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第一幕

戯曲です

[ 時 ]

一九四五年


[ 所 ]

東京 大瀧組事務所


[ 登場人物 ]

大瀧 暴力団組長

角村 警察署長 

坂井 小説家

修吾 組員


[ 舞台 ]

上手に、一人がけの革張りの椅子、灰皿がのったサイドテーブル

下手に、二人がけの革張りの椅子

舞台中央奥には、大小の日本刀、" 仁 "と書かれた軸


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


(上手の椅子に和服姿の大瀧、下手の椅子に角村)

(角村は警察の制服姿、横に制帽を置いている)


大瀧 

先日、日光にいってきましてね。腰が痛むもんで、温泉に入りにいったんです。腰痛ごときで湯治にいくな、兵隊さんのことを考えろと、愛国者に怒られちまいますがね。まぁ、私はヤクザもんですからね、もともと非国民みたいなもんですわ。その点、人目を気にせずにいられます

角村さんは、日光に行かれたことは?


角村 

ええ、あります。にごり湯のとこでしょう?


大瀧 

そうなんです。お湯が真っ白ににごってましてね、湯の花が、ふわふわと浮いとるんです。いや〜、気持ちよかった。私が行ったのは、露天風呂でしてね、景色が格別なんですよ。男体山?でしたっけ、立派な山がズドーンとあってね


角村 

あそこは、美しい自然も見ものですね


大瀧 

あとね、東照宮にも行ってきたんですよ。ガキんときの遠足ぶりでね。ガキんときは、ひどく退屈でしたが、今見ると、いや、大したもんだ。日本で、屈指の美しい建物じゃありませんか?


角村 

そうですね


大瀧 

(やや間) でも、もう我々日本人のものじゃなくなっちまうんですね


角村

(間) ええ


大瀧 

温泉も、歴史的な建物も、雄大な自然も、日本人の文化も、民族の誇りも。なにもかも。どうやら、捨て去られてしまうらしい


角村 

(うつむく)


大瀧 

玉音放送は、どこでお聞きになりましたか?


角村

警察署で、、、部下たちの前で、泣いてしまいました


大瀧 

ああ (うなずく)

泣きはしませんでしたが、お気持ちはわかりますよ。わたしは、はなから戦争に協力的でなかったし、学ってやつがないもんで、天皇さんがなんと言っているのかわからなかったが、それでもなにか、心にくるものがあったねぇ、、、

あの気持ちは一体なんだろう、、、、、



大瀧 

(煙草をくわえて火をつける)

そろそろ、本題に入りましょうかね。どうして警察署長さまが、ヤクザの組長のもとを訪れるのかをね 


角村 

今日は、お願いにまいりました


大瀧 

お願い?


角村 

ええ、非常に申し上げにくいのですけど、、、

女を買いたいのです


大瀧 

女? (驚いて、だんだんと笑いがこみ上げてくる)

はっはっは、まったく何かと思ったら、女ですか。はっはっは

わたしは、つい年貢の納め時かと思いましたよ。この歳にもなってムショ暮らしかと、内心おののいていたんですがね。よかった、よかった


角村 

(背筋をのばして、真面目な表情で大瀧を見ている)


大瀧 

この国が戦争で負けたというのに、いやはや、たいしたもんだ。はっはっ

それとも、戦争に負けたからですか。やけになって、アメ公の奴隷になる前に、楽しんでおこうって腹づもりですか


角村 

いや、そうではないのです (毅然と)


大瀧 

(角村を見据えて) まあ、なんでもいいですがね。警察署長さまのご依頼ですからね、ご要望におこたえしますよ


角村 

では、女をできるだけ多く集めていただきたい


大瀧 

できるだけ多く? はっ、あなたもお好きだねぇ


角村 

とりあえず、百人


大瀧 

百人!?


角村 

これは、政府からの依頼なのです。ここらの花街を仕切ってらっしゃる大瀧さんならば、と思って今日はやってきました


大瀧 

政府からですか、驚いたな。戦争はすんだのに、まだ動員されるわけですか


角村 

やがてすぐに、アメリカ軍が本州までやってきます。なので、彼らのための慰安施設をつくろうという話なのです


大瀧 

あの玉音放送から、まだ三日しかたっていないのに 


角村 

日本人の安全を守るという建前ですが、政府の上層部の連中は恐れているのです。自分の娘が、米兵に襲われることを


大瀧 

それで、いけにえを差し出すというわけですか。まったく、呆れたものだ

日本人の優越性だの、道義的責任だの、自分たちを褒めたたえる言葉を、つい数日前まで、声高に叫んでいたというのに。負けた瞬間に手のひらかえして、鬼畜米兵と罵っていたやつらを、手厚く出迎えて、ねぎらってやろうってんだ。若い日本男児を殺してやって来たやつらを


角村 

どうか、ご協力していただきたい (頭を深くさげる)


大瀧 

ああ、やめてくれ、やめてくれ (思わず腰を浮かせて、角村の肩にふれる)

いくらなんでも、警察がヤクザ者に頭を下げてはいけない


角村 

おねがいします


大瀧 

(脱力したように、ドスンと腰をおろす。煙草を灰皿にいれ、新しい煙草をくわえる)

角村さん、あなたお子さんは?


角村 

息子がふたり。長男は、菊の御紋をいただいた鋼の船と共に、南の海に沈みました。次男は、ガダルカナル島にいって以来、便りがありません


大瀧 

そうですか、、、わたしも組の若い衆を軍にとられているんですよ。世間の人より、チャカとダンビラの扱いはうまいかもしれないが、帰ってくるのか、わかりやしない

よしっ(自分の膝をぽんっと叩く) わかりました、ご協力いたしましょう

あんたと、靖国におられる息子さんのために、、、、




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