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ディア・アリス  作者: 斎藤
【改稿前】
1/14

00 死んだ男と残された男

 「私は……この世の全て、を、知りたい」


 無数の試験管、フラスコ、ビーカー、うず高く積まれた古い書物、数え切れないほどの魔方陣。それらが限界まで詰め込まれた薄暗い部屋の中、ベッドの上の男は掠れた声で言った。

 言葉を向けた相手は、ベッドの傍らに佇む無機質な男だった。彼はベッドの上の男の言葉に、ただ静かに耳を傾けている。


 「悪魔(メフィスト・フェレス)は、私に約束した……契約、した……私に、全、て、を……与えると……」


 咳交じりに紡がれる言葉に覇気は無く、酷く弱々しい。だが、言葉を絞り出すことすらも命を削るかのようだというのに、彼は喋るのを止めようとはしなかった。


 「もうじき、契約は、成……される……だが……世界は、人間は、進化する……私は、まだ死ねない……!」


 消えかけの蝋燭が一際明るく輝くように、ベッドに臥せた男は声を絞り出した。佇む男は、やはり沈黙して彼の言葉を聞きに徹している。


 「だから……死に逝く私、の、代わりに、お前は……知るんだ……森羅万象を……何をしてでも、お前は知るんだ」

 「………」

 「あらゆる、可能性……あらゆ、る、進化……あらゆる、夢……それを、知れ」

 「………」

 「お前は、その……ために、生まれ、た……とにかく、知るんだ、古今東西の全てを」

 「――はい、主人(マイスター)


 沈黙を貫いていた男が最後に発した答えに、ベッドの男は満足そうに頷き……やがて、動かなくなった。彼は死んだ。

 それを見届けた無機質な男は、そっと部屋を立ち去る。


 「………」


 今から約500年前――ドイツの片田舎で起きた、とあるできごとだった。

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