4:本領発揮
結局また頭に響いた声の言う通りに行動した結果がこれだ。
光の魔術書が落ちていてそれを俺が使えた。
しかもランク1も唱えられない俺がいきなりのランク10魔法。
レイもヘルも何で?どうして?の一点張り。
聞きたいのはこっちだって。
避難所に向かっていた俺たちだが魔物はいなくなってしまったので避難所に行く理由も無いんじゃないかと話していると突然スライムが止まった。
「んぎゃ。」
変な声を出してしまったが,顔を上げるとそこには王女がいた。
レイはスライムがしっかり押さえていたので落下しなかったが,俺とヘルは地面に放り出された。
しかし,地面に着く前に地面がウォーターベッドのように変形したため全くの無傷ですんだ。
後に知ったがこれは王女が魔法で作り出してくれたらしい。
「あ,王女様〜。どうしましたかぁ?」
そんな呑気に話すな。レイ。
このエリル王女はこの空間を作った凄い人で…と言うより王女なんだぞ?
「いえ,気にしないでください。私は自分の身分なんか気にしないで頂いて結構ですので。その方が楽ですし。」
なんていい人だ。美人だし。
「それで…どうしたんでしょうか?」
ヘルが尋ねていたが,俺は質問の内容は少し感づいている。
「あの大量の魔物を一瞬で倒したのはあなた方ですよね?我が国精鋭部隊でも200体を一撃で倒すのが精一杯なのに…。使った魔法は光魔法ランク10ライトニングバースト。大賢者インディスが書き記した太古の書物。」
…9割知らなかったがとりあえず凄いものらしいな。
でも…
「これはまた頭の中に声が聞こえて…それで指示通りにしたらこの魔道書が落ちていて…俺が呪文をただ読んだら…。」
そう言うとレイとヘルもびっくりしていたようだが,王女までもが驚いたような顔をしていた。
「そんな…その呪文は私が腕輪を装備しても発動できません。それにその魔道書がある城は…アーガスが行方不明になった城でもう何百年前に捜査がすんでいます。でもその時にその魔道書は無かった。歴史上ではアーガスがその魔道書を使い城の隠された部屋に向かった事になっています。ある分析家の説ではその部屋に今まで発見されていない召喚獣がいると言われています。今現在その城にそのような隠し部屋すら発見されていませんが。」
歴史がチンプンカンプンな俺とレイは顔を見合わせていたが,ヘルだけ指をこめかみに置き何か考えているようで,
「えっと…少し質問しても良いでしょうか?まず腕輪って言うのは何でしょうか?装備するって言う事は魔力増強のアイテムですか?それと,アーガスが使っていたと言われる書物が何故この緊急避難所に?ここはあなたが作り出した空間ですよね?」
「この腕輪についての質問は簡単です。私が魔力を液体化してそれを闇魔法,光魔法の特殊な合成で作り出す魔力増強アイテムです。ただ何種類もあって一つの種類の魔法を強力にするものや防御魔法を強くするものなど様々です。私が身につけているものは全能力を上昇させるもの。但し上昇値は他の腕輪より低めですが。腕輪は精鋭部隊全員に私が作りました。各個人に合わせて。そしてその魔道書がここにある理由ですが,私が考えられるのはテレポーテーションの魔法でどこかから送られた。それぐらいしか…。」
王女と言えども俺とあんまり年齢差無く見えるがこの人はやはり常人の域を超えているような気がした。
そんな腕輪が作れる人なんて始めて聞いたし,言っている事が俺には難しい。
「じゃあ誰かが私たちの味方になってくれてるって事でしょうかね?」
レイはスライムを抱きしめながら首を傾げて聞いている。
でも俺だけにしか聞こえないって言うところが問題だ。
どうせなら全員に聞こえるくらいに助けてくれてもいい気がするが。
「味方…と断定して言いかわからないですが,気になるのはこの魔道書を簡単に使ってしまったあなたです。えっと…ロスさんですね。あなたの記憶の断片から察したところあなたは魔法は不得意だったようですが…。」
そこまで見れたんですか。確かに記憶を一回見られたようだが,どこまで知られてるんだ俺は。
「一つ,導かれた答えはあなたは光魔法の能力が飛びぬけて高く,その反面他の魔力が低いのではないかと思います。と…なると魔物相手にはとても有利になりますね。」
そりゃ学校では光魔法なんてぜんぜん練習しなかったからな。レイは光魔法の実習も選択で他の魔法より数段難しいとか言っていたぞ。
「じゃあロスが防御魔法だけ出来たのもそのおかげなんでしょうかね〜?防御魔法は光魔法と隣接する魔力の影響を受けやすい配置ですもんね?」
レイは魔法には詳しいのでこういう時は自身のある声で話す。
ただ,その話がそのまま本当だと,俺は光魔法が使えると言う事らしい。なんてこった。
俺に出来るものがあるとは。
「そうですね。きっとロスさんは魔力のほぼ全てが光魔法に向いているとても稀な存在,そう言う事になりますね。精鋭部隊にも光魔法が使える人は5人もいないんですよ?それに全員腕輪装備状態でもランク9止まりです。」
俺はとにかく今の自分の状態が信じられなかった。
いきなりあなたはランク10の光魔法が使えますといわれても,今まで光魔法なんて使った事も無いこの俺が。
しかも偶然かは知らないがしっかり呪文は使えてしまった。
これは夢か?
