじゃあ元の世界は今どうなっているんですか?」
「心配ない。魔力の根元を断ったのじゃから全てが元に戻る。わしの牢獄もな。」
ってことは,アーガスは……。
「大丈夫じゃ。死などもうとっくに怖くなくなったわ。むしろ死の先には何が待っているのか早く見たくてうずうずしておる。おぬしらには感謝せねばな。今までの日常までわしが送ってやろう。もう全てが元に戻っているはずじゃ。」
さようなら。それすら言う前に転送は始まった。
最後に見たアーガスの顔は笑っていたように見える。
「ストーム!!」
……やっぱ駄目。
日常に戻ったけどやっぱり魔法は使えない。
いい加減ランク1くらい使えるようになろうぜ。俺。
「ロスったら。もういい加減ストームくらい使えるようになろうよ。私みたいに綺麗に華麗に美しく」
最後まで聞く気は無い。レイも元通りいつものレイだ。
この前の出来事が夢みたいだな。
「しっかしまぁありゃなんだったのかね? 夢か? でもロスは光魔法使えてたし」
確かに今でも光魔法は使える。ヘルはいつにもまして不気味にも見えるスマイルを浮かべながら座っている。
「いいじゃんいいじゃん! こうやって私もロスも,ヘルだって無事なんだからさ! ……ほぉらもう学校行くぞっ! はい! 学校まで競争! よーいドン!」
少しおしとやかになればいい子なんだけどな,あのじゃじゃ馬は。
俺は先を走っているレイに続くかのように走り出した。
「負けるかっ! 」
またいつも通りの生活。
少しの間はそりゃちやほやされたけどさ。
王女にも感謝されたし,救世主なんて呼ばれたり。
自分でも感動するくらいあのときの俺たちは凄かった。はず
それでもやっぱり今までの生活が良いや。俺には。
魔法じゃ作れない平凡な日常が。
長かったようで実際は短かったこの話ですが,どうにか完結出来ました。
……文字数的には過去最長の今作。
消化しきれてない所があるのが少しもったいなかったかも;
こんな魔法とかが使える日が来るのはもっともっと先の世界のでしょうが,それでも一度は使ってみたいな〜。
それでは。
感想,指摘等ありましたらお願いします。。