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最弱弓術士、全距離支配で最強へ  作者: ルベン


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第5話:ランクアップと新たな壁

 1. Dランク昇格とギルドマスターの注視


 ガリオスとの模擬戦での勝利は、ギルド『クライスラー』に大きな波紋を広げた。リアンに対する評判は、「運が良いだけの雑魚」から、「常識外れの異端児」へと変化した。賛否両論渦巻く中、ギルドマスターはリアンをDランクへと正式に昇格させた。


 ギルドマスターの室。重厚な木の机の前に立つリアンに、筋骨隆々のギルドマスター・バシュラが重々しい表情で話しかけた。


「リアン・アークライト。お前の昇格は異例中の異例だ。だが、ガリオスを倒した事実は、Fランクの範疇ではない。Dランクプレートを受け取れ」


 リアンは銅から銀へと変わったプレートを受け取った。


「しかし、よく聞け」


 バシュラは声を低くした。


「お前の戦い方は、冒険者の常識を逸脱している。弓を剣として使うなど、狂気の沙汰だ。その異端な技術は、周りの冒険者にとって『脅威』であり、『邪魔』でしかない」


「俺は、弓術士が最強であることを証明したい。そのためには、全ての距離に対応する必要があります」


 リアンは揺るぎない決意を語る。


 バシュラはため息をついた。


「……お前のその目には、確かに何か常人にはないものがある。だが、冒険者はチームで動くものだ。お前の能力が、他のメンバーの『役割』を全て破壊してしまっていることに、気づいていないのか?」


「それは……」


「これがDランク昇格後の初の依頼だ。四人パーティでの合同討伐任務。強制ではないが、受けてみろ。お前の『全距離対応』の戦闘スタイルが、チームワークという壁にどうぶつかるか、お前自身が知る必要がある」


 リアンは依頼書を受け取った。それは、近隣の鉱山に出現した硬い外皮を持つ魔物『ストーン・ゴーレム』の討伐依頼だった。通常、ゴーレムは前衛の剣士が動きを止め、後衛の魔法使いが高火力で外皮を破壊する、典型的な『役割分担』が必要な任務だ。



 2. 初の合同パーティ結成


 ギルドの待合スペースに戻ると、既に依頼書を見て集まった三人の冒険者がリアンを待っていた。



 ① ダリウス(盾役/タンク):分厚い鉄の盾と重装鎧を身に纏った、いかにも頑固そうな男。Cランク昇格目前の実力者。


 ② セシリア(魔法使い/アタッカー):派手なローブを纏った、火力至上主義の女性。彼女の魔法は強力だが、詠唱に時間がかかる。


 ③ リード(斥候/スカウト):細身の体で、素早い動きを得意とする盗賊。



 彼らはリアンを待っていたが、彼の背中の弓を見た瞬間、全員が露骨に顔を顰めた。


 ダリウスが吐き捨てるように言った。


「おい、ギルドがよこした『四人目』は、まさか弓術士か? 最弱職と組まされるとは、冗談じゃない」


「私はリアン・アークライトです。弓術士ですが、近接戦闘も可能です」


 リアンは冷静に自己紹介をした。


 セシリアが冷笑した。


「近接? 笑わせないで。ストーン・ゴーレムは私たち魔法使いの最大の獲物よ。硬い外皮を魔法で破壊し、剣士がとどめを刺す。弓術士の『ちまちました矢』なんて、外皮に傷一つつけられないわ。あなたは後方で待機して、私たちが倒した後の素材回収でもしていなさい」


 ダリウスは、リアンを遮るように盾を地面に突き立てた。


「いいか、弓術士。このパーティの役割は明確だ。俺が絶対にゴーレムの攻撃を受け止める壁になる。セシリアが俺の後ろから詠唱し、一撃でゴーレムを破壊する。お前は、俺たちの役割を邪魔するな。特に、俺より前に出るような真似は許さない。分かるな?」