夢ならもう覚めてくれ。目覚まし時計よ,全力で鳴り響け。速攻でお前のボタンを押して止めてやるぞ。
「それと…あなた方二人にも特殊な力があるようですね。レイさんは魔力の自己回復能力,どれだけ魔法を連発してもあなたは疲れを感じませんよね?」
このいきなりの発言にレイはまた首を傾けて
「え?魔法って使うと疲れるものなんですか?」
…おいおい…こいつ本気か?
俺はランク1の魔法の不発弾でも10回使えば100mを全力で走った以上に疲れるぞ。
ヘルだって30回くらい魔法を使った後は休んでいる。
そういえばレイが魔法を使って休むの見た事無いっけ。
「次にヘルさん。あなたは魔法によるダメージを普通の人よりも多く受けません。体に抵抗力があるようですね。ランク4ぐらいまでなら傷を負わないでしょう。」
こいつは不死身人間ってか?
冗談か?
「じゃあ王女様を信じて,何かランク4魔法をやってくれませんか?それでどれだけのダメージがあるか。」
ありえない。
俺たちはランク2くらいの魔法でも結構痛いぞ。
確かにこいつはハンサムフェイスで痛がっているような顔は見た事無いが,痛いものは痛い。
ましてやランク4なんか…
「わかりました。じゃあ行きますよ。」
って,あなたもやる気ですか…
「ミールファイア!」
…本当にやりましたよ。この人。
ミールファイア。ランク4の炎魔法。
キャンプファイアーで使うくらいの火柱がヘルを包み込んでしまった。
だがその火柱の中の人影は手を火柱から出すとそのまま手を横に炎を掴むようにして振り切ってのこのこと出てきやがった。
やっぱりありえない。
少しこのハンサムフェイスが憎らしく見えてきた。その顔に傷一つ無い。
「本当に痛いとは感じませんね。生暖かいのは感じましたが。手は抜いてませんよね?」
「はい。全力です。腕輪のサポート能力を含め。」
この二人はおかしいようで。
疲れない機械少女と不死身ハンサム人間が俺の横にいます。
ヘルはこっちを見て気味の悪く見えるスマイルを見せて歩み寄ってきた。
なんとなく一歩引いてしまった。
「俺もレイもちょっと人より能力があるみたいだね。ロスだって光魔法使えるし。」
ちょっとじゃないさ。
お前は不死身。
レイは機械人。
未来のロボット顔負けだ。
俺は普通の光魔法が…まぁ結構使えるだけだが,お前らは人間離れしてる。
「やっぱりあなた方は凄い人でしたね。初めて出会ったときにすこし違う魔力を感じましたから。さて…それでは本題に入ります。少し長くなるかもしれませんので王座までご案内しますね。」
王座までは王女の魔法で一瞬だった。
少し話の展開が早くて俺には理解する時間すら無い。
俺は光魔法が使える。しかもランク10まで。
レイは魔法を連発しても疲れない。更に魔法の知識は高く,魔力が増強されているこの空間ではかなり強い味方であろう。
そしてヘル。王女のランク4の炎魔法で無傷。生暖かいとか言いやがった。しかも美形。魔法もほどよく使える。
王座に座った王女は小物入れのような可愛いケースを三つ用意して俺たちの前に置いた。
「これはあなた方に合わせた腕輪です。ロスさんのは白,レイさんが虹色,ヘルさんのが黄色です。」
その腕輪は金で装飾された高級感のある物だった。
俺なんかにはもったいないくらいに。
「白は光魔法の威力増幅と闇魔法のダメージ軽減,虹色は全魔法威力増強,黄色が防御能力増強です。」
なるほど。確かに全員に合わせた腕輪のようですが,それをなんでわざわざ精鋭部隊でも無い俺たちに?
「じゃあ本題です。敵は確実にここを攻めて来るでしょう。そこであなた達に力を貸して欲しいのです。精鋭部隊といえど人間。疲れはたまります。そこを一斉に攻められてしまっては防ぐ事すら出来ません。それで…」
「もっちろん良いに決まってるじゃないですかぁ〜!私の魔法がお役に立つのであるならば〜っね!」
王女の話も聞かずにテンション高めで叫んだレイは俺とヘルの首を掴んで立ち上がった。
こういうのがレイらしいのか。もう少し王女を見習え。御淑やかさを覚えろ。
「ふふっ…そう言ってくれると助かります。」
結局俺たち三人はこの避難所の護衛役となったわけだ。
だが初仕事は休む暇も無くやって来た。