「分かりました。ただし、状況によっては、私の判断で行動させてもらいます」


 リアンは譲らなかった。


 マリナは二人の間に割って入った。


「皆さん、リアンさんは『ナノ・サイト』という驚異的な集中力で戦場の全てを予測できます。彼の指示は、あなた方の安全を確保する最高の手段になるはずです」


「治癒師は黙っていろ」


 ダリウスはマリナを一喝した。


「弓術士の肩を持つとは、お前も頭がおかしいのか」


 結局、和解に至らないまま、四人は鉱山へと出発することになった。リアンはマリナに、自身の情報収集と後方支援を依頼し、単独でパーティの少し後方から追従した。



 3. 役割の衝突と戦闘の混乱


 鉱山の奥深く。四人は目的のストーン・ゴーレムと遭遇した。身長3メートルほどの巨体は、その名の通り石と土くれで構成され、動きは鈍重だが、防御力は凄まじい。


 ダリウスが即座に動いた。


「行くぞ! 俺が注意を引きつける! セシリア、詠唱開始!」


 ダリウスはゴーレムの目の前で盾を叩き、ゴーレムの攻撃を受け止める『タンク』の役割を完璧に果たし始めた。


 セシリアは後方で、高火力の魔法『マグマ・ブレイク』の詠唱を開始する。長時間かかるが、成功すれば一撃でゴーレムの外皮を溶かすことができる。


 リアンはゴーレムの動きを『ナノ・サイト』で観測していた。


(ゴーレムの動きは鈍重。ダリウスさんの防御は鉄壁だ。しかし……セシリアさんの詠唱時間が長すぎる。あと30秒。その間に、ゴーレムは右腕の一撃をダリウスさんの『右足の防御の隙間』めがけて打ち込む。ダリウスさんはそれを受け止めきれず、体勢が崩れる。詠唱は中断する)


 リアンは、コンマ数秒先の未来を予見した。


「ダリウスさん! 右へ一歩! 攻撃の角度が変わります!」


 リアンが叫んだ。


「うるさい! 弓術士は黙っていろ! 俺の防御に口を出すな!」


 ダリウスはリアンの警告を無視した。


 そして、予見した通り、ゴーレムの右腕の一撃がダリウスの右足元を直撃。防御のバランスを失ったダリウスの体勢が大きく崩れた。


「くそっ!」


 ダリウスが苦悶の声を上げる。


 同時に、詠唱中のセシリアの注意が乱れ、詠唱が途中で途切れた。


「ああ!私の詠唱が!」


 セシリアは顔を蒼白にする。


 ゴーレムは、動けないダリウスめがけて、致命的な追撃を振り下ろそうとする。



 4. 役割破壊者



「もう、待てない」


 リアンは弓を構え、走った。彼は弓術士としてではなく、全距離に対応する『役割破壊者』として動いた。


 ゴーレムの右腕が振り下ろされる瞬間、リアンは矢を三本、ソニック・アローで放った。狙いはゴーレムの『右腕の関節部分』。外皮が最も薄い部分だ。矢は外皮を貫くほどの威力はないが、その超音速の衝撃で関節をわずかに振動させ、ゴーレムの腕の軌道を0.5度逸らす。


 ドン!


 ゴーレムの攻撃は、ダリウスの頭上をわずかに外れ、壁に激突した。ダリウスは無傷で済んだ。


 リアンはゴーレムに接近し、ゼロ・ブレイク(ボウ・ブレード)を展開した。彼はゴーレムの攻撃を躱しながら、そのブレードでゴーレムの『足の接合部』を狙い続ける。精密な連続攻撃により、ゴーレムの足元がわずかにぐらつき始めた。


 ダリウスは驚愕し、セシリアはリアンの動きに呆然とする。


「なぜ、弓術士が俺より前にいるんだ! 役割を侵すな!」


 ダリウスは混乱した。


「セシリアさん! 詠唱再開! 俺が15秒間、ゴーレムの動きを最大0.1メートル四方に制限します!」


 リアンが指示を飛ばす。


 セシリアは、リアンの正確な指示と、彼が一人でゴーレムを封じ込めている事実に、戸惑いながらも詠唱を再開した。リードは、リアンの指示で周囲の警戒にあたる。


 リアンはナノ・サイトを駆使し、ゴーレムの次の一歩を予測して、その足元の地面に正確な牽制射撃を打ち込む。ゴーレムは、リアンの精密な攻撃と牽制によって、その場から動くことも、強力な攻撃を繰り出すこともできなくなった。


 15秒後、セシリアの詠唱が完了した。


「マグマ・ブレイク!」


 轟音と共に、溶岩のような炎がゴーレムを直撃。外皮は一瞬で溶け崩れ、ゴーレムは沈黙した。


 討伐は成功したが、パーティメンバーの表情は険しかった。


「なぜ勝手に前に出た! 俺の役割を奪うな!」


「あなたの矢は、私の魔法の邪魔になる!」


 ダリウスとセシリアは、リアンの『功績』ではなく、『役割の破壊』に怒りを覚えた。


「俺がいなければ、あなた方のパーティは崩壊していました。役割に固執し、死を招くよりも、勝利を優先すべきです」


 リアンは淡々と返した。


 しかし、彼らの理解は得られなかった。結局、ダリウス、セシリア、リードの三人は、リアンの「常識外れの戦い方」を受け入れられず、「弓術士とは組めない」と宣言し、その場でパーティを解散した。


 リアンは孤独を選んだわけではない。彼の弓術が、この世界の凝り固まった職業ヒエラルキーとパーティ役割の『壁』を、真正面から打ち破ってしまったのだ。


「ギルドマスターの言った通り、俺の弓術は異端すぎる。だが、俺は弓を曲げない」


 リアンは、マリナと共に、一人で報酬を受け取りにギルドへ戻る。彼は、この日から、孤高の道を歩むことを決意した。

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